雑貨屋さんの店員さんにモテた10年前の私の話。
今日は過去のモテエピソードを蔵出しして、私のイメージをコントロールできるかを実験してみたい。たぶんイメージはダウンする。
これを書くには語弊を恐れず言うのならダシが必要だ。ダシに使われるのは、そう「niko and…」だ。
niko and…といえば都会のオシャレな雑貨屋さん。
これはniko and…の店員さんとの話。
いまのniko and…がどんな立ち位置なのかはわからないが、いまから10年前のniko and…というのはもうそれはそれはオシャレで、都会の中にある憧れの場所。
冬になるとロングコートにマッシュな人たちや、雑誌ファッジに出てきそうな可愛らしい女の子が行くお店だった。
大学時代、札幌駅の今はなき地下街「パセオ」の眼鏡屋さんでアルバイトしていた私なのだが、その眼鏡屋さんの真向かいにはniko and…があった。クソ田舎育ちの大学生イトーくんは、この都会でのアルバイトに毎日ニコニコしていたわけである。
niko and…パセオ店で働いているのは、これまたいかにもな女性店員さんが多かった。時に服をたたみ、ときにほどよい20%くらいの笑顔で接客し、レジを打ち、という具合なのだが、真向かいの眼鏡屋で働く私は、このお店の店員さんと話す機会は1ミリもなかった。
そのかわり「niko and…の店員さんはおしゃれだなぁ、都会的だなぁ、憧れるなぁ。俺は恋人もいないし、niko and…の人はいいなぁ」と思っていたものである。
ある夜、眼鏡屋さんでのバイトを終えた大学生の私は、閉店作業を終えて着替えを済ませていた。「おつかれさまです〜」と言いながら、お店を出て地下街を抜け歩いていた。時間にして21時半ごろ。家の最寄駅に帰ったら松屋で牛丼を食べるんだ。
少し歩いていると、後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえた。だれかが私を追い抜こうとしている様子。振り返ることはしない。
後ろから甲高い声で誰かが話しかけてきた。
「おや?」と思って振り返ると、そこにいたのはniko and…の女性店員さんではないか。
黒髪ボブになんかniko and…なファッション、話したことはないけど、顔は知ってる憧れのniko and…の女性店員さん。いつもの接客の様子は笑顔20%だが、このときは笑顔80%になっている。
「あの! ちょっといいですか?」
「え、なんでしょう」
「ちょ、ちょっと、友だちになりたいなと思って」
「え!? 私とですか!?」
なんだって〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?
私の表情は笑顔15%。いきなりの状況にとまどってはいるけど、心の中は笑顔100%! で、でも! この人とは話したことがない! どういう風の吹き回しだろう! このときの私はクソカスな大学生、友だち0人の陰キャでありゅ〜!
「どういうことですか?」
「お兄さんとお友だちになりたいな、と思ってまして」
「ど、ど、どういうことですか?」
札幌駅の地下街で立ち止まりながら話す。
「あ、あの、向かいの眼鏡屋さんの男性店員さん何人かいるじゃないですか」
「はい、いますね」
「その中で誰がイケてるかって話をniko and…の中でよくしてて」
「私の中では、お兄さんが1番だなって言ってて」
「わ、私がですかぁ〜」
表情の笑顔60%、心の中の笑顔は6万%! さらに奥深い心の底では「あなたわかってますねぇ〜」という言葉が何度もリフレインしていりゅ〜!
「な、なので、よかったら連絡先を交換させていただいて」
「え、ええ! そ、そ、そんなぁ〜!」
「この紙に連絡先書いてあるんですけど……受け取ってもらってもいいですか?」
「ぜ、ぜひに〜!」
速攻で受け取った。
「よ、よろしくお願いします!」と言って、niko and…の店員さんは行ってしまった。……高まる私の自尊心。田舎出身のイモ大学生、俺は人とはちげーからが心の中の口癖のカス。
話したことはないけれど顔は少し知ってるくらいの人から「あなたのことが気になってます」と言われて連絡先をもらえる、という事象は、自尊心を高めてくれるハプニングランキングの中でも屈指だ。
く、くそ! 鎮まれ俺の自尊心!
タタリ神を鎮めるために必死なアシタカが私の心でヤックルにまたがっている!
さて、自宅に帰った私は、この連絡先が書かれた紙をテーブルの上に置き、腕組みをして、う〜んと考えた。
連絡をすべきか、せざるべきか……。彼女もいない。好意を寄せてくれている? 私は大学生。向こうはなんか年上っぽかったぞ。
う〜ん……
結局、連絡しなかった。
勇気もないし、陰キャだし、ここにがっつくのはなんだかなぁと、なにかが違うなぁと思って連絡しなかった。自尊心は高まった、それでいいじゃないか。
それから彼女とお店で顔を合わせると、
少しだけ喋る間柄となった。
天気いいですね、とか、忙しそうですね、とか。
男はつらい。
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