1:始まり
美味しいものが好きだ
テラテラと光る油の浮いた艶かしいお肉も
プリンっと弾けそうなお刺身も
口の中で踊り出しそうなイクラやキャビア
ねっとりと体に絡み付きそうなフォワグラ
宝石のようにキラキラと輝くワイン
漆黒の闇にも負けず劣らないずっしりしたガトーショコラ
ふわふわの雲のようなシフォンケーキ
どれもこれも私の食欲と心を満たしてくれる。
しかし、3大欲求とはよく言ったものでお腹が満たさせると性欲も満たしたくなるのが人間の性だろう。
私はお金持ちが好きだ。
美味しいご飯と綺麗なホテル
ふかふかのベッドには滑らかなシルクのシーツがピンっと敷いてある。
ジャグジー付きの丸いバスタブには泡の海
虹色のネオンの中に沈めば目の前にはキラキラの夜景が広がる。
高いワインもブランデーもカクテルも
葉巻の香りと一緒に吸い込んで快楽の世界にも連れていってくれる。
幸せ
明日のご飯の心配も、電気のつかない家に帰る憂鬱さも、母親の金切り声も何も無い。
ちょっと不満だと言えばこの人のセックスがそこまで好きじゃない事だけだ。
それでも快楽的な夜を過ごして、心地のいい清潔な寝具で人肌の温かさを感じながら夢の世界へ落ちていける。
明日の朝食には焼きたてのパンが食べたい。
きっと私は平凡や普通の世界にはもう戻れないのだろう。
私の幸せは歪で異状でドロドロのヘドロのような異様なものだろう。
それでも求めずには居られない。