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「もう一人保育士を!」草の根運動から全国へ

「子どもたちにもう1人保育士を!」を合言葉に、保育士の配置増を求める運動を展開してきた保育士や保護者が愛知にいます。この草の根運動は次第に全国から共感を集め、今春には、4歳児と5歳児クラスの保育士配置に関する国の基準が76年ぶりに改定される成果を生みました。この運動の軌跡が一冊の本としてまとめられました。運動の呼びかけ人の一人である社会福祉法人熱田福祉会の平松知子理事長は、「みんなで楽しんで取り組んだことが、大きな変化を起こす力になったのです」と語っています。
(※2024年10月16日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

コロナ禍で生まれた保育士配置改善への動き

この運動が始まったのは4年前のことです。コロナ禍による「登園自粛」で園児が少なくなった時期、保育士たちはいつもより一人ひとりの子どもと丁寧に向き合う時間が増え、その大切さに気づきました。

当時、国が定めた保育士の配置基準では、4歳児や5歳児クラスで保育士1人が30人の子どもを見ることになっていました。保育団体などは以前から改善を求めていましたが、待機児童対策の影で、76年間この基準は見直されることがありませんでした。

「子どもたちにもう1人保育士を!」運動の始まりと言葉の工夫

コロナ禍の影響で問題意識が高まった県内の保育士たちは、互いに意見を交わし保護者にも状況を伝えました。しかし、返ってきた言葉が、この運動に新たな方向性を与えることとなったのです。

「先生たちが言う『6対1』とか、正直よくわからない」という保護者の声がありました。保育士たちの間で「6対1」と言えば「1、2歳児6人を保育士1人で見る配置基準」のことですが、一般の方々にはこの言葉が十分に伝わっていなかったのです。保育に関わりのない人にも分かりやすく伝えるには、どんな言葉が適切かを考えた結果、「子どもたちにもう1人保育士を!」という合言葉が生まれました。

2022年1月に基準改善を求める実行委員会が立ち上げられた後も、一般の方にわかりやすく伝える工夫を重ねました。保育士たちは現場の状況をアンケートで集め、集まったエピソードを絵の得意な保育士が4コマ漫画やイラストにしてSNSで発信し、より多くの人々に共感を呼びかけました。

公立・民間が協力した保育士配置改善運動の広がり

今回の運動のもう一つの特徴は、公立・民間の保育士と保護者が一緒に活動した点です。多様な立場が結集したことで、運動を強力に推進する力となりました。公立保育園の保育士など自治体職員が加入する労働組合のメンバーは、自治体の予算編成や議会の日程に沿った効果的な運動方法をアドバイスし、民間の保育園はメディアの取材に応じて、保育の現状を広く発信しました。保護者から「名古屋駅前をシンボルののぼり旗で埋め尽くしたい」という提案があれば、保育運動の経験者が警察への申請や拡声機の準備を進めました。

こうして運動は徐々に県外にも知られるようになり、翌年には全国組織も発足しました。また、広がった人脈を活かし、こども家庭庁の大臣や与野党の国会議員との面会も実現しました。

保育士配置基準の見直しに向けた歩みと「こども未来戦略」の実現

2023年12月、政府は保育士1人が担当する4・5歳児の基準を30人から25人に引き下げる内容を盛り込んだ「こども未来戦略」を閣議決定しました。その後も実行委員会は基準改善を求めて活動を続け、今年2月には首相となった石破茂氏とも面会を実現しました。石破氏は、1948年以降4・5歳児の基準が一度も見直されてこなかったことに対し、「この国のどこかがおかしい」と述べたといいます。

この配置基準の問題にようやく社会の注目が集まりましたが、平松さんは「これで終わりではない」と警鐘を鳴らしています。日本の基準は依然として先進諸国の水準に達しておらず、「日本のすべての子どもたちに、より豊かな保育環境を届けたい」との思いを抱き続けています。

この思いが込められた一冊が『日本の保育士配置基準を世界水準に』(子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会編著、ひとなる書房、税込1540円)です。

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