vol.9「やりたいことをやったらいいんじゃない?」 森林組合おわせ 山林作業員 出口真由さん
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今回の「しごとカード」インタビューは、伊勢市から移住し、森林組合おわせに就職、女性では珍しい『山林作業員』として働く 出口 真由(でぐち まゆ)さん。
大学進学が決まった直後に「牛が好き!牧場で働きたい!」という思いが芽生えてしまった出口さん。東京での大学生活を終えて実家に戻ったあと、学校から山林へ驚きの転職!
紆余曲折あれど自分の気持ちに素直な在り方と、女性がほとんどいない山林作業員という仕事のリアルを明るく元気いっぱいに語っていただきました。
この記事は「しごとカード」に登場していただく“紀北町で働くひと達”に、地域おこし協力隊・豊川がインタビューしていくシリーズです。
あなたは、どんな風に働きたいですか?どんなところで、どんな人たちと働きたいですか?あなたが、自分に問いかけ、自分の中にある答えと出会っていく。そのきっかけに、この note がなれたら嬉しいです。
※しごとカードは、紀北町でいきいきと働いている人たちが「仕事との出合いかた」「仕事の魅力や喜び」「紀北町のスキなところ」等を、これまでの人生のエピソードを交えながら、若い世代の人たちに向けて語ってくれたことをカードにしたものです。
1.まずは、やってみないと!
ーー今の仕事に就かれるまでの経緯を教えて下さい。
出口さん(以下、敬称略) 平成8年(1996年)、伊勢市生まれです。
小・中・高校時代を伊勢市内で過ごし、日本体育大学(体育学部健康学科)に進学し、大学時代は東京で暮らしました。
大学卒業後は実家に戻り、伊勢市内の小・中学校に非常勤講師として勤務し、体育や書写を担当していました。
ーー林業に携わる前は、先生だったんですか?
出口 はい。1年間、非常勤講師をしていました。
ーーそれが、なぜ林業に?!
出口 講師をやっているときに「(講師は)自分には向いてないかも…」と感じることがありました。
それに加えて「親元を離れて働きたい」という気持ちもあり、「なにか、他に良い仕事はないかなぁ?」と考えていたんです。
ーー非常勤講師から林業に、どうやってたどり着いたんですか?
出口 もともと、第一次産業には興味を持っていたんです。自然も好きだったし、高校生のときに『銀の匙』というマンガを読んで「牧場って、いいなぁ」と思っていました。
でも、その頃は既に進学先が決まっていて、さすがにここで進路変更は出来ないと思って、そのまま日体大に進学しました。
Silver Spoon(ぎんのさじ シルバースプーン)は、北海道の農業高等学校を舞台とした学園漫画で、作者は荒川弘。『週刊少年サンデー(小学館)』にて、2011年19号から2019年52号まで連載。(ウィキペディアより引用)
ーー講師を辞めてから牧場に行こうとは思わなかったのですか?
出口 思わなかったです。酪農家を目指して牧場で働くとなると、専門的な勉強をする必要が出てきます。
大学を卒業して少ししか経ってないのに、また大学で勉強するのは無理だと判断して、牧場に行くのは諦めました。
私は、元々海が好きで大学時代は釣りをやっていたこともあり「牧場がナシなら、海だ!」と思って、漁業に携わりたいという気持ちが湧いてきました。
そして、紀北町の「第1次産業体験ツアー」を見つけて参加しました。
ーー参加してみて、いかがでしたか?
出口 漁業体験(養殖業)は面白かったです。ただ、自分の希望としては、船で漁に出る漁業をやってみたかったんですよね。
体験のあと、漁師としての就職先をあたってみたのですが、漁師の世界に女性が入るのは現実的には難しくて、諦めました。
2019年2月 林業体験に参加したときの出口さん
ーー漁業をあきらめた後は?
出口 しばらくして、体験ツアーの主催者さんから「山はどう?」と林業体験を勧められたんです。
その時は林業は選択肢になかったのですが、「やらずに断るのは変だな。まずは、やってみないと!」と思って、林業体験に参加しました。
そしたら、面白かったんです。
ーーそうなんですね!林業体験では何をやったのですか?
出口 山を少し登って、苗を植えました。他に、木を切るのも見学しました。
ーー体験のあと、すぐに就職を決めたのですか?
