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【制作裏話トーク】なわない創刊号を囲んであれこれ話す 2024.7.28

***こちらは2024年7月28日に開催した雑誌「なわない」創刊号制作裏話トークの様子を記録したものです***

 新潟はしっかり初雪が降り、すっかり季節は冬。去年の今頃はなわない創刊号の執筆依頼を色々な方に送っていたなあ……と思い出します。
11月23日、24日には「なわないtalk&store in 内野」を開催しました。ご来場いただいた皆さん、ありがとうございました。富山でかんさつマガジンを制作したりZINEのイベントを開催したりしている小林麻衣さん、東京で芸人と書店員とときどき短歌や文章の制作も行うMAIさん、それぞれプチトークイベントを開催させてもらいました。
 今まで幾度となくトークイベントを開催しましたが、その時その場で生まれた空気感というのはどれも唯一無二のもので、それは話す側の人のみならず聞く側の人たちによってもつくられている空気感なので、来てくださった皆さんには本当に感謝しています。どれもとても思い出深い。
 トークイベントで話された内容を書き残したり音声配信したりするのはイベント当日とはまた別のものだと思っていますが、これはこれでまた新たな発見や広がりがあるので、今回は試しに7月末に行った制作裏話トークの内容をアーカイブとして掲載したいと思います。(一部省略しています)

 7月末、新潟の医学町通にあるBar Book Boxさんでささやかな「なわない」にまつわるフェアを開催させてもらい、その期間中の夜の時間お店を貸し切ってトークの時間としました。参加された方は12名くらいだったかな。暑い日でしたが、夏らしい美味しいカクテルをいただきながら、とても居心地の良い空間での開催になりました。

話し手:井上有紀(木舟舎)
聞き手:イケトヒロクニ
会場:BarBookBox(新潟市中央区東中通1番町86−21)

1.押しつけがましくない雑誌!?

井上:今日は皆さんありがとうございます。「なわない」を出してから初めてのトークイベントです!「なわない」に寄稿や対談で参加した方も来ていますし、これからも見守ってもらったり一緒に何かをつくったりするきっかけになったらいいなと思っています。Bar Book Boxの淳子さんにも、「なわない」では巻末の座談会に参加してもらっています。ありがとうございます。

イケト:今日の聞き手役のイケトです。今日いらっしゃっている方は半分くらいが初対面ですね。私もこの本に文章を寄稿していて、その寄稿の内容でもありますが、長岡市内でシェアハウスを運営しています。生まれは北海道なんですけれども、新潟に来てもう10年くらいが経とうとしています。
 井上さんはこの本をほぼ一人で編集して発売していたわけですよね、だから打ち上げもしてない?

井上:してないね!

イケト:では今日は打ち上げのような場として、この本を囲んでいろいろと話ができたらいいんじゃないかと思います。さっきカクテル飲んでしまって少しほろ酔いだし。笑

井上:ありがとう、いいね。なんとなく今回イケトくんがぴんときてお呼びしました。つきあいとしては、学生時代ツルハシブックス※で一緒にスタッフをしたり、新卒で一緒にシェアハウスをつくったりと関わりは深いですね。

イケト:そうだね。だから最近井上さんとつながった方々が知らない部分も見てきているかも。井上さんは以前とまた自己主張の仕方や考え方がけっこう変わった感じがします。

井上:そうなんだ?笑 まちづくりに関わる仕事をしてきていたり、編集ということに興味があったり、重なるところが多いので安心感もありつつ、フラットに質問を飛ばしてもらえそうだなと思ってイケト君を呼びました。

イケト:自分は依頼されて1つの文章を出したので、いざ本になったものを見ると「つくる」という大きなテーマの中で、思った以上に幅広くいろいろな内容が詰まっている印象がありました。けっこう編集は大変だったんじゃない?

