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「かのちゃんのこと」
彼女とは、よなよな話し込んだものです。
馴染みの面子で、たわいもないことやすごく刺さること、違和感や噂話、最近の推し。
「それって量子力学?」って確かめながら、波動とかエネルギーの話し。占星術やタロット。子どものことから個々の生い立ち。
で、彼女はゆんたくが深夜に及んでもかならず帰るのでした。ここから1時間以上もかかるのに、「泊まってけば?」と促しても「だいじょーぶ」と、下戸の彼女は夜中でもしゃっきりして、足取り軽く。
甘えがなくって、ものすごく自立してて、つくづく立派な人でした。
どこまでも自分に正直な人であるからゆえ、「あたし、自分のさもしさに吐き気がする」と表情を曇らせながらも、大きな重箱ぎゅーぎゅーにお稲荷さんを拵えて来るのです。
「あ、ちょっとお揚げの味がうすいけど」って。
いや、みんなそこそこさもしいって。それを見て見ぬふりするからこじらせちゃうだけで、あなたは自分の「さもしさ」に果敢に挑んで「さもしさ」の正体を暴こうとしてる。
お稲荷さんは、すこぶる美味でした。
彼女のつくるアロマキャンドルやディフューザーはファンが多く、うちの店でもとても人気があったのですぐに欠品しては、次の週には納品してくれました。仕事が迅速で丁寧、抜かりなく隅々まで気が注がれているから安心。
自分の好きな仕事で暮らしの土台を地道にコツコツ築き上げ、ワンオペでふたりの息子を育て上げ、「これからはよりもっと完成度を高めたい」って邁進してたなぁ。
「最近はなに食べてるの?」と聞くと、かれこれスンドゥブを2ヶ月食べてると。それがやがて半年になり、もはや一年くらいスンドゥブは続いたと思います。ハマるとそればかり。キャロットケーキ、蕎麦サラダ、あとなんだっけ。
彼女の話でとくに印象に残っているのは、「上質な精油を扱ってると、あまりにも波動が高くて自分がいっちゃいそうになるの。肉体が置いていかれそうになるんだよ。だから、わざとホラー映画とか見て着地させるの」
その様子がありありと浮かぶのです。
真夜中、彼女の部屋は天使のような神々しい香りで充満してる。
高い周波数で全身が光に包まれるような。豊穣であたたかくて、なめらかで清い。
蝋を溶かして香りをうつす。小瓶から数滴落とし、調香を確認する。ただし、彼女はそこに居続けることはしない。なぜならば自分の闇の存在を認めているから。なんならそれをとても大切にしてる。ダークサイドも大事な自分の要素だと。で、「エクソシスト 信じる者」、とか、観るのかも知れない。
光と闇、どちらにも「say,hello!」って笑顔で行き来しながら。
そのような光景。
わたしにはその感覚がうち震えるほどよくわかるのです。
彼女のこれまでの人生に影を落とした出来事の重みと、それに向き合う明るい愛に、純粋な蟹座の胆力を感じたのでした。
彼女のいろんなことを思い出しては、まだまだ悲しみが優位で、いつになったら「ありがとう」を言えるのか、と。
とうぶん先になりそう。