鰻 【ふつうの料理とちょっとした話|vol.5】
ふつうの料理の話をする連載にもかかわらず、おいおい、圧倒的ハレの一皿じゃないかというツッコミが入りそうではあるが。
さて、「鰻にはご縁を感じずにはいられない」という話。
幼い頃から、我が家のハレごはんは、寿司でも焼肉でもなく、鰻であった。
川越市街から少し離れた「ぽんぽこ亭」という鰻屋さんが、我が家の定番の店。
どじょうの唐揚げを頼んで、4人で鰻重を食べて帰る。
今でも帰省すると、両親はぽんぽこ亭に連れていってくれる。
「4人で食事する機会もそんなにないしね〜」
「夏は暑いからね〜」
「きえさんが食べたいって言うからさ〜」
何かと理由をつけて、みんな鰻が食べたいのだ。
学生時代のバイト先も、そういえば鰻屋だった。
当時は、おしゃれで時給も高い都内のカフェで働きたかったけれど、
そもそも学生身分がバイトに時間を費やすことに反対で、
門限に厳格な両親を説得しきる自信がなかった私は
「大宮駅なら近くていいでしょ?」
「駅ビルだったら駅直結だから危なくないでしょ、閉店も早いし」
など、それらしい理由をつけて、ようやく職にありつけたのだった。
思い返すと、大事な節目はすべて鰻と共にある。
うちの夫を私の両親に初めて会わせた時も、鰻。
先日、初めて両親が今私の住む小田原の家に来た時も、鰻。
風祭にある有名な友栄さんに連れて行けて、少し親孝行をした気持ちになったんだっけ。
私と鰻の縁。
トドメは、私の父と母の出会いにまで遡る。
父と母は、共通の知人の紹介で出会ったそうなのだが、
彼らが最初に引き合わせてもらった場所こそが「ぽんぽこ亭」なのだ。
鰻無くして、私はこの世に生を受けていないとも言えるのだ。