出口 「どうしようかなぁ…」と少し考えたんです。「危ないしなぁ…」と思ったけれど、「何をやっても危ないしな!」と思い直して、林業をやることに決めました。2019年の4月でしたね。
ただ、自分がやると決めても、森林組合さんも山林作業員として女性を採用するのは初めてのこと。
色々と考えて下さり、「まずは3日間だけやって、それから考えてみないか?」とトライアル期間を設けてくれました。
ーートライアル期間はどうでしたか?
出口 めちゃくちゃしんどかったです。
ーー予想以上でしたか?
出口 予想以上かなぁ…もうね、現場に行くまでに、わけがわからないぐらいの急な坂を登るんですよ!現場に着くまでに疲れるんです。
(当時を思い出したのか、消え入りそうな声で)もう、しんどかったですよ…
2.林業するわ!
ーーそんなにしんどかったのに、働くことを決めたんですね。
出口 はい!お昼休みはのんびりできるし、山の中でご飯を食べるのは美味しいし!やることにしました。
ーー林業をやることに対して、親御さんの反応はどうでしたか?
出口 親とは色々ありました。来年度の講師登録をする時期(秋)に「登録したのか?」とめちゃくちゃ問い詰められ、その時はあやふやな答え方をして、はぐらかしていました。
しばらくしてから「講師登録はしない方向で考えとるんさ」と伝えたら「じゃあ、何するの?」と問い詰められる。
「まだ決まってない」と答えると、親は「自分のことをちゃんと考えとるんか!」と怒って、喧嘩ばかり。
そんな状態が数ヶ月続いて、その頃は本当に家に居づらかったです。途中、姉が仲裁に入ってくれたので、親からの問い詰めも和らいで助かりました。
ーー辛い時期でしたね。
出口 そんな経緯を経て、トライアルの直前か直後ぐらいに、親に「林業するわ!」って言いました。
親に「林業って、何するんや?」と聞かれ「苗を植えたり、木を切ったりする。」と答えました。
「住むところはどうするんや?」と言われたので「役場や森林組合のひとが探してくれる。」と答えたら、渋々納得してくれました。まぁ、事後報告みたいなもんですね(笑)。
そして、2019年6月に紀北町に来て、山林作業員の仕事が始まりました。
ーー山林作業員になって1年以上経った今は、どんな作業をしていますか?
出口 除伐(じょばつ)、間伐(かんばつ)、防護柵設置、苗植え、下刈り、などですね。ほとんど山の中に入って作業しています。
・苗植え(植林):山の斜面に、苗木を1本ずつ手作業で植えていくこと。桧(ひのき)の場合は、1ha(100m×100m)あたり、3000本ほど植える。
・下刈り:植えられた苗木の成長を妨げる植物を除去すること。雑草などが生い茂った夏場におこなう。
・除伐(じょばつ):植栽木の成長を邪魔するような灌木などを伐ること。
・間伐(かんばつ):植栽してから20~30年経って混み合った林の立ち木を一部抜き伐り(ぬききり)、林内環境を良くし樹木が健康に育つようにする間引き作業のこと。 (森林・林業学習館HPより一部引用)
ーー作業の大変さは予想と比べてどうですか?
出口 めちゃめちゃしんどいです!「絶対に、これはイヤ!」と思う作業は、植えること(苗植え)です。
ーーどうしてですか?
出口 苗植えは、150本の苗を担がないといけないんですよ。それも、山の上まで!それが地獄で…地獄…地獄なんです…
(出口さんは、地獄を3回も仰っていました・笑)
特に、雨が降った後の苗はめちゃくちゃ重いんですよ。30kgぐらいあるんじゃないかな。
それを背負って、植える用具を持って、「よいしょ、よいしょ」と登っていくんです。もう、腰は痛いし、肩も痛いし。自分にとっては一番しんどい作業です。
ーー好きな作業は?
出口 間伐(かんばつ)ですかね。チェーンソーを使うのが好きなんです。今の作業場所の木は太いので、楽しいです。
でっかい木を倒すのは気持ちいいんですよ!倒れるとき、1人で「いぇーーーい!」って喜んでます。ハッハッハッ。
3.冬のカップラーメン。
ーー山林作業員のしごとの魅力は?