井上:そうですね。でも、今回15人くらいが何かしら寄稿してくださったんですけど、もともとその人の出す言葉が好きで依頼していたし、ある程度予想をしていたところから外れてはいなかった感じですね。あと、もともとそんなに(一つの方向に)まとめようとしていなかったので…

イケト:個々の文章の力は強いんだけど、雑誌の印象として、押しつけがましくない感じが良かったです。解釈の余地があるというか、ゆだねられている感じ。

井上:おお、嬉しい!それはちょっと意図していました。行間というか、一つの言葉や文章から、読み手ごとにそれぞれ違う思い出や考えが浮かぶような本が私自身好きなので…

イケト:最初、長岡の喫茶店で構想を聞いた時、なんというか、すごい見切り発車的な進め方してるなあと思ったんだけど(笑)

井上:その時に言われなくてよかったわ(笑)

イケト:ちなみに「時間と自分」という章はなんでこの名前だったんですか。

井上:「時間」というキーワードは、聞き書きで参加しているよしのさくらさんの文章と、元海産物屋の大口さんのインタビュー記事に特に現れていますね。「世代を超えて伝わるものやその間のコミュニケーション」みたいなことが「なわない」にとって重要なキーワードだなと思ってつけました。あと「自分」っていうのは、私自身が最近よく自分ってなんだろう?ということを考えてしまう傾向が、本の端々に出ていたと思っていて。特にノミヤさんのインタビューでその話が出ていましたね。

イケト:前書きにも「自分」のキーワードがありますね。他人の舟に乗らない。

井上:そうそう。人と暮らすとか働くとかとは別に、みんなそれぞれ人生において自分が納得する舟をこいでいけたらいいんじゃないかなって。

2.雑誌をつくろうと思った経緯

イケト:本をつくろうっていう構想はいつからあったんですか。

井上:出版とか本屋にもうちょっと関わりたいって思ったのは2019年くらいかな。仕事では大学生や若者向けの農村体験・交流プログラムづくりをやっていたんですが、楽しいけど辛さもあるなあと感じ始めていた時期でした。で、そこからまた自分でちゃんと本をつくれるようになりたいって思うのはさらに3年くらい経った、一昨年ですね。

イケト:なんか去年、東京の本屋さんにインターン行ってたよね。

井上:そうそう、国立市にある小鳥書房さん※っていう出版と本屋をやっている方のところね。あと、SPBSさん※の雑誌づくりワークショップにもオンラインで参加したり。

イケト:それで実際につくる段階になっていったのね。

井上:つくりたいけどつくれるわけない、っていうところから、小鳥書房さんとか雑誌ワークショップの講師の方とか編集の仕事をしている方の話を聞いて、だんだんできるかもしれない…?ってなっていった感じですね。2020年ごろから友人と手製でエッセイのZINEをつくっていたんだけど、もっと本っぽいものがつくりたくなっていって。

友人とつくっていたエッセイZINE「あじさい」

イケト:もっと前、2015年~19年とかは、企画とか場(イベント)を主につくっていたじゃないですか。そこから本づくりになった理由は何かあるんですか?

井上:さっき参加者さんが演劇の話でも言っていたけど、企画とか場、プロジェクトへの参加って、そのタイミングに欲している人しか受け取れないと思っていて。その場で私が司会とかコーディネーターという立場で直接言いたいことを言う方法しかないんですよね。それだと届かない人、届かないものもありそうだなあと。本はその人のタイミングで取りにいける。その時差もいいし、待てる感じがいいなと思いました。企画や場もこれからもやりたいけれど、それだけだとちょっと限界を感じました。

イケト:なるほど。書いた1人としては、将来これを自分が見返した時にすごくいいものになるなと思っていました。今や過去のことを書いているので……

井上:うんうん、そうだよね。

3.「つくること」を紐解きたい

井上:今日来ている、なわないの寄稿者にもちょっと言葉をもらおうかな。

詩を寄稿したSさん:最初の打ち合わせでゆきさんがぽろっと「新潟にずっといる人が書いているものという感じがちょっと見えたらいいな」と話していたんですが、つくり始めるとその部分はけっこう難しくていったん脇に置きました笑 でも結果的にそういうものになったかな。どうしたらゆきさんの頭の中のイメージに近づけるかなって考えました。

井上:苦労させてごめんなさい(笑)

イケト:投げかけがざっくりだったから、やっぱりみんな悩みながらやったんだね笑

井上:その感じもちょっと察してましたし、ごめんって思いながらやってました…ただ会える人には直接会って打ち合わせをしていたので、その場を通して感じ取ってくれ!と…笑

イケト:ちなみに、「つくる」というテーマが雑誌の大きなテーマだと思うんですが、なんでこのテーマだったんですか?

