HHKB押下圧変更プロジェクト【その4:分解編】
HHKBの分解
注意事項
HHKBの分解は複雑で高度な作業ですので、高い確率で不具合や故障を生じさせます。最初にこちら の「免責(最初にお読みください)」を読んで内容を承諾した上で以下の作業を行ってください。
このnoteに記された作業を行った結果、あなたのHHKBが破損や故障をしても私(キーファー)は一切の責任を負いません。全ての作業は自己責任において行ってください。
HHKBの電池ボックス内にあるシールを剥がした時点であなたのHHKBはメーカーである株式会社PFUの保証対象外になり、それ以降はPFUのあらゆるサポートが得られなくなりますので、その点を十分承知の上で作業を進めてください。
作業前に
作業中に内部のバネが飛び跳ねる可能性があります。バネが飛んでいってもすぐに発見できるような整理整頓された環境で作業をしましょう。
大きな敷物(テーブルクロスやビニールシートなど)を敷いておくのも効果的でしょう。
どこかに行ってしまったバネを探して部屋中を何時間も探し回ることが無いように細心の注意を払って作業をしましょう。
分解に必要な道具
分解に必要な道具はこちらの「HHKB押下圧変更プロジェクト【その3:道具編】」をご覧ください。
(1)電池とケーブルの取り外し
作業開始前に背面の電池ボックス内に電池が入っている場合は電池を抜いてください。また、USBケーブルが挿さっている場合は抜いてください。
(2)キートップの取り外し
キートップ引き抜き工具を使って全てのキーを抜き取ります。
写真1のように、キートップ引き抜き工具をキーの隙間に差込み、キートップの対角線にフックを掛て真っ直ぐに上へと引き抜きます。
これを繰り返して69個のキー(日本語配列の場合)を全て引き抜きます。
※ 実は、キートップを抜かなくてもラバードームの交換作業はできるのですが、抜いて作業することを強くお勧めします。この後の工程で取り替えるラバードームを基盤に設置する作業があります。その作業はキーがある面を下にして行うのですが、この際にキートップが邪魔になります。
(3)清掃
キーボードが汚れている人はキートップを外した段階で清掃しておきましょう。
ほとんどの人はここで汚れに気づくでしょう。ホコリ、毛、皮膚、食べかすなどが積もっているのではないでしょうか?
ホコリが溜まりすぎると、ホコリどうしが押し合って盛り上がり、ついには軸と軸受けの僅かな隙間にホコリが押し込まれて基板に落ちることがあります。誤作動の原因になりますので定期的に清掃しましょう。こちらに清掃の方法を詳しく記しました。
毎日使っていると数ヶ月でホコリが溜まります。「清掃は年に2~3回は行いましょう」とPFUさんの中の人も仰っていました。
清掃の際には洗剤やアルコールを使うのは避けましょう。油をこぼしたとかでもない限り水拭きで十分です。
HHKBを使わないときには、上面にハンカチを掛けたり、あるいはHHKBを立てかけておくことで侵入するホコリを減らすことができます。
そのためのアイテムもPFU公式サイトで販売されていますのでご一考を。
(4)裏面のネジを外す
カバー裏の3箇所のネジを外します。
(HHKBの型式によってネジの位置が異なるようです)
注意
電池ボックス内のシールを剥がすとメーカーの保証対象外となりますので、作業を続けるか中止するかは自己責任で判断してください。
写真4の3つの赤丸がネジの場所です。
ひとつは電池ボックスの中にあります(写真5)。「DO NOT REMOVE(剥がすな)」と書かれたシールを剥がすとネジが現れます。このシールを剥がすと剥がした跡が残るので、メーカーは ネジが外された= 保証の対象外となった、と判断します。
ネジを外すときの基本(ドライバーの使い方)
ネジを外すときは慎重に作業をしてください。
しっかりとドライバーを押しつけて、ゆっくりと回します。ドライバーの基本的な使い方についてはDIY Labさんのページの解説が分かり易いのでリンクを張ります。ご参考まで
ドライバーは押す力7割、回す力3割の力加減が理想です。力加減を間違うとネジの頭をなめてバカになってしまい取り返しがつきません。細心の注意を払いましょう。細心と言っても、押す力を控えめにするという意味ではありません。むしろ押す力はしっかりと掛けましょう。全体重を掛けるようなことをしてはいけませんが、ネジがスムースに回り始めるまでは3kgくらいの力でプラスドライバーを押しつけて回さなければなりません。
ネジが回り始めたら押さえる力を抜いてかまいません。
ネジは、3本をそれぞれ少しずつ緩めていきます。右のネジを半回転緩めたら、左のネジを半回転緩め、真ん中のネジを緩め、また右を……。これを繰り返して抜き取ります。
(5)カバーを開ける
裏面の3本のネジを外すとカバー(天板)が外れます。写真6のように、キーボードの奥側(電池ボックスの方)から外れます。
この時、勢いよく開いてはいけません。上下カバーは内部のケーブルによって連絡されています(写真7)。ケーブルに無理な力が掛かって断線させないようにそっと開けましょう。
(6)ケーブルの外し方
カバーをそっと開けると写真7のように上下を連絡している青いケーブルが見えます。このケーブルは繊細で少し力を入れるだけで断線してしまいますので、カバーを無理に開いたり引っ張ったりしてはいけません。
写真8がケーブルの接続部分です。写真9の赤枠で囲っている部分がケーブルを固定している固定具です。これは写真10のようにピンセットでつまんで上に持ち上げると外れます。
固定具を外したら、写真11の赤丸で囲まれている金属部分に力を加えて「基板に対して水平に」引っ張ります。
この時、絶対に青いケーブル部分を引っ張ってはいけません!
