見出し画像

大国主命(オオクニヌシ)をカジュアルに深掘り解説

はじめに

大国主命(おおくにぬしのみこと)は、日本神話で重要な役割を果たす神様です。出雲の神話を中心に登場し、国造り(国土の開拓・治療・農耕など)や縁結び(良縁を結ぶ)の神として広く知られています​

kandamyoujin.or.jp

。その名は「大きな国の主(あるじ)」を意味し、古事記では大穴牟遅神(オオナムチノカミ)とも呼ばれました。優しく親しみやすい神様としてだいこく様とも呼ばれ、島根県の出雲大社をはじめ全国各地で祀られています​

kandamyoujin.or.jp

。この記事では、そんな大国主命の神話上の活躍や性格、人間くさい魅力、他の神々との関係、ゆかりの神社、そして現代のポップカルチャーでの登場例まで、初心者にもわかりやすく深掘り解説します。


神話における役割

大国主命の物語は、日本神話の中でもドラマチックで親しみやすいエピソードが満載です。ここでは、その代表的な場面をいくつかストーリー仕立てでご紹介しましょう。

因幡の白兎:最初の試練と恋のはじまり

まず登場するのが、有名な「因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)」の伝説です。大国主命はたくさんいる兄弟神たちの中で末っ子にあたり、心優しい性格でした​

izumooyashiro.or.jp

。ある日、兄たちと一緒に美しい八上比売(やがみひめ)という姫に会いに行く旅の途中、皮を剥がれて苦しんでいる白ウサギに出会います。兄たちは意地悪にもウサギに「海水に浸かって風に当たれば傷が治る」と嘘を教え、ウサギはその言葉を信じてしまいました。海水で傷口を洗ったうえ風に吹かれたウサギの痛みは増すばかり…涙を流すウサギに、後から来た大国主命(だいこく様)は優しく声をかけます。そして「真水で身体を洗って、蒲の穂(ガマ)の花粉を身体にまぶすといいよ」と正しい治療法を教えてあげました​

izumooyashiro.or.jp

。言われた通りにすると、ウサギの傷はみるみる癒えて元の白ウサギの姿に戻ります​

izumooyashiro.or.jp

。助けてもらったウサギは大国主命に感謝し、「八上比売が選ぶのはきっとあなたですよ」と予言しました。果たして八上比売は兄たちではなく、荷物持ちをしていた大国主命を婿に迎えると宣言します。こうして優しさによって姫のハートを射止めた大国主命ですが、このことで兄神たちの嫉妬と怒りを買ってしまうのです。


試練と復活:兄たちの嫉妬

八上比売を自分ではなく弟に奪われた形となった八十神(やそがみ)とも称される兄たちは、怒りに燃えて大国主命の命を奪おうと企みます。まず兄たちは大国主命を山へ連れて行き、「山からイノシシが降りてくるから捕まえろ」と命じました。しかし転がってきたのは焼けた大岩!素直で疑うことを知らなかった大国主命は兄たちの言葉を信じ、本物の猪だと思い込んで岩に飛びついてしまいます​

futabanet.jp

。その瞬間、彼は岩の熱で焼かれてしまい命を落としてしまいました。けれどもここで終わりではありません。嘆いた母神が高天原の神様に助けを求め、大国主命は不思議な貝の力で蘇生します(再生神話と呼ばれるエピソードです)。しかし兄たちは諦めず、今度は大木を割って仕掛けた罠で挟み潰し、二度目の死に追いやりました。それでも母の尽力で再び命を取り戻した大国主命は、さすがに兄たちと距離を置かざるを得ず、遠い地へと逃れる決心をします。こうして彼は自らの命を守るため、神々の住む黄泉に近いとされる根の国への旅に出ることになるのです。


スサノオのもとでの試練とスセリヒメとの結婚

大国主命が辿り着いた根の国で待っていたのは、かつて高天原を追放された須佐之男命(スサノオノミコト)でした。実は大国主命は古事記によればスサノオの六世の子孫にあたるとされ(日本書紀ではスサノオの息子ともされています)​

futabanet.jp

、縁戚関係にあります。その根の国でスサノオの娘である須勢理毘売(スセリビメ)と出会い、二人はたちまち恋に落ちます。しかし、娘との恋愛に怒ったスサノオは大国主命に次々と過酷な試練を課しました。


