塾の名前はミスタードーナツ。
ある日の全校集会で校長先生が「2年生から300位以上順位を上げた前代未聞の生徒がいます。2年6組のイトーくん、ちょっと前へ!」と呼ばれ全校生徒の前に出たことがある。
校長から「君はいったいどんな勉強法を? 何か特別な塾にでも行ったのですか?」と聞かれた。
私はちょっと考えて......。
......
...
..
.
小・中学生のとき。
親に「みんなと同じように塾に行きたい」と言えなかった。田舎でただひとつしかない塾にはみんなが通っていて、遊ぶ相手もいない放課後の私は田んぼでカエルをつかまえ、人も車も通らない道路でボールを蹴る。
そもそも塾に行って何をするんだろうかと不思議だった。だって学校で授業を受けているじゃないか。みんな塾でなにやってんだ?
中学までの私は内心、塾に通う人たちを小馬鹿にしていた。性格がねじれていたからひがみもあった。そう、これは単なるひがみで、今これを書くことは「塾に通う人」へのひがみが「塾に通わなかった俺」というプライドに変容しているだけのこと。
そういうわけで高校時代の私は勉強がまったくできなかった。1年生の数学Aの定期テストでは100点満点で2点だった。
高校に入学したての1年間、部活ばかりでまったく勉強しなかったから、順位は学年320人中314位だった。不登校の人もいたから実質ビリケツだ。
通った高校は自称進学校を気取る実質中堅進学校だったから、テストの各教科上位20名と総合点の上位30名が教室の掲示板に張り出されていた。
テストの結果が発表されるとみんな掲示板にむらがって「今回は17位だった」とか「あいつはまた1位だ」という会話がなされる。
私は数学Aの2点を筆頭に総合314位だったから、ただ指を第2関節までしゃぶって羨ましがるモブ。
ああーん、いいな。ちやほやされてる連中が羨ましいな。にしてもランキング上位の連中のあのすまし顔はなんだ? 本当はちょっとドキドキしてんの分かってるぞ。ぶっ飛ばしたいな。あー私もちやほやされたいな。
というわけで2年生になった私は同じサッカー部で勉強が得意な友だちと4人で一緒に塾に通うことにした。塾の名前はミスタードーナツ。ドーナツがおいしい何時までもいられる勉強空間。
ミスドだ。
テスト2週間前からドーナツを食べながら4人で勉強する。ソネという友だちは数学と国語が得意で、タクトは理科・社会のような暗記科目が得意だった。ネオは高校から留学にいくくらい英語が得意。みんな私よりも順位がはるかに高い各教科のスペシャリスト。
毎日みんなでミスドに集まり勉強した。わからないところはみんなに聞きまくった。
「なんでこうなるの?」「これとこれのちがいは?」「もっと簡単な解き方はないの?」
2週間が経ちテストを受けてみる。するとどうだろう。すらすら解けるではないか。
結局、各教科すべてで上位7位以内に入り総合では4位までいった。チョロいじゃん、と思ったものだ。
上の3人はさすがに勉強という習慣が身についているのと、地頭の素晴らしいガリ勉太郎とガリ勉花子だったので、卒業するまで追い越せなかったが満足だ。
ある日の全校集会で校長先生が「2年生から300位以上順位を上げた前代未聞の生徒がいます。2年6組のイトーくん、ちょっと前へ!」と呼ばれ全校生徒の前に出たことがある。
校長から「君はいったいどんな勉強法を? 何か特別な塾にでも行ったのですか?」と聞かれた。
私はちょっと考えて「はい先生! ミスタードーナツという塾がありまして! そこでドーナツを食べながら勉強しました!」と答える。
すると校長は「ウソをつくんじゃありません!」と言うので「校長、本当なんです! 信じてください!」と爛々に反抗すると全校生徒は手を叩いて大爆笑。
ちやほやされていい気分だった。
【関連】自称進学校にありがちなこと