桜姫 44/100
深い深い森の奥に
美しい湖があった
そして、
その湖のほとりに、
1本の大きな桜の樹が立っていた
秋のはずなのに、
満開の桜が咲いている…
僕は
夢を見ているのか
『お帰りなさい』
その声のする方を見ると
長く美しい黒髪の女性が
優しい微笑みを浮かべていた
「貴女は…」
その人の方に
行こうとした時
ひどい目眩に襲われ
僕は
その場にうずくまってしまった…
静かだ…
辺りは静寂に包まれている
しばらくして
そっと目を開いた
僕は
その光景に
息を呑んだ
あたり一面、桜の花びら…
湖面には、
樹々の間から漏れる
太陽の光を受けて
キラキラと輝やき
桜の花びらが
はらはらと舞い落ち
浮かんでいる…
そして、
空からも、
桜の花びらが降っている…
「…美しい…」
桜の樹の下には
さっきの女性が
佇んでいた
「そなたは…桜姫」
私は
思い出していた
遥か、遠い昔
満開の桜の樹の下で…
美しい黒髪の女性と出逢い
愛し合った…
その人は…
桜の精だった
『貴方をずっと
ここで、
お待ちしておりました…』
そう言って
桜の君は
右手を差しのべた
「私も
会いたかった…」
彼女にくちづけをした
私の魂は
その桜の樹に
吸い込まれて行った…
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