  • 蛇の部屋の試練:大国主命を蛇(大きな蛇神)のうごめく部屋で一夜明かさせようとします。絶体絶命でしたが、スセリヒメがこっそり貸してくれた魔法のスカーフのおかげで蛇たちは近寄らず、無事クリア。​en.wikipedia.org

  • ムカデとハチの部屋:次の夜はムカデやハチがびっしりいる部屋に入れられますが、こちらも同じくスセリヒメのスカーフの力で害虫たちを防ぎ切りました​ en.wikipedia.org

  • 野原での火攻め:さらにスサノオは広い野原に矢を放って「取って来い」と命じ、大国主命が矢を探している隙に野原に火を放ちました。燃え盛る炎に囲まれ絶体絶命の彼を救ったのは一匹の鼠です。鼠が「こちらへお逃げ」とばかりに穴を掘ってくれ、大国主命は地中に避難して難を逃れました。しかもその鼠はスサノオの放った矢まで見つけ出して持って来てくれたのです​ en.wikipedia.org

  • ムカデとシラミ?の試練:最後にスサノオは「自分の髪のシラミを取れ」と言いつけます。しかしスサノオの髪にいたのはシラミではなく毒虫たち(ムカデ)でした。そこで大国主命はスセリヒメからもらった赤土と木の実を嚙み砕き、あたかも虫を噛み潰しているかのように見せかけます​en.wikipedia.org

難関をことごとく乗り越えた大国主命は、眠るスサノオを尻目に機転を利かせます。なんとスサノオの髪を天井の梁に結び付け、抜け出そうとしたのです​

en.wikipedia.org

。さらにスサノオの家宝であった神剣と神弓矢、そして愛用の琴までも持ち出し、スセリヒメを連れて逃走しました​

en.wikipedia.org

。逃げる途中、うっかり琴が木に触れて「コトーン…」と音を立ててしまい、これでスサノオが目覚めてしまいます。怒ったスサノオは家ごと引き倒さんばかりの勢いで追いかけますが、地上と黄泉の境である黄泉比良坂まで来たところで追跡をやめました。そして、駆け落ち同然に逃げ切った大国主命に対し、スサノオは苦笑い混じりの祝福を与えます。「これからは ‘大国主神’ と名乗るがよい。娘をよろしく頼む」と、大国主命を新たに**「大国主大神」**と認めたのです​

en.wikipedia.org

。かくして大国主命は試練を乗り越えスサノオの娘を妻とし、スサノオ直伝(?)の武勇と知恵も身につけて地上へ帰還しました。


国造りの偉業と国譲り

スサノオから正式に認められた大国主命は、持ち帰った神剣と神弓矢の力もあって、地上で彼を苦しめていた兄神たちを一掃しました​

en.wikipedia.org

。こうして天下る神(天神)ではなく国つ神として、葦原中国(あしはらのなかつくに)と呼ばれる地上世界の王となったのです​

en.wikipedia.org

。ここから大国主命は、本格的に国造り(くにづくり)に励みます。さまざまな土地を巡り、そこに住む神々と協力しながら国土を開拓し、稲作や医療など人々の暮らしを豊かにする術を伝え広めました。小さな体で知られる少彦名命(すくなひこなのみこと)という神様とも力を合わせて、病を治す方法や温泉の活用なども広めたと伝えられています。このようにして大国主命は地上世界を立派に治める王となっていきました。


