「八大人覚」(3)
【楽寂静ついて】
三つには楽寂静。
諸の憒閙を離れて、
空間に独処するを、楽寂静と名づく。
【語義註解】
◉空間:空閑処、集落を離れること300歩~600歩を意味し、閑静
で修行に適した場所の意味がある。
第三は、「楽寂静」(煩悩を滅ぼした涅槃の寂静を願うこと)である。すべての騒 がしい環境を離れ、静かな場所に一人住むことを「楽寂静」という。
仏の言はく、
「汝等比丘、寂静無為の安楽を
求めんと欲 せば、
当に憒閙を離れて独処に間居すべし。
仏(釈尊)の仰るには、「比丘(僧)たちよ、煩悩を滅ぼした涅槃の安楽を求めるのなら、騒がしい環境を離れて一人で閑居しなさい。
静処の人は、帝釈諸天の共に敬重する所な り。
是の故に、当に己衆他衆を捨てて、
空間に独処し、苦本を 滅せんことを思うべし。
静かな所に住む人は、天界の帝釈天や天神たちに敬い重んぜられるのである。だか ら自分に関わる人々や他の人々を捨てて、静かな場所に一人住んで、苦の本を滅ぼ そうと思いなさい。
若し衆を楽ふ者は、則ち衆悩を受く。
譬へば大樹の衆鳥之に集まれば、
則ち枯折の患ひ 有るが如し。
もし多くの人々を好んで求めれば、多くの悩み患いを受けることだろう。例えば大 樹に多くの鳥が集まれば、枯れたり折れたりする心配があるようなものである。
世間の縛著は衆苦に没す。
譬へば老象の泥に溺(オボ) れて、
自ら出づること能はざるが如し。
是れを「遠離」と名づく。
【語義註解】
◉遠離:衆から遠ざかること。
世間から距離を置き「楽静寂」を得よ。人々は、世間の束縛によって多くの苦に沈んでいる。例えば老像が泥に溺れて、自 ら出ることが出来ないようなものである。このように静かな場所に住むことを遠離という。