見出し画像

おみくじのルーツを探しに:エピソード1

この物語は主人公の小学生源良介(みなもとりょうすけ)と同級生の女の子、天馬海(てんまうみ)そして妖精ミクと一緒におみくじのルーツを探る物語です。
 主人公の良介は海の事が、最近特に気になってきている。しかし海のほうは良介に対し全くその気がなく、いつももの静かなだが、イケメン男性のことはすぐに、好きになってしまう性格です。
 
一、初詣のおみくじ
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「あけましておめでとうございます。こちらこそ、本年もよろしくお願いします」
今日は元旦。ここはとあるお寺の境内。挨拶を交わしているのは、小学六年生の源良介(みなもとりょうすけ)の両親と、天馬海(てんまうみ)の両親だ。良介と海は同級生で、保育園から小学校までずっと同じ学校に通っており、親同士も顔を合わせればよく話をする間柄だ。
「やはり、初詣は混んでいますね。お参りは済ませたんですか?」
「ええ、あの長い列に並んで、今終わったところです。これからみんなでおみくじでも引こうかと思っているんですよ」
「そうですか。うちも毎年家族全員で運試しのつもりでおみくじを引くんですよ。じゃあ、一緒に引きましょうか」
このお寺のおみくじは「元三大師(がんざんだいし)みくじ」と呼ばれ、日本のおみくじの元祖とも言えるもので、多くの寺で使われている。
「わあ、大吉だ!」良介が引いたおみくじは八十九番の大吉だった。
「私は中吉。良介君には負けたけど、まあいいか」海は少し悔しそうだったが、今年の四月から中学生になることを考えて、気持ちを抑えた。
ちなみに、このおみくじの順番を紹介しておこう。
1.   大吉 → 吉 → 中吉 → 小吉 → 末吉 → 凶 → 大凶
2.   大吉 → 中吉 → 小吉 → 吉 → 末吉 → 凶 → 大凶
この二通りが一般的だが、元三大師みくじでは、同じ番号でも異なる運勢になることがある。
良介は引いたおみくじを手に取り、読んでみた。「一片、無瑕(むか)の玉/今従(よ)り琢磨(たくま)するに好し/高人の識に遇うを得て/方(まさ)に喜気の多きに逢わんか~。パパ、これってどういう意味?」
良介は内容がさっぱり分からず、父に尋ねた。
良介の父もよく分からなかったが、知り合いの前で知らないと言うのも気が引けて、おみくじの御託宣(ごたくせん)を読んで推測しながら答えた。「それは、良介がもっと勉強して頑張れば、いろいろと良いことが起こる、っていう意味だよ」
「じゃあ、読み終わったし、このおみくじをあそこに結んで帰ろうか」海の父を見ると、おみくじを財布にしまっていた。
「あれ、おみくじは持ち帰っているんですか?」と良介の父が尋ねた。
「ええ、おみくじは持ち帰って、その御託宣を時々読み返すと良いと聞いています。それに、おみくじが汚れると気分が良くないので、おみくじ保管グッズを使っています。お気に入りのデザインは、絵馬に地球の周りでお地蔵さんたちが手を取り合っていて、『雲の向こうはいつも青空』という名言が書かれているものです。このデザインを見ておみくじを読み返すと、気分が新たになる気がするんです。それで娘にもそうさせています。それに、結び付けておけば、おみくじのメッセージが気になった時にすぐ見られますしね」
「へえ、そうなんですか。確かにおみくじには良いことが書かれていて、でもみんなが結んでいるので、結ばなきゃいけないと思っていました。良介の父は少し納得した様子で答えた。
隣で話を聞いていた良介は、正月早々、好きな海と会えて、さらに会話を始めるいい機会だと思い、ウキウキしながら海に尋ねた。「海ちゃんもおみくじをその吉むすびに結んでいるの?」
「うん、そう。パパが、困った時にこのおみくじを読めって」
「でも、もし持ち帰るのが良いなら、なんでこんなに多くの人がおみくじを結んでいくんだろう?」
海は答えに困り、父に聞いた。「ねえ、おみくじは持ち帰ったほうがいいはずなのに、なんでみんな結んでいくの?」
「何か、江戸時代の人たちが語呂合わせで『縁を結ぶ』という意味で、境内に結んでいったのが始まりらしいよ。つまり、元々は結ぶものではなかったらしい。でも、詳しいことは分からないから、機会があったら調べてみなさい」
「そうなんだ。でも、おみくじって誰がどのように始めたんだろう?」海と良介は二人とも疑問に思った。そして、この二家族はまだまだ参拝客が多い寺を後にした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?