しかし、その平和も永遠には続きません。高天原(たかまがはら)の主神・天照大御神(アマテラスオオミカミ)は、自分の孫である瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)を地上に天孫降臨させる計画を立てます。つまり、大国主命が治める国を**「譲ってほしい」と願ったのです。突然の国譲りの要求に、大国主命も最初は簡単に「はい、どうぞ」と言えるはずもありません。神話によれば、大国主命はまず自分の息子である事代主神(ことしろぬしのかみ)と建御名方神(たけみなかたのかみ)に相談しました​

jinjahoncho.or.jp

。長男の事代主は「畏れ多いことです。この国を天神の御子に差し上げましょう」とすんなり賛成しますが、次男の建御名方は「何を言うか。我が国に来て勝手なことを!」と怒り、使者として降りてきた建御雷神(たけみかづちのかみ)に力比べ**を挑みました​

jinjahoncho.or.jp

。しかし力自慢の建御名方も相手が悪かったようです。建御雷神に手を掴まれるとその腕は氷柱のように凍りつき、次に剣の刃のようにヒラリと変幻し、恐れをなして敗北しました​

jinjahoncho.or.jp

。建御名方神は追われて信濃国(現在の長野県)まで逃げ延び、ついに降参します。そして父大国主命の命に背かないこと、事代主神の決定に従うことを誓いました​

jinjahoncho.or.jp

。かくして大国主命の二柱の息子も天照大御神側に従うことになり、いよいよ大国主命も決断のときを迎えます。


大国主命は天照大御神の要求を受け入れる代わりに、あるお願いをしました。それは、自分がこれから隠居するための立派な神殿を建ててほしいということです。天上の神殿と同じように立派な宮を地上に築いてくれるなら、私は姿を消しましょう――そう願い出たのです​

jinjahoncho.or.jp

。この条件を天照大神も受け入れました。こうして大国主命は自ら統治してきた国(土地)を天孫族に譲り、自身は目に見えない幽世(かくりよ)=霊的な世界に身を隠して治める存在となったのです​

en.wikipedia.org

。大国主命が求めた新たな神殿こそ、後に出雲大社として知られる神社でした。平安時代の記録には、出雲大社(当時の出雲の大神殿)は日本一高い建物として記されているほど、荘厳で巨大な社殿だったと言われます​

jinjahoncho.or.jp

。地上の統治権を譲り渡した大国主命ですが、その見返りとして人々から永遠に祀られる存在となったとも言えるでしょう。こうして天孫族のニニギノミコトは地上に降り、やがて神武天皇へと続く皇統を開くことになります。一方、大国主命は姿を消しましたが、縁結びの神様として現代まで厚い信仰を集めることになるのです。この国譲りの神話は、単なる神話でありながらもどこか政治的な駆け引きや人間臭さを感じさせる物語でもあります​

izumo-kankou.gr.jp

。大国主命は武力ではなく知恵と交渉で丸く収め、自らの退場すら前向きに捉えた、まさに“大人な神様”とも言えるでしょう。


性格や特徴

大国主命の神話を振り返ると、その性格や特徴がとても人間味豊かに描かれていることに気付きます。神様でありながら完璧超人ではなく、喜怒哀楽や失敗、成長が描かれている点が彼の魅力です。

まず何と言っても目立つのは心の優しさ思いやりです。因幡の白兎のエピソードで見せたように、苦しんでいるウサギを放っておけない親切な性格でした​

izumooyashiro.or.jp

。兄たちに荷物持ちをさせられても文句ひとつ言わず、ウサギに対しても丁寧に治療法を教えてあげる姿から、素直で純粋な人柄が伝わってきます。また、その素直さゆえに人を疑うことを知らない一面もありました。例えば兄たちの「これはイノシシだ」という嘘を信じて焼け石に飛びついてしまったのは、大国主命の純粋さゆえの悲劇でした​

futabanet.jp

。普通なら一目見て石と分かりそうなものですが、「兄たちが言うのだから間違いない」と信じてしまうあたり、少しお人好しで憎めない性格と言えるでしょう。


しかし、大国主命は単に優しいだけではありません。幾多の試練を経ていく中で知恵勇気も発揮していきます。スサノオのもとでの試練では、妻となるスセリヒメの助けを借りつつも、自ら機転を利かせて難局を切り抜けました。最後の逃走劇で見せた大胆な策略(髪の毛を梁に結び付けるなど)は、彼の**ずる賢さ(良い意味での知恵)**や行動力を物語っています。敵わない相手と正面から戦うのではなく、知略でもって勝利を掴むあたりは、ただの善良なお人好しではない、したたかな一面も感じられます。