井上:このテーマに決まったのはわりと最近というか、原稿依頼する直前まで悩んでましたね。シンプルに今の私が一番興味があって紐解きたいテーマだったんです。一昨年くらいが人生の悩み期だったんですけど、その悩みのひとつが「私は残るものをつくっていない」ことだったんですよね。自分がからっぽなんじゃないかという感覚があって、そんな時に小千谷の藍染の職人さんのところにインタビューに行く機会があり、つくって生きている人のすごさをひしひし感じたりして。でも本当は何もつくってないわけじゃないかもしれないし、つくっていないからダメなわけじゃないかもしれないですか。そのあたりをもう少し解き明かしたいなって思ったんです。

イケト:なるほど。これに寄稿した皆さんは、実はそこまでつくるっていう行為自体のことはそんなに気にしてなかったような気もしますね。井上さんの中で、つくるとはどういうことかっていう仮説はあるんですか?

井上:それはね、いろいろ考えたけど……一つ何か強いものがあったわけじゃないかなあ。自分が「つくる」をやってみることによってそれが見えてきたらいいなとか、あと答えが1つにならないようにしたいなって感じですかね。あとは、「つくる」ということの中に「自分」が現れてくるんじゃないかとか。

イケト:なるほど、「つくること」を探求する雑誌。

井上:そうだね。あとは詩や小説などの作品をつくる場としての雑誌であり、こんな人がいるんだ、って知れる雑誌であり、自分もつくろうと思える雑誌であり…つくる理由はいろいろありますね。

イケト:そして2号、3号と続いていくんですかね。そこも気になる。

井上:続けたいと思っています。まだまだ寄稿やインタビューをお願いしたい人もいるし…!大きなテーマは変わらないけれど、今回は「自分の舟をこぐ」という文言の部分が変わるかなと思います。

イケト:おお、そこが変わるんですね。どんな風に決めていくか気になるな。

井上:何かしら私がタイムリーに関心のある言葉になると思います。「自分の舟をこぐ」もそうだったし…

イケト:一般的に雑誌って何かしら時事性があるものという認識があるんですが、そういう意味では井上さんの時事性が反映されているんだね。

井上:確かにね、雑誌っていうともっと世の中に問いかけたいテーマだったりするかもしれないけど、なわないはかなり個人的だな(笑)

イケト:自分本位の時事性っていうのも面白いけどね。ちなみになんで雑誌だったの?

井上:なんでも詰め込めるからかな。マガジンって言ったりリトルプレスって言ったり呼び方は若干場面に応じて変えてますけどね。

4.流れる水に角度をつける

イケト:ちょっと参加者の方々からも感想など聞きましょうか。

参加者のKさん:自分はまわりにけっこうストイックにものをつくっている人が多くて、それを見ると自分にはできないなって痛感しちゃうこともあるから、つくる人の本と聞くとちょっと警戒していた部分もあったんです。でもこれを読んだときはへこむようなこともなくて、さっき言ってたみたいに押しつけがましくなかった。「つくることを通じた生き方の本」というような感じがしました。

井上:ありがとうございます。とても嬉しいです!私自身もそうだし、ツルハシブックスで出会った人たちを見ていても、すごすぎる人の強い言葉や強気の姿勢みたいなものが読めない時もあるなあと感じていたので、優しくありたいというか……優しいものを持っている人に依頼しているかもしれません。


参加者のMさん:寄稿者の方にはどんな投げかけをして書いてもらったんですか?

