【稽古場レポート】まさに、常夜鍋。演劇集団円『コウセイネン』
「演劇って大げさなイメージがあって苦手」という人に見てもらいたい演劇がある。
2024年10月25日(金)、私は演劇集団円『コウセイネン』の稽古場を2週間ぶりに訪れた。本作は小劇場界で注目を集める松本哲也を作・演出に迎え、男と女、家族の再生を描いた演劇作品だ。演劇というと「大仰な身振り」「ドラマチックな展開」を想像する人も多くいるだろう。だが、松本は「日常のなにげない出来事をなにげなく、そのままに。派手さ奇抜さは特になく、あくまでシンプルに。」をスタイルに活動している。その日常生活の中に一瞬の輝かしい瞬間を見つけることができる所が松本作品の良さだと思う。まさに、常夜鍋のような作品だ。そして、この作品における豚肉とほうれん草の役割を果たすのが、演劇集団円の俳優たちだ。本日は、その旨味の秘訣について探っていこうと思う。
扉を開けるとすでにシーンが始まっており、稽古場はピリっとした空気に包まれていた。絶妙なバランスで積みあがっていく緊張感。前回訪れたときよりも場面が緻密になっていた。
実際に使う机やいすも揃いつつあり、セットの位置も探りつつ稽古を進めている。稽古の回数を重ね、前回よりも個々の在り方がクリアに見えるようになった。罪を犯し出所した主人公・恒光陽一(玉置祐也)は穏やかな表情の中の小さな変化に、息を詰めて見守りたくなる切実さを感じる。主人公の同僚・黒辺桐雄(上杉陽一)は、人畜無害そうないでたちで、あたりを踏み荒らす。保護司・梨沢桃果(深見由真)は、揺らぎながらもまっすぐ生きようとする心が立ち姿に現れている。主人公の妹・恒光明菜(吉田久美)は眩しいほどに正しい。その目で見つめられると、身動きが取れなくなりそうだ。開幕まで約二週間、作品の形が仕上がりつつある。
稽古を見ていると、俳優の仕事のマルチタスクさに驚く。セリフを覚えるのは勿論のこと、身体の動きや間合い、動作やセリフのきっかけを覚えた上で、演出家からのフィードバックを迅速に反映させる。場面は演出家の合図で巻き戻り、同じシーンを繰り返していても少しずつ変化する。一人が変われば、それを受ける周りも変化する。俳優の頭の中は一体どうなってるのか。デスクワークに慣れきってしまった私には、到底真似できない。その上、繊細な感情労働だ。険悪なシーンなどは、毎日繰り返していたら気が狂ってしまいそうだ……。俳優ってすごすぎる!
演劇集団円は来年で創立50周年を迎える、ベテランから若手まで粒ぞろいの団体だ。附属の演劇研究所での鍛錬を経て会員となった、実力ある俳優が集っている。そんな俳優たちが作り出す、演劇集団円『コウセイネン』は11月14日(木)より、吉祥寺シアターにて開幕する。シンプルだが毎晩見ても飽きないようなこの舞台を、どうぞお見逃しなく。
演劇集団円『コウセイネン』
2024年11月14日(木)~11月24日(日)
詳細:演劇集団円『コウセイネン』|吉祥寺シアター