また、大国主命は神話の中で何度も死に、何度も蘇るという特異な経験をしています。二度までも命を落としながら復活した神は珍しく、ここから「再生の神」「不死身の神」といった一面も語られることがあります​

futabanet.jp

。死の苦しみを知っているからこそ、人の痛みに寄り添える優しさがあるのかもしれません。同時に、一度はどん底に落ちながらも這い上がる「逆転劇」の主人公でもあり、現代の私たちから見ると努力と復活のヒーローのようにも映ります。「いじめられっ子が頑張っていたら、ちゃんと見ていてくれる存在がいてチャンスを与えてくれる」――この因幡の白兎の神話には、そんな日本版シンデレラストーリー的な要素も指摘されています​

kokugakuin.ac.jp

。大国主命自身、弱さを抱えながらも最終的には大逆転で地位を得る姿は、私たち人間にも通じる勇気を与えてくれます。


加えて、大国主命は人間くさい感情も持ち合わせています。神話には直接描かれませんが、例えばスセリヒメという嫉妬深い妻を持ったために、先妻の八上比売が怯えて実家に帰ってしまうというエピソードも伝わります​

izumo-shinwa.com

。八上比売は出雲に嫁いだ後、嫉妬深いスセリヒメに恐れをなして泣く泣く大国主命を諦め因幡の国に帰りました。そして帰郷の途中で子供を産み、その子を木の股に残した――という、まるで昼ドラのような話もあるのです​

izumo-shinwa.com

。浮気と嫉妬、別離とシングルファザー(?)といった家庭内ドラマまで抱えていたとは、なかなか親近感が湧きませんか? このように、妻や子供たちとの関係でも波乱含みだったあたり、家庭人としての悩みまで持っていたように見えるのが面白い点です。


最後に、大国主命の性格を語る上で忘れてはならないのが、その寛容さリーダーシップです。国譲りの交渉では、激しい戦いではなく円満な譲渡という道を選びました。自ら一歩引いて次の世代(天孫族)に国を譲る決断は、容易なことではありません。自身の退位条件として立派な神殿を作ってもらうという要求も、ある意味したたかですが、裏を返せば「自分は姿を消すから、あとのことは頼む」という潔さでもあります。この物語は政治的な駆け引きを思わせる一幕ですが、その中での大国主命はまるで老練な政治家のように振る舞い、円満解決を図りました​

izumo-kankou.gr.jp

。武力衝突より話し合いを選ぶ平和的な性格、そして最後には自分を祀るよう提案するちゃっかりした一面まで、本当に人間臭くて魅力的なキャラクターと言えるでしょう。


他の神々との関係

大国主命は八百万の神々(やおよろずのかみ)の中でも中心的な存在であり、その交友関係(?)や縁戚関係も神話を読む上で興味深いポイントです。特に有名なのは、須佐之男命(スサノオ)との関係高天原の神々との関わりでしょう。

父系譜と須佐之男命との縁

前述した通り、大国主命はスサノオの子孫(あるいは日本書紀では息子)と位置付けられています​

futabanet.jp

。スサノオはヤマタノオロチ退治で有名な荒ぶる神ですが、その子孫にあたる大国主命は対照的に穏やかな性格で描かれています。それでも血は争えないのか、スサノオから受け継いだ勇敢さ行動力も垣間見えます。根の国でのエピソードでは、スサノオが大国主命に試練を与える厳しい岳父(しゅうと)として登場し、命を狙うほど意地悪をしますが、最終的には娘婿として彼を認めました。髪を梁に結ばれて天井から逆さまに吊るされるという間抜けな姿を晒したスサノオですが、怒りよりも大国主命の知恵と胆力を評価したのでしょう。逃げる大国主命を追いかけながらも、最後には「大国主神」という新しい名前まで授け、娘を託しています​

en.wikipedia.org

。これはいわばスサノオから大国主命への“家督相続”のようなもので、地上世界の統治者の座を正式に譲り受けたことを意味します​

kokugakuin.ac.jp

。スサノオにとって大国主命は単なる婿以上の存在、すなわち自分の意志を継ぐ後継者になったわけです。このように二柱の関係は、最初は緊張関係にありながらも最終的には強い信頼と絆で結ばれたと言えるでしょう。スサノオの荒々しさと大国主命の穏やかさ、一見正反対の親子関係ですが、お互いを補完し合うような興味深い関係性です。


