春➨番
あなたはえっちな人だ。
私という人間の、思考の素肌がチラ見えしているところを、さもどうということもない顔で漁っている。
「春一番」が好きだ。
情調もへったくれもない強風が好きなわけではない。
あいつは花粉を飛ばし散らすから嫌いだ。
私が好きなのは、曲の「春一番」。キャンディーズの歌っているアレだ。
ウルフルズ、ゆず、いきものがかりなどなど、まぁまぁカバーされているようである。(まぁまぁと言ったのは、往年のヒットソングは大抵カバーされているもので、「春一番」も言わずもがなヒットソング故にカバーされていて当然なのである。あの「上を向いて歩こう」にいたっては、カバーした歌手が三桁に到達しているという。首を痛めそう。)
キャンディーズの「80年代ですのよ~」という声色に耳を甘ったるくしてしまいがちだが、カバーに関しては、なぜか、なぜなのか、オラついた輩が得意でないというのに、どうしてか、湘南乃風のカバーが一番しっくりきてしまった。
湘南乃風のカバーは運送会社のCMのために歌われたものであり、引っ越しシーズンにピントを合わせたものになっている。そもそも、自分で「春一番」が好きだ!、と思ったのもこの曲を聴いたのがきっかけ。
若旦那、という歌手。
画像検索すると、アブナイ職業のおじさんを素材の味をそのままに活かした風貌である。その声色は、ざらざらと、情調もへったくれもない強風寄り。
私はオラついたものへのアレルギー持ちでもあるので、拒否反応を起こすものかと思えば、彼の「春一番」はアレルゲンではなかったらしく、自分でも首を傾げるところ。
歌詞をちゃんと確かめながら聴くと、合わないことこの上ないのだが、聴く者に訴えかける強さがしっくりと心地よく感じられた。
オラオラしているのに「してみませんか」なんて口調・・・ギャップだぜ・・・。そういうの、需要ある。
「もうすぐ春ですね」の歌詞で、手を伸ばし何かを掴むような素振りがある。「単に曲の調子に合わせるとそうなるんだろ」と言われればそこまでなのだが、せっかくなので意気揚々と邪推してみよう。邪推は趣味だ。
①顔を恥ずかしげに出しているつくし説
②花粉をキャッチする細胞の気持ちになっている説
③「春」を掴んでいる説
③ぐらいしか言及の価値が無いので、邪推失敗じゃねーかなコレ。
「春」とは何か。
今年の今月の今日の見解としては、「掴みどころのない己の心」とする。
掴めていると思い込む根拠の無い自信が生まれてしまうのも、決して掴めないと項垂れることもまた春らしい。
「もうすぐ春ですね」という歌を、3月のそこそこ暖かい頃に書いているのは遅過ぎるのではないかと、平安時代くらいから先取り大好きな日本人的遺伝子がぶつくさ文句を言っている。
春一番がすっかり吹き抜けた頃に、ようやく周回遅れでびろんびろんのゴールテープを踏んでいるくらいの人間だから仕方がない。