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花虻はかわいい。
多くの人はアブと聞くとまず第一にあの血を吸う忌まわしい虫を思い浮かべるだろう。しかし花虻は花の蜜をなめることを専門に暮らしている平和なアブなのである。花虻の仲間は日本国内に400種類以上もいるそうで、たいていは体が小さく蜂のような黄色と黒の縞模様をしている。

春先の黄色い花々の間を小さな花虻がブーンと羽音をたてながら飛び回っていると、実にほのぼのとした良い気分がする。私はぽかぽかと暖かい日にはひねもす花虻を眺めて過ごしたいくらいである。
花虻はまだ他の虫たちがぼんやりとしている春先から活発に飛び回る。彼女たちは黄色い花がすきだから、春先の野山には黄色い花がたくさん咲く。黄色い花も花虻がすきなのだ。
黄色い花が花虻のことを好きなのは、彼女たちが花粉を運んでくれるからである。彼女たちは美味しい花の蜜をなめながら体いっぱいに花粉をまぶし、他の花へと運んでいく。ただし花アブはあまり頭が良くないので、ある特定の花を選んで蜜を探すということはできない。ただ目の前に現れた花にとまって蜜があれば舐めるし、無ければまたブンと飛んでいくのである。花はせっかく花粉を受け渡しても、自分と同じ種類の花に運んでくれなければ意味がない。そこで春先の黄色い花たちは同じ種類で一所に集まって花を咲かせ、花虻たちがその間を飛び回ってくれるように工夫しているのである。
ちなみに「アブはあまり頭が良くない」というのは植物学者の稲垣栄洋さんが書いておられたことだから、それが一般論なのか著者の偏見なのかは知らない。

それでは頭の良いミツバチの仲間なら一体どうするのか。彼女たちはある特定の花と固い協定を結んでいて、花は袋をこしらえてその奥に蜜を隠し、蜜のありかと潜入方法を知るミツバチのみがそれを舐めることができる。こうすることでミツバチは特定の花の蜜を独占することができ、花は確実に同種に花粉を運ばせることができるという。

しかし花虻は(稲垣氏いわく)あまり頭が良くないから、たとえ花からそんな高度な提案をされても、ただぼんやりと途方に暮れるしかないのである。春先の黄色い花たちもそのことをよく知っているから、決して蜜を隠すなんていう意地悪はしない。春先の黄色い花々は実におおらかな心をもって一所に群生し、寛大に花アブたちを迎え入れる。春先の黄色い花は優しい。幸せの花園である。花アブたちもまた平和な生きものである。
私は死んだら極楽浄土に往生すると決めているが、万が一極楽がダメとなったら、生まれ変わって花アブになろうと思う。

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