地上の神々のリーダーとして

大国主命は地上界の神(国つ神)たちの長として描かれます。兄弟神たちとは確執もありましたが、最終的には彼らを従えて葦原中国を治めました。また、国造りでは少彦名命をはじめ様々な神と協力しています。少彦名命とはまるでバディのような関係で、二人で力を合わせて医療や農耕を広めたとされます​

kandamyoujin.or.jp

。実はこの少彦名命こそ、のちに七福神の恵比寿様と同一視される神様です。ある伝承では、国譲りの際に大国主命の長男・事代主神が海に消え去る描写がありますが、これが海の彼方へ去った恵比寿様=事代主神とも言われます。そう考えると、大国主命と恵比寿(事代主)は親子の関係でもあります。奇しくも七福神の中で大国主命は大黒天(だいこく天)と同一視され、恵比寿と大黒はセットで祭られることも多いコンビです。親子で七福神になっているなんて面白いですね。


さらに興味深いのは、大国主命が他の多くの神々から慕われているという点です。毎年旧暦の10月になると、日本中の八百万の神々が出雲大社に集まるという伝説があります。出雲では10月を「神在月(かみありづき)」と呼び、他の土地で神無月(神が不在の月)と呼ぶのとは対照的です。これは大国主命がホスト役となって全国の神々を招集し、人々の縁組について会議をするからだ、なんて言われたりもします。そのおかげで大国主命は「縁結びの神様」としてのイメージが一層強まったとも考えられます​

izumooyashiro.or.jp

anjer21.jp

。実際、出雲大社では神在祭という行事があり、全国から集まった神々を歓迎し縁結びを祈願します。こうした伝説からもわかるように、大国主命は神々のまとめ役的存在でもあるのです。


高天原の神々との関わり

一方で、大国主命は高天原の神々(天つ神)との関係では譲歩役となりました。天照大御神を頂点とする高天原の勢力は、最終的に大国主命から国を受け継ぐ形になりました。大国主命自身は直接天照大神と相まみえる場面こそありませんが、天照大神が派遣した使者たち(例えば建御雷神)と駆け引きを行っています。前述の通り、国譲りの際には子どもたち(事代主神・建御名方神)と協議した上で天照側に国譲りを了承しました​

jinjahoncho.or.jp

。自らは表舞台を去り、見えない世界の支配者となる道を選んだのです​

en.wikipedia.org

。この出来事は、神話の背景として出雲という地方勢力が大和朝廷に服属していく歴史を象徴しているとも言われます​

en.wikipedia.org

。大国主命は地上の王から退いた後も、幽冥界の王として君臨すると同時に、地上では壮大な社に祀られる神霊となりました。ある意味、高天原の神々とは敵対から協調へと関係性が変化したとも言えます。争いではなく落とし所を見いだした大国主命の選択は、高天原の神々から見ても賢明なものだったでしょう。こうして天つ神と国つ神の橋渡しをした大国主命は、神々の世界の円満な世代交代を実現した立役者とも言えます。


大国主命が祀られている神社

日本各地には大国主命を祀る神社が数多く存在します。その中でも特に有名なのが、島根県出雲市にある**出雲大社(いずもたいしゃ)**です。出雲大社の御祭神こそ大国主大神であり、日本中から厚い信仰を集めています。縁結びの神社として若い人にも人気が高く、毎年多くの参拝客が訪れています​

dot.asahi.com

。出雲大社は先述の国譲り神話で大国主命が求めた神殿にあたるとされ、その由緒正しき歴史から「神話のふるさと」とも称されます。古代には本殿が現在よりも遥かに高層で巨大だったという伝承もあり、平安時代の文献には「雲を突くほどの高さ」と記録されるほどでした​

