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空飛ぶクリスマスイブ。

早朝5時におきて家を出る。クリスマスイブの札幌は雪だった。サンタクロースはソリに乗っているが、浮いている。あれはどういう原理だろう。

そういえばクリスマスイブは私の父方の祖母の命日だったなと思い出す。何時に亡くなったのかは知らない。私が生まれる直前に亡くなったので会ったこともない。

朝5時なので部屋は暗い。妻を起こさないように家を出る。始発がないので札幌駅まで歩いて向かおうかと前日に決意する。外に出て雪まみれになりながら歩いていると、タクシーが2台停まっていた。これはありがたいと思い乗り込む。


「札幌駅までお願いします」

「かしこまりました〜」

「歩いて行こうとしていたので助かりました」

「そうですか」

「にしても、こんな朝早くから乗るお客さんっているんですか?」

「お客さん、あなたが乗ってこられたでありませんか」

「たしかにそうですね」


早朝の飛行機に乗る。ひとつとなりの席にはネクタイを締めた50代のビジネスマンがいた。日本航空に乗ったのだが機内では映画を見ることができる。羽田までは1時間と少しだから全てを見切ることはできない。だから私は見ない。

となりのビジネスマンはよくわからない洋画を見ていた。少し時間が経ったころとなりを見ると、さっきまで映画を見ていた彼はすっかり夢の中にいる。眠るのに映画なんざ見るかねと1人思う。



都内に着くとさっきまでのクリスマスイブの札幌がウソのような快晴の青空で、季節は10月かと見紛うほどだった。緑は生い茂り、ダウンを着た人はほとんどいない。


なんやかんやと仕事をする。人に会う。人に会う。人に会う。

人と別れて1人になる。ふとさみしくなった。


誰かがいるから私は存在している。いま私は東京にいるけれど、ひとりでいるだけ。鏡を見たら自分は映っていないのではないか? 

それですぐに空港に戻る。帰りの飛行機は到着遅れで出発が遅れた。

飛行機が飛び立ちしばらくすると、機長がアナウンスを始める。

「現在、当機は山形県上空を飛行中でございます。本来ならばみなさまの左手に山形が見えるはずですが、残念ながら雲の影響で見ることはできません。代わりに右手にはまもなく仙台市の夜景が見えてまいります。こちらは雲がないためご覧いただけるでしょう」

いいね。私は右の非常席窓際に座っていた。機長の話を聞いて、仙台の夜景を見つめる。


機長は続ける。


「飛行機の遅れを取り戻すべく、安全に最大限注意を払いながら、現在当機は最高速度で北海道へ向けて飛行中でございます」


いいね。最高速度か。いい響きだ。


機長はどんな経歴なのだろう。このまま仕事を辞めてパイロットになったらどうなるだろう。もしもパイロットになったのなら、できるだけ愉快な機内アナウンスがしたいなと思う。


サンタクロースはソリに乗って宙に浮く。あ、俺もいま飛行機に乗って宙に浮いてるな。と機内で気づく。


〈あとがき〉
駅に着くと改札口の外にはやけに人だかりがあり、女性たちがみんなでこちらにスマホを向けていました。「え、俺の到着待っててくれたの?」と思っちゃいそうでしたが、誰か特別な人が出てきたのでしょうか。謎です。今日も最後までありがとうございました。

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