難しい病状説明を乗り切るには?〜悪いニュースの伝え方〜
ここ数年、自分1人で病状説明をすることが増えてきました。中でも難しいのが、患者さんへの悪いニュースの説明(治療が上手くいかなかった、緩和ケアの説明etc..)です。
同じように、突然病状説明を丸投げされることも増えてきました。例えばこんな感じに↓
※写真はイメージです
誰だって悪いニュースは患者さんに伝えたくありません。そこから逃げる人、面倒くさがる人もたくさんいます。言い方は悪いですが、いわば敗戦処理のように捉える人さえいます。極端な例ですが、大学病院だと、緩和ケアが決まった途端に主治医が興味をなくし、説明は人に丸投げ、みたいなケースさえ存在します。
当然ですが、雑に説明すれば患者さんの怒りや失望を買ってしまい、関係は立ち行かなくなります。しかし、もし上手く説明が出来れば、患者さんと深い信頼を築き、一緒に治療方針を決められるかもしれません。ここでは悪いニュースの説明が難しい理由と、その対処法について考察します。
悪いニュースの説明はなぜ難しいのか?
結論から言うと、患者さん(または家族)の感情と向き合わないといけないからです。
「なんでこんなことになったんですか!?」
「これからどうなるですか!?」
どこかで一度は聞いたセリフだと思います。悪いニュースを説明した場合、たいていこのようなコメントが返ってきます。
治療の経過や予後の情報は、医療者にとってその後の治療方針を左右する重大です。同じように、患者さんにとっても非常に重い情報となるため、相手は感情的になります。悲しんで涙を流したり、怒ってこちらを非難してきたり、相手の感情に向き合うのは大変なことですし、こちらも凄くエネルギーを使います。
感情こそがコミュニケーションを難しくする最大の要因といっても過言ではありません。
コミュニケーションにおける認知と感情
コミュニケーションにおいる相手の反応は、「認知機能に基づく反応」と「感情に基づく反応」に大別され、これらを意識する必要があります。
医者は頭が良いので認知機能への対応は得意ですが、感情への対応はものすごく苦手です。
ところで、なぜ感情への対応が必要なのでしょうか?それは、感情的になっている人は認知機能が働かず、話が前に進まないから、です。いわゆる「頭が真っ白になる」というやつです。
病状説明の目的は、「その患者さんにとって最善の治療方針を決めること」です。しかし感情に対応できず、相手が冷静にならないままではそれが出来ません。
感情に対応しないまま矢継ぎ早に治療方針の話を進めていく医師も稀にいますが、たいてい思うようにいきません。説明が終わった後で、「話がよくわからなかった」「強引に話を進められた」などとなり、余計に話が拗れることもあり得ます。
結局のところ、感情への対応こそが重要と言えると思います。
感情への対応の仕方
ここではNURSEというスキルを紹介します(参考にした本を下に載せておくので、良ければ読んでみてください)
要は「共感の気持ちを示す言葉がけ」です。こういう言葉がけを使って感情に対応することで、相手が落ち着いて話が前に進むことが多いです。
次に、いくつか具体例を紹介します(主に参考本からの引用です)。もちろんこの通りでなくても良いと思います。
私が学生の頃には、「それはお辛いですね」というワードがよく紹介され、傾聴と共感のスキルとして国家試験にも出ていたと記憶してます。これはNURSEでいうと、「NAME(相手の感情に名前を付ける)」であり相手の感情を「辛い」というワードにして表現しています。ただ字面だけみると他人事に聞こえるためか、実際の臨床現場で使っている人は見たことがありません。あえて実用的にするなら、「それは本当に辛いですよね…(本当に、の部分を強調して言う)」などでしょうか。
最後に、コミュニケーションはあくまで”水もの”なので、スキルがあったからいつも必ずうまくいく、というわけではないでしょう。しかしながら、感情への対処法を知ることで、これまで上手く伝えられなかったモヤモヤが解消されるかもしれません。病状説明も経験と、なによりスキルがモノをいいます。ぜひ現場でも試してみてください。