jinjahoncho.or.jp

。現在でも大注連縄(おおしめなわ)の巨大さや厳かな社殿の佇まいから、大国主命の偉大さを感じ取ることができます。


出雲大社以外にも、大国主命ゆかりの神社は各地に点在します。例えば鳥取県の「白兎神社」は、因幡の白兎伝説の舞台とされる地にあり、大国主命と白ウサギを祀っています。可愛らしいウサギの石像が迎えてくれる、神話ファンにはたまらないスポットです。また、奈良県桜井市の「大神神社(おおみわじんじゃ)」は大物主神を祀る日本最古の神社として有名ですが、この大物主神は大国主命の別名・御魂(みたま)と考えられています​

en.wikipedia.org

。大神神社ではご神体が三輪山そのものであり、大国主命の神霊が山に宿ると伝えられ、酒造や薬の神としての信仰も篤い場所です。


さらに、東京都の「神田明神」も大国主命(大己貴命〈おおなむちのみこと〉)を主祭神の一柱としています​

kandamyoujin.or.jp

。神田明神では大国主命の像(だいこく様の像)が境内にあり、触ると御利益があるとされるほど親しまれています。正式には大己貴命と表記されますが、説明を見ると「島根県の古社・出雲大社の御祭神でもあり、国土経営・夫婦和合・縁結びの神様としてのご神徳があります」と紹介されています​

kandamyoujin.or.jp

。まさに出雲の大国主命と同一神であり、東京にいながら出雲大社のご祭神にお参りできるわけです。面白いのは、神田明神では大国主命を「だいこく様」として、商売繁盛の神である**恵比寿様(少彦名命)**とペアで祀っていることです​

kandamyoujin.or.jp

。これは前述のように、大国主命と少彦名命が国造りバディであったことや、大国主=大黒、少彦名=恵比寿という七福神コンビに通じるものがありますね。


この他にも、大国主命を祀る神社は全国津々浦々にあります。たとえば京都の地主神社(縁結びで有名)、埼玉の出雲伊波比神社、福岡の竈門神社(こちらも縁結びで知られる)など、挙げればきりがありません。それぞれの地域で大国主命は少しずつ異なる呼び名や伝承を持ちながらも、共通して良縁や幸福をもたらす神様として信仰されています。現代でも「〇〇のだいこく様」といった愛称で地域の守り神となっているケースも多く、お祭りで大国主命(大黒様)の像を担いだり、縁起物の大黒様グッズが売られていたりと、人々の暮らしに溶け込んでいます。

ポップカルチャーとの関係

神話の神様と聞くと遠い存在に感じるかもしれませんが、大国主命は意外にもポップカルチャーの中でしばしば姿を見せています。その活躍ぶりや親しみやすいキャラクター性から、現代の創作作品でもネタにされることが多いのです。

例えば、ゲームの世界では大国主命がキャラクターとして登場することがあります。スマホゲーム『パズル&ドラゴンズ』では「オオクニヌシ」としてモンスター(神)キャラクターになっており、日本神話の神の一柱として扱われています​

dic.pixiv.net

。和装に身を包んだイケメン風の大国主キャラが登場し、その強力なリーダースキルでプレイヤーに頼もしまれています。ほかにも、人気RPG『女神転生』シリーズや『ペルソナ』シリーズにも、大国主命が魔神・妖怪カテゴリーで登場することがあり、ゲーム内で召喚して戦わせることができます。これらのゲームでは大国主命はしばしば高い攻撃力や回復能力を持つ頼れる存在として描かれており、日本神話ファンにはニヤリとできる演出です。


アニメや漫画の分野でも、大国主命やそのエピソードが題材になることがあります。直接的に神様として登場しなくても、因幡の白兎の物語は児童書やアニメで繰り返し取り上げられてきました。昔話アニメの一編として白兎と大国主命の話が描かれたり、国語の教科書にこの神話が紹介されることもあります。最近では地域振興の一環として、大国主命と八上比売のラブストーリーをアニメ化する試みも行われました。鳥取県では地元の商工会議所が中心となり、八上比売を主人公に据えたPRアニメ「八上比売アニメ」が制作されています​

