何が優れているのか
【地方企業のためのPR・広報戦略】課題解決と企業出版 その5
ここで、「企業出版」に焦点をあてて話をすすめていくために、簡単に「企業出版」について定義しておきます。
企業出版とは、ひと言でいえば、出版を業務としていない企業が、出版活動に取り組むことで、自らの抱える課題の解決を図ること――ではないでしょうか。
具体的な例を紹介しましょう。
【事例②】
(株)おかやま工房の河上祐隆社長の課題は、自身の会社及びそのビジネスの知名度、信用度のアップでした。社長の言葉で表現するのなら、「うさん臭さ」の払拭です。
同社は「リエゾン」というちいさなパン屋の開業支援ビジネスを全国で展開しています。
修行20年、30年と言った徒弟制度が残っているパン職人の世界で、わずか5日間の研修でお店が開業できるというのですから、「えー、本当にできるの?」と、興味のある人はたくさんいるのです。
しかし、一方で「そんなことできるわけないじゃない」と、地方のしかも歴史もまだ浅いちいさな会社では、「どうも信用されにくい」というのです。
担当していた経営コンサルタントが、「なぜこういうことが可能なのか、社長の経歴や指導方法などを本にまとめてみれば、みなさん理解してもらえるのでは…」と提案し、小社を紹介してくれました。
著者である河上社長本人は、それこそ日本中飛び回り、近年では海外プロジェクトが多く、月の半分は海外という状態なので、書く時間もありません。
そこで、1カ月に2度ほど、1回につき約2時間ずつの時間をいただいてインタビュー(聞き書き)をしました。
約半年かけて取材、編集して完成したのが『ちいさなパン屋の革命―〈リエゾン〉河上祐隆の仕事』です。
A5判、191ページ。定価1500円(税別)の本です。初版は2000部。
刊行後、予想していた以上に反応がありました。丸善岡山シンフォニービル店では、ビジネス書ランキング4位に入り、日本図書館協会選定図書にも選ばれました。もちろん、おかやま工房の事務所には本を読んだという方からの問い合わせは急激に増えたそうです。
見学に来られた方たちも、本を手渡され、河上社長への信頼感が一気に高まったとも聞いています。
その後、同社の出版戦略は、海外向けのビジネス支援のために英語版『bakery producer』やコミック版『俺のパン屋』などを制作。2014年にはロサンゼルスやバリにも現地法人を設立し、グローバルな展開が加速しています。
――一冊の本が、会社のイメージ、ビジネスの信用度をアップした例です。
さて、企業出版と呼ばれるものには、どんな特徴があるのか、簡単にまとめて見ましょう。
★優位性の高いこと=信頼性、持続性、コストパフォーマンス、ステータス、ニュース性
★優位性が低いこと=即効性、難易度の高さ
出版物の特徴として、信頼性の高さがあります。
出版物の著者は、その分野の専門家というイメージがあります。
実際、書かれているものは、専門性が高く、社会的な認知度も高いといえます。
さらに、本は非営利性が高いともいえます。
広告について考えてみましょう。
テレビ(ラジオ)コマーシャルは、インパクト、エリア、即効性という点では、他のコマーシャルメディアの群を抜いています。
新聞広告は、信頼性が高く、ある程度即効性もあります。雑誌広告も信頼性が高く、保存性も高いといえます。
以上がこれまで広告の三大メディアといわれていました。
これに最近ではインターネットが加わり、雑誌やラジオの広告費も追い越しています。
日本には出版物を刊行した場合、国立国会図書館へ納本する義務があるというのをご存知ですか? 怠ったから罰則があるというわけではありませんが、納本することで、国がその本の存在を認め、永久に保存してくれるのです。
例えば、20年、30年、50年経過して、この本を探している人がいても、国立国会図書館へアクセスすれば、その存在を確認し、内容を知ることができます。国立国会図書館だけでなく、発行者に在庫があれば、例えばオンライン書店のAmazonなどでも、検索することができます。
また、今後は電子書籍という形式、紙の本の実体がなくても、その内容はデジタルで読むことが可能になります。
本は、書店でも基本的には4カ月から6カ月間書店の店頭に置かれます。テレビ、ラジオ、そして新聞などよりも即効性はない分、持続性が高いといえるわけです。
また、パンフレットやカタログでは、ある一定期間で捨てられることがあっても、本という形式の場合は、なかなか捨てられてしまうケースは少ないといえるでしょう。
本は最長の持続性をもつメディアなのです。