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ドラマ見て拍手しちゃう人。

すでに亡くなっているが、私のひいおばあちゃんは水戸黄門が大好きだった。

平日の夕方に再放送されるあの水戸黄門。高校生のときの私は、しょっちゅうひいおばあちゃんの家にいた。

ひいおばあちゃんと私は一緒になって夕方のワイドショーをよく見ていたものだが、どれだけニュース内容がおもしろかったとしても、水戸黄門の時間になると「さ、黄門様の時間だ」とひいおばあちゃんは言う。

テレビの前にむにゃむにゃと正座して、楽しそうに放送開始を待つひいおばあちゃんを見て、私はじゃっかん引いたものである。



水戸黄門の物語の構成内容は至極シンプルで、いわゆる勧善懲悪型。弱きを助け、強きをくじく。


すでに隠居している水戸黄門がその正体を隠しながら全国を旅するのだが、物語では必ず悪人が登場する。

序盤から中盤にかけ町人が苦しむ様子が描かれるが、その終盤、水戸黄門は正体を明かし、スケさんカクさん大暴れ、風車の弥七とかげろうお銀はスパイ的に活躍し、最後はうっかり八兵衛が団子をのどに詰まらせ一同大爆笑。

どこがおもしろいんだ。


水戸黄門は必ずこんな構成で、私は子ども心にこのおもしろさが理解できなかった。同じようなものでいえば藤田まことの『はぐれ刑事純情派』も近いのだが、とにかく子どもには理解できない。子どもはいつだってトムとジェリーに腹を抱えて笑うのだ。


さて、少しだけ話が脱線すると、漫画『ONE PIECE』はこの水戸黄門のような時代劇に多大な影響を受けている。ある悪人がいて、町人が苦しみ、それをルフィたちが助ける。必ずこの構成だ。まさに勧善懲悪型の物語。




ひいおばあちゃんは、水戸黄門が正体を明かすあの有名なシーン「この方をどなたと心得る! 恐れ多くも先の副将軍、水戸光圀公にあらせられるぞ!」のシーンが大好きだった。

それまで正体を隠してきた水戸黄門が社会的立場を利用して悪人を平伏させるあのシーン。それまでのストレスを発散するカタルシスなシーンである。

てめーら、頭がたけーぞぉ!(オラッ)


ひいおばあちゃんは、このシーンで毎回必ず拍手をした。「あいやーーー!」と言いながら満面の笑みで、まるでおもちゃのようにペチペチと拍手した。私は意味がわからなかった。なぜこのばあさんは拍手をおくるのだ。




先日、ドラマを見ていた。

すべて物語には大事な転換点がある。視聴者がストレスから解放されるような、そう、水戸黄門が正体を明かすような、そういう「スカッ」とするシーンがある。

リビングでドラマを見ていた私は思わず「よし、きたっ!」と言って拍手をおくった。自然とでる拍手だ。手を叩いて数秒後、気づく。

あれ? いまおれ、拍手したな。


「……」


ダイニングでスマホをいじっている妻をそ〜っと見てみる。妻は私のことをしらけた真顔で見つめている。物語に没頭して拍手をおくる私をじーっと見ていたのだ。なので言う。


「いま、思わず拍手しちゃったよ。水戸黄門に拍手するひいばあちゃんみたいだわ」

妻は言う。

「うん。ずーーーっと見てた。笑顔で拍手してた」

「だよね。ドラマ見て拍手するようになったら終わりだなぁ」

「うん、やばいよ、終わりだよ」


なにが終わりなのかわからないが、思わず拍手をおくってしまう物語を作る製作陣にはそれこそ拍手をおくりたい。


<あとがき>
いまなら水戸黄門に拍手をおくっちゃうばあちゃんの気持ちがよくわかります。それだけ没頭しちゃってるってことなんですよね。でもこれは果たして万人にあてはまることなのか、それとも遺伝なのかがよくわかりません。ドラマに没頭すると拍手をする、という遺伝プログラムがあるのかは知りませんが、私はひいばあちゃんのひ孫なんだなぁと思えました。今日も最後までありがとうございました。

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