韓国インディIntroducing (1) 2020年下半期韓国インディ最注目、Silica Gelがカムバック!
こちらのブログでは最近韓国のインディ・シーンについてよくお伝えしてきましたが、ここに来て、2020年後半、韓国のインディ・シーン最大の期待といってもいいバンドがカムバックしましたので、特集したいと思います。4人組バンドSilica Gelです!
彼らは約2年半兵役のため姿を消していた(一部メンバーはソロ活動やサポート・メンバーとして他バンドの活動に参加)のですが、今日約2年10ヶ月ぶりの新曲「Kyo 181」を発表しました。
めいいっぱいフランジャーのかかったギター・サウンドは、以前のサイケデリックさに通じるものの、全体的に軽やかな演奏で曲構成もシンプルになった印象。メンバーのキム・チュンチュも「空白期間に私たちは自然に新しい方向を探すようになりました。そんな意味から「Kyo181」はSilica Gelの新しいデビュー曲といえます」と語っています。
Silica Gelは今日の夜には、ソウル・ウルチロのヴェニュー、"新都市"の5周年記念公演のラストとして久々のパフォーマンスの予定でYouTubeを通して全世界に配信される予定で(リンク)、9月19日にはヘッドライン公演も予定しています。
今回は「Kyo 181」発表直前の時点の設定で、これまでの作品、活動を通して、Silica Gelを知るためのポイントを4つに分けてレジュメしたいと思います。
1. 新人賞を総なめにした韓国インディ・シーン最も期待の若手バンド!
ここはSilica Gelのこれまでをご存知の方は飛ばしていただいてもいいかもしれません。逆に、初めてSilica Gelを知る方には、まずこれだけ注目されているバンドなのだ、ということをお伝えしたいです。
まず、Silica Gelのメンバーは、キム・ゴンジェ(ドラム)、キム・チュンチュ(キム・ミンスから改名。ギター/ヴォーカル)、キム・ハンジュ(キーボード/ヴォーカル)、チェ・ウンヒ(ギター)の4人。ウンヒを除いては、ソウル芸大の出身で、2013年に映像と音楽を組合わせたパフォーマンスで平昌国際ピエンナーレに参加するために結成されました。2015年に自主制作した4曲入りEP『今更飲み干した無重力鹿の5つの視角 새삼스레 들이켜본 무중력 사슴의 다섯가지 시각 Five Views of a Zero-Gravity Deer』でデビュー、その後ウンヒが合流、Sultan Of The Disco, Nunco Bandなどが所属する<BGBG Record>から2016年2月シングル「Two Moons」、10月にフル・アルバム『Silica Gel』を発表。
そして、これらの2016年の活躍が、”韓国大衆音楽賞の新人賞”(前年はhyukoh、翌年はSe So Neonが受賞している)、”EBS(日本でいうNHK教育テレビのようなチャンネル)スペース共感今年のハロールーキー大賞”、”韓国コンテンツ振興院Kルーキー大賞”という最高の結果につながりました。
Silica Gelは2018年1月の来日公演を最後に活動休止期間に入りますが、レーベルからデビューしてからの活動期間は約2年のみ。休止直前にもEP『SiO2.nH2O』を残して、その約2年の間にこれでもかというばかりの活躍をして、去って行きました。つまり、今回のSilica Gelのカムバックは韓国インディ界が2年間待ちわびた瞬間なのです。
(*なお、以前ベースを務めていたク・ギョンモは新曲「Kyo181」には参加しておらず代わりにチェ・ウンヒがベースを弾いています。また新曲「Kyo181」のプレス情報には4人組バンドと記載されており、以前所属していたVJのメンバー2人も離れているようです。)
2. サイケデリック、ドリーム・ポップ、ポスト・ロック…独特のスケールのデカい音を鳴らす
Silica Gelの楽曲は、今まで有りそうで無かったジャンルが組み合わさったが故に、新鮮で、独特で、一度聴くと衝撃を感じさせるものがあります。音楽性を3つに分けて整理してみましょう。
まず印象的なのは、シンセサイザーの音色や淡いボーカル。そのサイケデリックで、ドリーミーな美しさからは、2010年前後にブレイクしたTame Impala、Animal Collective、Beach House、Washed Outなんかの名前を出したくなりますが、当時のバンド・メンバーが92年生まれ3人と94年生まれ2人で成り立っていたことを考えればごく自然なことかもしれません。
