11 戦争防止に市民も理論武装しよう



「吉備野庵爺の問わず語り」(11)

11    戦争防止に市民も理論武装しよう

一体、政府はどこまで民を”統治”出来るのか? 統治の根拠と、それが許される範囲・限界の確認、そして国家の強大な権力でも侵害できない個人の尊厳。基本的人権とはなにか? 国家と個人はどういう関係にあるのか?

現実政治で、憲法が問われるのは、この二つの原理の衝突です。例えば、現在の私たちは、たとえ戦争の危機が目前に迫っても徴兵されることはありません。国際紛争の兵力・軍事行動による解決は憲法が禁じ(9条)、また国民の幸福追求の権利をそれに優先させる既定(13条)を設けているからです。

77年前までは、ハガキ一枚で「◯月○日○時に◉◉に出頭すべし」と徴兵されました。稲の刈り取りで手が離せない、親が病気で、どうしてもやっておかねばならぬ仕事が・・どんな理由があろうと認めてはくれません。普通、ハガキを受け取って数日以内に指定された日時、場所に出頭しなければなりませんでした。

「外敵が攻め手きたら誰が国土を守るのか? 軍備を整え自国を守るのは当たり前。現行憲法はアメリカ占領時代に押し付けられたもの。屈辱憲法を見直し、日本も普通の国家になるべきだ」という政治的キャンペーンが、最近、急に高まっています。

憲法改正が無理なら、せめて自衛隊を軍隊と認めろ、という保守政治家も多いです。でも、私は、”普通の国家”論に胡散臭さを感じています。「北朝鮮が核攻撃して来たらどうする?」「中国は台湾、続いて沖縄を狙っている。国土の守りは?」 

今にも攻めて来る”敵”があることを前提した国家危機説が国民の不安を煽り立てています。臨戦体制を整え、北東アジア地域の政治的緊張を悪化させるような扇動を繰り返す。訳知り顔で国民を不安に陥れるのが政治家の仕事ではないでしょう。

主権者の国民は、そのためにこそ、外交がある。政治家が危機を感じるなら、その緊張を和らげる交渉をこそやって欲しいのです。それでも「戦争になったら、座して死を待つのか?」 無能な政府や政治家の言い草は常に国民を脅します。

そうして畳み掛けてくる議論には、素晴らしい提案があります。今から82年前に反骨のジャーナリストが提唱したもので、そのタイトルは「戦争絶滅受合法案」 ナマケ政府の外交不作為の結果、戦争になったら、どうする? 答えは簡単です。反骨のジャーナリストが残した次の”処方箋”をご覧ください。

              戦争絶滅受合法案

戦争行為の開始後、または宣戦布告の効力の生じたる後、10時間以内に次の処置をとるべきこと。すなわち左の各項に該当する者を最下級の兵卒として招集し、出来るだけ早く、これを最前線に送り、敵の砲火の下に実戦に従わしむべし。

1、国家の元首。但し君主たると大統領たるとを問わず、
  尤も男子たること。
2、国家の元首の男性の親族にして16歳に達せる者。
3、総理大臣、及び各国務大臣、並びに次官。
4、国民によって選出されたる立法府の男性の代議士。
  但し、戦争に反対の投票を為したる者はこれを除く。
5、キリスト教または他の寺院の僧侶、管長、その他の高僧にして
  公然戦争に反対せざりし者。

上記の有資格者は、戦争継続中、兵卒として招集さるべきものにして、本人の年齢。健康状態を斟酌すべからず。但し、健康状態については招集後、軍医官の検査を受けしむべし。

上記の有資格者の妻、娘、姉妹等は、戦争継続中、看護婦、または使役婦として招集し、最も砲火に接近したる野戦病院に勤務せしむべし。

ゴチャゴチャと理屈をこねる暇はありません。一目瞭然。注釈の必要は皆無。明快な提言ですね。筆者は、日本ジャーナリズムの先覚者の誉れ高い長谷川如是閑氏です。これが、昭和4年(1929)に発表された時、大日本帝国は大陸侵攻を虎視眈々と狙っていました。

そして2年後の昭和6年(1931)満州事変が勃発、中日戦争に突入し、それが太平洋戦争へと拡大し、”15年戦争”に国民を総動員した挙句に日本は滅びました。その時代背景を合わせると、政治状況は現在と実に似通っていますね。

再軍備を狙う”普通の国家”論者に反論しましょう。これが邪悪な政治家に立ち向かうこの国の主権者・一般市民の理論武装です。

「あなたの言う”危機”が本当であるなら、まず事情をよくご存知のあなたが先頭に立って国会を動かしてください。”危機”状況の原因を分析し、あらゆる外交チャンネルを活用して緊張緩和に努める。それが政治家としてのあなたの第一の責務です」

「その努力も実を結ばず決裂、軍事対立に陥る最終局面に立った、と言うのであれば、努力の経緯を国民に説明し、あなた自身の決意を実証するため、如是閑が残した「戦争絶滅受合法案」各条を盛り込んだ法律を提案し成立させてください。それが出来れば、私自身が子・孫を引き連れ、あなたについて行きます」

それはしない。できない?? できないのなら、黙ラッシャイ!

皆さん、今こそ、大切な現行「日本国憲法」を守りましょう。我々のささやかな市民生活を守る砦です。これがあれば、邪な政治家の野望が暴走することはありません。

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