ケーブルは繊細なので力を加えると簡単に断線します。必ず赤丸で囲まれた金属部分に力を掛けてゆっくりと矢印の方向に引っ張ってください。垂直に持ち上げるのではなく、基板に対して水平に引きます。
ケーブルを外すと写真12のようにカバーが上下に分離します。
写真12ではケーブルを両端とも抜いてしまっていますが、ネジが18本ある基盤の方(写真12では下)だけを抜けばこの後の作業はできます。ケーブルを傷つける可能性を減らすためにも片側は抜かずにおきましょう。
(7) 基板を外す
基盤は写真13のように18本のネジで固定されています。
ネジの外し方
ネジを外すときは、対角線を意識して緩めていきます。
ネジ1本を完全に外すのではなく、1本を少し緩めたら、そのネジの対角にあるネジを少し緩めます。また別のネジを少し緩めて、そのネジの対角にあるネジを少し緩めます。「少し緩める」とはネジが抜けるほど回しきるのではなく、半回転(180度)程度回すことです。1本のネジを半回転分緩めたら次のネジをまた半回転させ……を繰り返し、全てのネジを半回転させたら、また最初のネジから半回転させていきます。それを繰り返してネジを回すときに抵抗を感じなくなったら完全に抜きます。
※ 締めるときは逆の手順です。対角線を意識して、少し締めては別のネジを少し締める……を繰り返します。
一例を挙げると下の写真14のようにネジ①、②、③……のように少しずつ緩めていきます。(あくまでも例です)
※ ネジを対角で緩めたり締めたりする理由
このような基板に限らず、ネジ止めしてある全ての部品は対角線を意識して少しずつ緩めたり締めたりするのが原則です。自動車のタイヤでも、家電製品でもそれは同じです。
理由は、ネジで締め付けられた部品はネジに押さえつけられてたわんでいるからです。片側だけに偏ってネジを締める/緩めると、片側だけが強く押しつけられて反り返ってしまい、割れたり歪んだりします。対角で少しずつ締める/緩めることで、歪みを最小限に抑えながら均等に圧力を抜く/掛けることができるのです。
取り外したネジはきちんとトレーに入れて管理しましょう。
カバーのネジ(3本)と基板のネジ18本は長さが異なります。
(8)基盤をゆっくりと持ち上げる
ネジを18本外したら基盤をゆっくりと持ち上げます。
基盤を慎重に持ち上げると、写真16のようにラバードームが顔を出します。
この時、バネが飛び跳ねる可能性があります。バネが飛んでいってもすぐに発見できるような整理整頓された環境で作業をしましょう。
あるいは大きな敷物(テーブルクロスやビニールシートなど)を敷いておくのも良いでしょう。
どこかに行ってしまったバネを探して部屋中を何時間も探し回ることが無いように細心の注意を払って作業をしましょう。
これでHHKBの分解が終り、ラバードームを取り出すことができるようになりました。
次はいよいよラバードームを交換していきます。
(余談1)東プレとPFU
余談ですが
HHKBの基盤は写真13のように18本のネジで固定されています。
ずいぶんとしっかり固定されていますね。このサイズの基盤に18本もネジを使うのは過剰のように思えます。このような設計思想がHHKBの頑丈さの一因であり、また高価である理由のひとつなのです。
写真13の基盤の左下に注目してください。左下を拡大したのが写真17です。「Topre」と印字されていますね。
東プレ株式会社はREALFORCEシリーズのキーボードを製造している会社です。HHKBで用いられている静電容量無接点方式は東プレさんの発明なのです。
このことからも東プレさんとPFUさんの関係がよくわかりますね。
東プレさんは私達にとってはリアルフォースのキーボードで馴染みが深い会社ですが、実は昭和10年創業のプレス加工製品製造企業なのです。そのような背景から、東プレさんの製品はコストより頑丈さ重視なので原価率が高くなり、HHKBが高価格であることの一因なのだとPFUさんの中の人から聞いたことがあります。
だからこそ10年以上使っても壊れないのでしょうね。
(余談2)「キートップ」と「キーキャップ」の違い
キートップとキーキャップは同一のものです。呼称は違いますが、どちらもキーボードのキースイッチを覆う小さなプラスチック製のカバーのことです。
ちなみに、PFUさんでは「キートップ」、東プレさんでは「キーキャップ」の呼称を主に用いています。
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【補足】
こちらのnoteでは、株式会社PFU製のHappy Hacking Keyboardの改造方法と、改造のための分解方法等を解説しています。
オリジナルのHHKBの押下圧は45gですが、私の場合は、押下圧を30gに低減するためにdeskeys.io というサイトのラバードーム(des-dome V2 rounder-bke style)を用いました。
deskeys は怪しいサイトですので利用をためらう方も多いと思い、私が実際にdeskeys を利用した状況もこちらで解説しています。
また、私は利用していませんが、deskeysはREALFORCEキーボードの静音化リングやCHERRY MXスイッチ(軸)と互換性のあるアイテムも販売していますので、それらに興味がある方にとっても参考になるかもしれません。
REALFORCEシリーズのキーボードは、HHKBと同じ静電容量無接点方式を採用していますのでリアルフォースの改造にもこのブログが参考になるかもしれません。
改造以外にも、HHKBの清掃方法やメンテナンスについて簡単に説明しています。またグリスアップ(ルブ)についても、株式会社タミヤ製のグリス(セラグリスHG)を使った方法と効果を検証しています。
また、カバーの取り外しなどの行程はHHKBの静音化や軸の交換に必要作業と共通する部分がありますので、そのような作業にも参考になるかもしれません。
皆様の快適なキーボードライフに当noteが貢献できたならば幸いです。
このnoteは令和5年10月に書きました。商品や部品の情報などは初回投稿時以降に更新していません。