yakamihime-animation.wixsite.com

。このアニメは古事記の因幡の白兎神話をベースに、コメディタッチで大国主命と八上比売の出会いを描いた作品になっており、YouTubeなどで公開されています​

yakamihime-animation.wixsite.com

。地元の神話をポップにアレンジして発信するユニークな例と言えるでしょう。


さらに、大国主命は**「大黒様」として七福神の一柱にも数えられるため、正月のカルタや双六、アニメ・漫画の中の縁起物としてもしばしば顔を出します。福々しい笑顔で打ち出の小槌を持った大黒様の姿は、実は大国主命が仏教と習合して生まれた姿です。例えば、『Fate/Grand Order』のような作品でも直接「大国主命」という名前で登場はしないものの、「大黒天」としてその要素が取り入れられたキャラクターが登場する可能性がありますし、物語のモチーフに大国主命のエピソードを匂わせるケースもあります(※作品によって異なりますが)。また、現代の創作で日本神話を題材にした漫画**(例えば『ナルト』や『鬼滅の刃』などの作品における技名・キャラクター名のモチーフ)に大国主命やオオナムチの名が使われることも見受けられます。直接登場しなくても、日本人の伝統的な知識として大国主命の名前が浸透している証拠と言えるでしょう。

このように、大国主命は古事記や日本書紀の中だけに留まらず、現代のエンタメ作品でも生き続けている存在です。ゲームで強キャラとして活躍したり、アニメでコミカルに描かれたりすることで、若い世代にも「出雲の大国主」の存在が自然と伝わっているのは面白いですね。ゆるキャラ的な可愛さと頼もしさを併せ持つ大国主命は、これからも様々な形でポップカルチャーに顔を出すかもしれません。

まとめ

大国主命(オオクニヌシ)の物語と魅力を、神話から現代まで一気に駆け抜けて紹介してきました。国造りに励み、恋に生き、試練を乗り越え、最後は未来のために自ら身を引いた大国主命。その姿は神様でありながら非常に人間的であり、だからこそ何千年もの間人々に愛され、語り継がれてきたのでしょう。現代でも縁結びの神様として多くの人が出雲大社などに参拝し、良縁や幸せを祈っています​

anjer21.jp

。恋愛成就だけでなく、仕事や人間関係、家族との絆などあらゆる「縁」を取り持ってくれる心強い存在として、大国主命は私たちを見守ってくれているのかもしれません​

izumooyashiro.or.jp


また、大国主命の神話は日本文化の中で繰り返し参照され、地域のお祭りや行事、果てはポップカルチャーにまで影響を与えています。神話の舞台を巡る旅(神社巡り)も人気で、出雲や因幡を訪れて大国主命ゆかりの地に思いを馳せる人も少なくありません。その意味で、大国主命は単なる昔話の登場人物ではなく、現代にも生きる精神的なヒーローなのです。

優しさ、苦難、知恵、そして愛――大国主命の物語には、人が人生で経験する様々なドラマが凝縮されています。日本神話初心者の方も、ぜひ大国主命のエピソードを入口にして神話世界に親しんでみてください。きっと神様たちがぐっと身近に感じられるはずです。そして何より、大国主命のように縁を大切にし、人との繋がりに感謝して生きていくことこそが、現代における彼からの最大のメッセージなのかもしれません。


引用文献(参考URL)

  • jinjahoncho.or.jp

    1. jinjahoncho.or.jp神社本庁公式サイト: 「国譲り」神話の解説(豊葦原中国を天神の御子に譲る経緯について)​

    2. jinjahoncho.or.jp(https://www.jinjahoncho.or.jp/shinto/shinwa/story6/)