出口 昼休みに山の中でのんびりできることかなぁ。気持ちいいんですよ。
作業中はしんどくて、いろいろ考えている余裕は無いんですが、下まで降りたときは「やっと降りてきたー!」という達成感がありますね。
1日目に上まで登って、2日目からどんどん下に向かって降りていって、下まで降りられた時は「やったー!下まで来たー!」と思うんですよ。
「終わりーー!!!」と思うときは、本当に嬉しいです。
ーーこの仕事の喜びは?
出口 冬は、カップラーメンがめちゃくちゃ美味しいんです!あったかいものが冷えた体に染みわたります。味噌汁も美味しいですね。
ほかには、木を切ったあとに、上を見上げると陽が入るようになってて、すごく綺麗なんですよ。この仕事をやっていなかったら見られない景色ですね。
それを見ると「(自分は)しっかり作業やっとるな。」「しっかり切っとるなぁ。」と思います。
4.息抜きは大事。
ーーこの仕事で、大事にしていることは?
出口 息抜きは大事だなって思います。「しんどいときは、あまり無理せん(無理しない)。」って感じですかね。
しんどいと感じる時は、早めに休憩をいれたり、「ちょっとしんどいです。」と周りに伝えるようにしています。
ーー今の目標は?
出口 体力を落とさない!
ーーそのために何かやっていますか?
出口 筋トレをやってます。班長の家にはトレーニング器具が揃っているんで、班長の家に通って鍛えます。
ただ、どう頑張っても男性には追いつけない部分があります。それは仕方ないと諦めてはいますが、でも、離されたくない!(笑)。筋トレして、頑張ります!
5.海が好きです。
ーー紀北町の好きな場所は?
出口 海が好きです!夏は、暇があれば、1人で小山浦(おやまうら)の海に泳ぎに行ったりしていました。
SUP(Stand Up Paddleboard(スタンドアップパドルボード)の略)をやっているので、夏は道瀬(どうぜ)の海で、しょっちゅうやっていました。(写真:道瀬海岸)
ーー紀北町にきて良かったですか?
出口 はい。ひとは優しいし、喋り方も優しい。ほんと良かったですよ。楽しいです。
仕事はしんどいけど、「しんどい」って言えてるうちは大丈夫だと思います。笑顔で言ってるし(笑)。「しんどい」って言えなくなったら要注意ですけどね。
仕事がしんどい分、フリータイムを楽しめるっていうのは、あると思います。仕事は16時に終わり、あとはフリーです。最近はバレーボールを始めました。
自炊する余裕もあるし、早寝早起きでめちゃくちゃ健康的な生活です。いろんなことが、こっちに来てみやな(来てみないと)わからんことだと思うので、紀北町に来て本当に良かったです。
6.やりたいことをやったらいいんじゃない?
ーー二十歳のころの自分に言葉をかけてあげるとしたら?
出口 4年前の自分に、ですか?「やりたいことをやったらいいんじゃない?」かな。『若いうちに!』ってね。
ーー今もお若いですが(笑)。
出口 仕事に就いたら、長い休みとか取れないじゃないですか。だからこそ、大学時代のあの長い休み!
卒論がおわって、あとは卒業するだけというときの休み!「あれを使わないと!!!」と思いますよ。旅行もできるし。
ーー好きな言葉は?
出口 一時期、「笑えるって、ええことやなぁ。」って、言ってました。「笑えるって、幸せやん。」とか。そう言って笑ってましたね。
ーー出口さんが笑顔で元気にそう言っているのを見たら、私も元気をもらえました。ケガに気を付けながら、山林作業員としての益々のご活躍を祈っています。今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
【森林組合おわせ 山林作業員・出口真由さんからのメッセージ】
・まずは、やってみないと!
・息抜きは大事。
・笑えるって、幸せやん。
・仕事がしんどい分、フリータイムを楽しめる。
・やりたいことをやったらいいんじゃない?
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回の 森林組合おわせ 山林作業員・出口真由さんのお話はいかがでしたか?
あなたの中にある仕事に対する思いや大切にしていることを感じるきっかけになったら嬉しいです。
(取材先情報)森林組合 おわせ http://www.owase.or.jp/home/
三重県北牟婁郡紀北町便ノ山200 TEL 0597-32-0275
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