その企業ならではのドラマ
【地方企業のためのPR・広報戦略】課題解決と企業出版 その7
吉備人出版は、設立して2016年で丸21年を迎えます。これまで約540点の本を出版してきました。書店で販売していない私家版の歌集や自分史、報告集などのようなものを含めると、その倍くらいの数になるかもしれません。
本をつくるとき、著者にいつもお願いするのは、「それはあなたにしか書けない内容ですか」と。逆に言えば、その企業、その企業の社長さんでなければ書けない話というのは必ずあるのです。
その一つが「会社の歴史」です。「歴史」を振り返っていけば、いろんなドラマがあります。その会社にとっては「当たり前」のようなことでも、一般の人にとってはとても面白い、とても刺激的な話というものが、たくさんあるのです。
企業の「素の姿」は、消費者、お客様にとっては身近で親しみやすい親近感を得られるものではないでしょうか。
【事例④】
今大ヒットしているカモ井加工紙の「mt」という商品をご存知でしょうか? 全国各地で「mt展」を開催し、大好評を得ています。NHKの朝のニュースなどでも何度か紹介されていました。
同社もともとハイ(ハエ)取り紙のメーカーでした。その後、ハイ取り紙の需要が落ち、住宅建材などに使用する作業用マスキングテープをつくり始めます。簡単にくっつき、簡単にはがれるテープ作りが同社の技術でした。お客さんの多くは、建設会社、工務店、塗装会社です。
同社は何度か会社の危機を迎えるのですが、1923(大正12)年の関東大震災でハイ取り紙の需要が高まり危機を脱します。
次の危機は、バブル崩壊後平成不況といわれる中で住宅建設は落ち込み、着工件数の減少に伴い同社のマスキングテープもどんどん売上を下げます。そこへ1995年(平成7)年の阪神淡路大震災が発生しました。
復興のための住宅建設が急ピッチですすみ、同社のマスキングテープも需要が拡大します。
同社の鴨井尚志社長は振り返ります。
「大きな声ではいえませんが、2度の大震災で我が社は救われたのです」と。
そして、現在の「mt」ブーム。もともとお客様から、もっとカラフルなテープを作って欲しいという要望があり、その要望に耳を傾けていたら、東京からそのお客様が倉敷の会社まで押し掛け、「こんな色、こんなデザインのテープを」
と工場で注文を付けて帰っていったというのです。半信半疑で作ってみると大ヒット。その後も使い方、遊び方は自分たちメーカーサイドが考えるのではなく、お客様に教えてもらうというスタンスを取っているというのです。
こうした企業の歴史を、もともとは社史編纂のために始めた本づくりで、一般の方に読んでもらえる企業出版物にしたところ、予想もしなかった反応が帰ってきたのです。
企業の歴史は想像できないような、ドラマにあふれているのです。
【事例⑤】
2014年9月、岡山市南区大福、たくさんの車が行き交う国道2号沿いに美しいグレーの4階建てのビルが竣工、オープンしました。ダイヤ工業株式会社の新社屋です。
同社は、コルセットやサポーターなどを企画開発、そして販売する運動器のサポーティングシステムメーカーとして広く知られるようになった会社です。
もともとは輸出用にい草のサンダルの製造販売から始まった会社なのですが、半世紀を経て、医療・福祉の分野で全国的にも注目を集める企業に成長しました。
2014年に創業50年を迎え、社史の編纂を計画していたところ、偶然地元紙の経済欄に紹介された筆者の記事を読んで、連絡してこられたのです。2013年5月のことでした。
それから、自社の半世紀の社史をまとめながら、次の半世紀につながるビジネス書にもなるような書籍にしたいとの希望で、『強く、やさしく、面白く―ダイヤ工業〈創造と変革〉の半世紀』という本にまとめました。
本書は、新社屋のオープンに合わせ刊行し、披露パーティーでは引き出物として列席者手渡され、特に同社の商品を支える整骨院の先生からは、「ダイヤ工業のモノづくりにかける情熱や姿勢がよくわかった」とたいへん好評を得たそうです。