井上:私が「つくること」に関する散文詩?みたいなものを書いて、これを読んで一個出してくださいみたいな形で(笑)もちろん個々人で詩を出すとかエッセイを出すとかはお伝えしましたけど。

イケト:なんかAO入試みたいですね……(笑)

Mさん:そうだったんですね(笑)以前はZINEを友人の方と一緒につくっていましたよね。私もこれを読んでなわないたい…って思ったんですが、ZINEの時はどんな流れで始まったんですか?

井上:そうですね、友人のあきさんと2020年ごろからはっぱはらっぱというユニットでエッセイのZINEをつくっていたんですが、それはもっと遊びの延長というか、2人のコミュニケーションをもっと深めたかったり、消化させたりしたかった感じですね。楽しいからやろう!みたいな。

座談会に参加したNさん:座談会に参加して以降、メンバーのISANAさんの仕事場を見に行ったり、BarBookBoxさんとは一緒にマーケットイベントを企画したりして皆さんのつくる過程を見る機会ができて、それぞれの「編集の仕方」があるんだなと感じていました。この雑誌の編集にもある種のリーダーシップのようなものを感じたかな。力強くひっぱるというよりは、ちゃんと人を見て声をかける、という意味で……。

イケト:たしかに。なんだかエディターシップは感じましたね。依頼した人たちは関係性を大事にした人選だと思ったんですが、それには何か理由はあったんですか?

井上:正直自分の編集力にまだ自信がなかったから、それを関係性にゆだねた部分はありますね。どんなキャッチボールができるかをすでに分かっている人にお願いしたというか……

BarBookBoxさん:私たちが企画しているマーケットイベント「たねをまく」では、農家さんから直接はかりうりで野菜を買うんですが、そのときすごくいい会話や表情が生まれるんですよね。なわないをお店で販売することもそれに近いというか、私がゆきさんを知っていて直接納品してもらうからこそ、息遣いを感じて手渡しできている感覚があります。
あと、前にゆきさんと飲んだ時に、「ゆきさんたちの無理なく企画を続けるスタイルがいいね」って言ったら「すでに流れている水に角度をつけてるだけなんです」みたいなことを話していてなるほどと思いました。自分で水を汲んできて流すというよりは、すでにある水源に確信をもってあとはどう流れるかを考える、みたいな。さっきの押しつけがましくなさにもつながるのかな。

井上:うれしいです…私はその一言自分が言ったって忘れてるくらいなんですが(笑)ありがたいなあ。

BarBookBox:これからゆきさんがどこへ向かっていくのか楽しみ。

井上:ありがとうございます、どうなるんだろう……でも今日来てもらった皆さんには、濃淡はあれどこれからも何か関わり続けたいなと思います。
これからもどうぞよろしくお願いいたします!

トーク後のデザートタイム

 ここには書ききれない言葉もたくさんあり「それぞれの章にその人がいて、いろんな人に出会えた感覚があり、読みながら私のやりたいことはなんだ、という問いが浮かんでいました」と話してくれた参加者さんの言葉もとても嬉しかったです。なわないに向けられたたくさんの言葉を受け取った1時間半、思いがけずいろいろな話ができて、こうして半年近くたった今振り返っても新たな発見があるプチトークイベントでした。聞き手役を務めてくれたイケトさん、参加してくださった皆さん、会場・ドリンク提供やトークを提案をしてくださったBarBookBoxさん、ありがとうございました!

※ツルハシブックス・・・2011~16年に新潟市JR内野駅前にあった本屋。地下室で10代が本を探す「ハックツ」企画を行うなど、
※小鳥書房・・・東京国立市のダイヤ街にある本屋。「ちゃんと食べてる?」(2018)など出版も手掛ける。
※SPBS・・・渋谷と豊洲に店舗をかまえる、本と編集の総合企業。

写真提供:亀貝太治(カメガイアートデザイン)

木舟舎の今後のイベント情報などはinstagramから


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