2つ目は、楽曲の中に変則的なリズムが入って来たり、急に曲の展開が変わったりと、エレクトロニカとか、ポスト・ロック、プログレッシヴ・ロックの要素を感じさせる、実験的で壮大な曲構成、ソングライティングです。曲のランニングタイムが6分前後の曲も珍しくない。デビュー曲「Two Moons」の中盤部分なんかはRadioheadの「Paranoid Android」を思い出させますし、あるいは3号線バタフライのソンギワンは彼らのこういう部分を『Bitches Brew』期のMiles DavisやWeather Reportに例えたりもしています。
最後に挙げたいのは、パワフルでスケールの大きいプロダクション。めいいっぱいグルーヴを生み出すベースとドラム、音数の多いギターやシンセサイザーで、ヘッドフォンを通して物凄いエネルギーが伝わって来ます。エフェクトの掛かり方も最高。これは例えるなら、アリーナ級のバンドになったTame Impalaの近作やそのライブ・パフォーマンスのイメージに近い。ドリーム・ポップにありがちな夜深い時間に部屋の片隅で一人で聴く姿感ではなく、数千人が集まった熱気あるアリーナの中でど迫力のパフォーマンスを前に聴く方が似合うでしょう。
サイケデリックでドリーム・ポップ的なサウンド、それを実験的な曲構成で、アリーナ級なスケールの大きい音で鳴らす。ありそうで無かったサウンドが面白いだけでなく、それを可能にする演奏力、メンバー自身によるプロダクション能力、シングル曲だろうが5分や6分の複雑な曲構成の曲で勝負する自信感、ロックの本来的なエネルギッシュな部分を体現...本当に聴いていてワクワクさせます。
3. バンド・メンバー全員が作曲出来るからこその多様な楽曲たち
こうした楽曲が出来るのも、そもそもメンバー個々人の能力が長けているから、何より、彼らがバンド・メンバー全員ソングライターである実力者の集団だからです。2017年の8曲入り(終盤の2曲はリミックスなのでオリジナル曲は6曲)EP『SiO2.nH2O』を見ても、 「Rogues 불한당」はク・ギョンモが、「Neo Soul」はキム・ハンジュが、「Nap 낮잠」、「Zzz」はキム・ミンス、「Grinnae 그린내」をキム・ゴンジェ、「Ttukbang-gil 뚝방길」をチェ・ウンヒと、5人全員の書いた曲が全て収められている。
メンバー全員がシンセサイザーを持っていて、中でもキム・ハンジュは12個くらい保有しているというエピソード(2017年のchosun.comのインタビューから)には驚きました。クラシックや民族音楽までメンバーが学んだり、好んで来た音楽は様々。それは強みとなり、アルバムの中には、メロディックな曲から、スロウな曲、実験的な部分が強い曲、多種多様な曲が収められています。
4. ソロ作から他バンドのプロデュースまで幅広いメンバーのソロ活動
Silica Gelのメンバーたちは、個々の能力をSilica Gelでのみ生かしているわけではありません。メンバーたちのソロ活動、他バンドへのサポート活動について簡単に紹介します。
まずキム・チュンチュ(ex. キム・ミンス)は”놀이도감 playbook”名義で、2019年にEP「playbook」、シングル「Choonghunboo 출훈부」を発表、Silica Gelよりローファイでゆるいスタイルのサウンドを聴かせています。
他にもキム・ハンジュはSe So Neon 새소년のEP『Summer Plumage 여름깃』や『Nonadaptation 비적응』のプロデュース(Se So Neonのサイケデリック且つハードな部分はSilica Gelと共通します)を手掛けたり(後者にはミンスも参加)、ゴンジェはエレクトロニック・バンド、Apenaに所属、2人組ノイズ・ポップ・バンドのWeDance 위댄스やブルース・バンドの하헌진 밴드 (HaHeonjin Band)などでサポートでドラムを叩いたり、メンバーの活動はSilica Gel以外でもシーンの広い場所で見られる。
Silica GelのメンバーたちはSilica Gelとしてだけでなく、幅広い活動を通してメンバー個々人が韓国のインディ・シーンに欠かせない存在でいるということが分かると思います。こうした課外活動で得た経験もきっと、バンド活動に還元されることでしょうし、これもまたSilica Gelの強みといえます。
どうでしょうか。既に韓国インディ・シーンの中では新人として実績を上げていますが、今日のカムバック以降の活動を通してインディ・シーンを越えた本格的なブレイクに期待が高まります。是非、継続的に注目を!