  • en.wikipedia.org

    1. Wikipedia(英語): 「Ōkuninushi」- 天照大神への国譲りと大国主命が幽世を治める記述(https://en.wikipedia.org/wiki/%C5%8Ckuninushi)

  • en.wikipedia.org

    1. Wikipedia(英語): 「Ōkuninushi」- スサノオから課された試練(蛇の部屋・ムカデと蜂の部屋・野焼き)についての記述(https://en.wikipedia.org/wiki/%C5%8Ckuninushi)

  • en.wikipedia.org

    1. Wikipedia(英語): 「Ōkuninushi」- スサノオからの逃走と改名(大国主神の名を授かる場面)の記述(https://en.wikipedia.org/wiki/%C5%8Ckuninushi)

  • izumooyashiro.or.jp

    1. 出雲大社 公式サイト: 「出雲大社と大国主大神」- 大国主大神が縁結びの神様と呼ばれる理由(男女の縁に限らずあらゆる縁を結ぶ神徳)について​

    2. izumooyashiro.or.jp(https://izumooyashiro.or.jp/about/ookami)

  • yakamihime-animation.wixsite.com

    1. 八上比売アニメ公式サイト: 鳥取県による「因幡の白うさぎ」神話を題材にしたPRアニメの概要(コメディタッチにアレンジした大国主命と八上比売の出会いの物語)​

    2. yakamihime-animation.wixsite.com(https://yakamihime-animation.wixsite.com/website)

  • dic.pixiv.net

    1. ピクシブ百科事典: 「オオクニヌシ(パズドラ)」- パズル&ドラゴンズに登場するキャラクター「オオクニヌシ」の紹介(元は日本神話の神の一柱)​

    2. dic.pixiv.net(https://dic.pixiv.net/a/%E3%82%AA%E3%82%AA%E3%82%AF%E3%83%8B%E3%83%8C%E3%82%B7%28%E3%83%91%E3%82%BA%E3%83%89%E3%83%A9%29)

  • izumo-kankou.gr.jp

    1. 出雲観光ガイド(出雲観光協会): 「神話めぐり2 国譲り」- 国譲り神話が人間臭さを感じさせる物語であるという解説​

    2. izumo-kankou.gr.jp(https://izumo-kankou.gr.jp/6363)

  • izumooyashiro.or.jp

    1. 出雲大社 公式サイト: 「いなばのしろうさぎ」- 大国主命(だいこく様)が白兎を助ける場面の記述​

    2. izumooyashiro.or.jp(https://izumooyashiro.or.jp/inaba/)

  • kandamyoujin.or.jp

    1. 神田明神 公式サイト: 「神田明神とは」- 主祭神 大己貴命(大国主命)の説明(国土経営・夫婦和合・縁結びの神徳、出雲大社の御祭神でもある)​

    2. kandamyoujin.or.jp(https://www.kandamyoujin.or.jp/profile/)

  • kokugakuin.ac.jp

    1. 國學院大學メディア: 「スサノヲからオオクニヌシへ 試練と継承の『国作り』」- 大国主命(オオクニヌシ)の因幡の白兎での描写(スサノオの子孫でありながらいじめられっ子として描かれる、一切抵抗せず弱いが知恵と優しさを持っていた)​

    2. kokugakuin.ac.jp(https://www.kokugakuin.ac.jp/article/309492)

  • futabanet.jp

    1. ふたば☆ちゃんねる 電脳奇談: 「日本の神様&神話のトンデモ都市伝説 第6回 前編」- 大国主(オオクニヌシ)は古事記ではスサノオの六世の孫、日本書紀ではスサノオの息子とされるとの記述​

    2. futabanet.jp(https://futabanet.jp/kidan/articles/-/87136?page=1)

  • futabanet.jp

    1. ふたば☆ちゃんねる 電脳奇談: 上記記事内の記述 - 「オオナムチは人を疑うことを知らない純粋な性格」で兄たちの嘘(焼け石をイノシシと思い込む)に騙され命を落とすくだり​

    2. futabanet.jp(https://futabanet.jp/kidan/articles/-/87136?page=1)

  • anjer21.jp

    1. アンジェグレースガーデン(島根県出雲市の結婚式場ブログ): 「なぜ出雲大社は『縁結びの神様』と呼ばれるようになったの?」- 大国主大神が恋多き神・子沢山な神であることから男女の縁結びのイメージが強まったこと、そして現在では男女に限らず様々なご縁を結ぶ神様として信仰されているとの記述​

    2. anjer21.jp(https://anjer21.jp/about-izumotaisha/2016/6355/)

いいなと思ったら応援しよう!