【書評】書く仕事がしたい/佐藤友美
書く仕事で生きていくのに最も重要なのは、文章力ではありません。
いわゆるライティングのノウハウ本かと思い開いた本には、こんな言葉で書き出されており、僕は一度そっと本を閉じました。
よく見ると、表紙にもご丁寧に下記のような記述がある。
「この本は、文章術の本ではありません。この本を読めば、みるみる文章力がついたしません。」
本書では「上手に文章を書くこと」でなく「書いて生きていく人生とはどのようなものなのか」を余すことなく伝えることをコンセプトにしています。これから書く仕事をしたい人や長く物書きとして生計を立てたいと思う人に向けて書かれた書籍となります。
僕のように手っ取り早く文章書くのが上手になりたい!って思っているせっかちな人は肩透かしを食いますが、書くことを通じて働くこと、さらには生きることに真剣に向き合いたい人にとっては最適な指南書なのではないでしょうか。
今回ご紹介する本は
書く仕事がしたい(佐藤友美・著/CCCメディアハウス)です。
概要
繰り返しになりますが、本書は「書いていきていく」ことを綴った本です。
著者が20年以上前、ライターとしてのキャリアをしたときに知りたかったことが事細かに記されています。
ライターという仕事の内容。
書く仕事にはどんな種類があるのか。
どのように仕事をもらい、どのくらい書けば生計を立てられるのか。
そして「ライターとして生きる人生」とはどのようなものなのか。
本書は、書くことと仕事を結びつけたときに生まれるあらゆる疑問をスッととりはらい、自分の人生と書くことを重ねたルートの案内役となるような一冊です。
ライターは「書きたいこと」がなくてもいい
本書にはライターとして働くために大切なこと、必要なステップがぎっしり詰まっていますが、最も衝撃を受けたのはこの一文でした。
ライターは「書きたいこと」がなくてもいい
そうなんですか!
そうなんですよね!
どんなに文章を読むのが好きでも、これから書くことにもチャレンジしてみたいなと思いつつも、薄々気づいてはいました。
特に「書きたいこと」なんてないと。
だから書くことを仕事にすることなんてできないと、序盤で正直心折れかけてました。
ではライターにはどんな人が向いているのか?
著者曰く、「対象に興味を持ち、面白がれる」人なのだそうです。
ライターの仕事は書くことで「表現する」ことなのではなく、誰かの言葉をよりわかりやすく、世界に求められるカタチに「翻訳する」ことが本質なのだと。
とことん自分と向き合う超絶ストイックアーティストのような生き方は中々簡単にできるものではありませんが、(それはそれでカッコいいですけど)
面白いものに溢れている世界に耳を傾け、声を拾い上げ、整えていく職業。
そう考えればライターという仕事は、僕が思っているより、そして世間一般で認識されているよりはるかに、驚きと発見に満ち溢れた職業なのではないのか。
視点と視座
こちらは「面白い文章を書くための切り口の作り方」という観点でのお話になるので、これから書くことにトライする人にとっては少し先の話かもしれません。
ただ、書くことだけでなく、あらゆる仕事やコミュニケーションに通ずる考え方だと思います。
世の中の人が「こんなコンテンツ待ってたんだよ!」と膝を打つとき、
そこにはどこ(=視点)を見るか?だけでなく、どこ(=視座)から見るのかという要素も極めて重要と本書では解釈しています。
同じ「習慣化(=視点)」について語るときも「脳科学者」と「経営者」という異なる視座からは全く異なるコンテンツが生まれるでしょう。
これって自分がコンテンツを生み出すときだけでなく、ライターとして人の話を読者に届ける時にも、「なぜこの話はこんなに面白いんだろう?」を分解していくと、視点と視座の組み合わせで成り立っている。
自分(=取材者)という視座からも、お話を伺った人の視座を想像して、
よりリアルな視点の景色を読者に見せる。そんな風にものごとの見方を縦横無尽に変えられることを「視野が広い」なんて言うのかなと僕は解釈しています。
まとめ
本記事ではライターとして生きるスタンスや姿勢にフォーカスしたものになりましたが、本書にはその他にもキャリアの始め方、取材方法、売出し方など「書く仕事」の具体的なヒントもしっかり記載されています。
これから書くことを仕事をしたい人はもちろんですが、
「書くこと」の裏側にどれだけの思考が、努力が、戦略があるのかを垣間見ることができるので、是非多くの方に読んでいただきたいです。