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おみくじのルーツを探しに:エピソード4

こんにちは、吉むすびです。

前回はイケメンの良源上人がその顔を隠すために般若の面を被ったエピソードが印象的でした。今回はその良源上人が宮中と関わる場面です。

藤原安子、良介、海、ミク、そして安子のお付きの女官たちは、延暦寺にやって来た。安子のお付きの女官が、良源上人に取り次いでもらうよう寺の者に頼んだ。

「安子様が、藤原様からの依頼で良源上人に安産祈願をお願いしに参りました。どうかお取り次ぎをお願いします」

「はい、良源上人様は準備を整え、すでにお待ちです。こちらへどうぞ」そう案内され、安子らはお堂に通された。

「安子様、お待ちしておりました。早速、安産祈願を始めましょう。安子様以外は、隣の部屋でお待ちください」鬼の面を付けていない良源上人は、宮中にいるときよりも落ち着いていて、そう告げた。安子を残し、良介たちは隣の部屋に移動した。

良源上人による安産祈願が始まった。その間、良介たちは、安子が将来歴史に名を刻む皇后となり、天皇家を支える存在になることを思い、背筋が伸びるような気持ちになった。

やがて、安産祈願が終わり、良源上人が良介たちのいる部屋にやって来た。
「安子様の安産祈願は無事終わった。これで、安子様は安産で、さらに子宝にも恵まれるだろう。そして君たちは、おみくじについて知りたいのだな。これから安子様がおみくじを引くので、君たちも一緒に来なさい」

良介たちは、良源上人について再びお堂へと入った。そこでは、安子が一心不乱にお経を読んでいた。

「おみくじを引くには、一定の作法があるのだ。まず、身を清め、手を洗い、口を漱ぎ、それからお経を読むのだ。今、安子様は観音経を読誦されている。その後、聖観音真言『オン・アロリキャ・ソワカ』、十一面観音真言『オン・ロケイ・ジバラ・キリク』、千手観音真言『オン・バサラ・ダルマ・キリク』を三百三十三回唱えて礼拝する。そして最後にみくじ箱を両手で持ち、願文を読み上げ、御籤棒(みくじぼう)を引くのだ。これにはかなりの時間がかかるだろう」

良源上人の説明を聞き、良介と海は目を丸くして驚いた。

「えっ、おみくじを引くだけでそんなに時間がかかるんですか!」良介が驚いて声を上げた。
「シッ!静かにしなさい。今、安子様が経を読んでおられるのだ」良源上人は厳しい目で良介を注意した。

「あっ、ごめんなさい。でも、おみくじを引くのにお経を読まなきゃならないなんて、考えたこともありませんでした」海は謝りつつも、その驚きを隠せなかった。

「このおみくじは、私が観音菩薩に祈念して授かったものだ。それを私がまとめたのだ。また、この漢詩は五言四句で、第一句は生まれてから十五歳まで、第二句は十六歳から三十歳まで、第三句は三十一歳から四十五歳まで、第四句は四十六歳から六十歳までを表し、六十一歳からはまた第一句に戻る。これにより、人々はその時期に応じて自分の生き方の指針を得られるのだ。安子様も、これから厳しい人生を歩まれることになるだろう。だからこそ、このおみくじでお力になれればと思っている」良源上人は穏やかな表情に戻り、おみくじの意味について説明した。

「おみくじを引くまでまだ時間がかかるだろうから、外を歩いてきたらどうだ?」良源上人はそう提案した。良介、海、ミクの三人は、境内に出て散歩することにした。

「おみくじのこと、だいぶ分かった?」ミクが二人に尋ねた。

「うん。今まで引いていたおみくじって、すごく手軽なものだと思っていたけど、本当はこんなに大切なものだったんだね。それに、ちゃんと意味があって、人生の指針を与えてくれるものだったんだ。僕は、ただ大吉が出たら嬉しいくらいにしか思っていなかったよ」良介は、これまでのおみくじに対する考えが大きく変わったことを感じた。

「そうよね。それに、良源上人様があんなにイケメンで、人々のことを真剣に考えてくれるなんて…ますます好きになっちゃう!」海は感動を隠せなかった。

「またそこかよ。まあいいけど、僕も良源上人は好きだし」良介は、少しの嫉妬を感じつつも納得した。

そして夜になり、良介たちは再びお堂に戻った。そろそろおみくじを引く時間が近づいてきた。良源上人が御籤箱を振ると、九十六番の御籤棒が出てきた。


「どれどれ」良源上人は一冊の本を取り出し、九十六番の運勢を確認した。「安子様の運勢は非常に良いものです」
「良かった!」安子はそれまでの緊張が一気に解け、疲労も忘れて安堵の表情を浮かべた。

いかがでしたか?実はこのおみくじは中国から来た天竺霊籤という説が有力ですが、この物語ではおみくじの祖と言われる元三大師のものとさせてもらっています。また藤原安子が元三大師良源より安産祈祷をしてもらっていたのは史実のようです。また以前おみくじには吉凶が書かれていなかったようで、この当時の設定として吉凶がないものとしています。
題字、絵:瀬良田尚美

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