魍魎の匣ミュージカルを観劇しての感想を徒然なるままに綴る

先日イッツフォーリーズさんによるミュージカル、魍魎の匣を観劇させていただいた。あまりにも素晴らしいミュージカルだったので、感想を書き散らすことにする。ミュージカルの素晴らしさが少しでも伝わればよいと思って書いているものの、所詮は筆不精の乱文駄文。それでも許せる人は読んでもらいたい。

はじめに魍魎の匣とは講談社から出版されている京極夏彦著の百鬼夜行シリーズ第二作目である。ジャンルとしては推理小説・伝奇小説で、異様に分厚い小説のためファンの間ではレンガ本と呼ばれている。百鬼夜行シリーズの中でも魍魎の匣はアニメ、映画、舞台、漫画と様々なメディア展開がなされており、(勝手な推測だが)最も有名なのではないだろうか。

とっても簡単なあらすじを書くとすると、昭和27年、楠本頼子と柚木加菜子は最終列車に乗って湖に行こうとしたが、加菜子がホームから転落し列車にひかれてしまうことから物語が始まる。偶然その列車に乗車していた木場刑事は頼子とともに加奈子の運ばれた病院に向かい、そこで憧れの映画女優で加奈子の姉でもある柚木陽子と邂逅し事件に巻き込まれていく。一方小説家の関口巽は鳥口里美と中禅寺敦子とともに武蔵野バラバラ殺人事件を追っているうちに道に迷い、「匣」のような建物にたどり着く。その「匣」こそ列車にひかれた加奈子の入院している美馬坂近代醫學研究所だった。その後陽子は誘拐予告状を受け取り、厳重な警戒態勢の中加奈子は失踪してしまう。同じころ鳥口はバラバラ殺人を追うのをあきらめ三鷹の穢れ封じ御筥様の調査しており、関口の紹介のもと古本屋で拝み屋の中禅寺秋彦に相談を持ち掛ける。様々な事件が交差するなか、裏に潜む魍魎の正体は。。。という話である。

最初に出会ったメディアは魍魎の匣のアニメである。当時百鬼夜行シリーズは一通り読破していたので、アニメ化になると聞いたときにわくわくしてテレビの前に座っていたことを今でも覚えている。少し脱線するがアニメのOPEDはNightmareさんの楽曲が使われており、今でも時折聞くくらいにどはまりした。特にLost in blue。アニメも素晴らしいのでその魅力を語りたい気持ちもあるが、今回はミュージカルのエントリなので話を本筋に戻す。アニメも見てくれ。

さて、今回魍魎の匣ミュージカル化の話を聞いたときに最初に思ったことは、「それは物語として成立するのか?」ということだ。前述の通り原作小説はレンガ本と呼ばれるほどに分厚く、その内容を2時間ほどで収めたうえで魅力を伝えながら物語を成り立たせるのは不可能なんじゃないかと思った。まったくの杞憂だったわけだが。全体的にテンポがよくてすいすい進んでいってるのに、物語の骨子がしっかりしてて内容が頭に入ってきた。歌が入ることでただ説明口調で続けられるよりわかりやすくなってのかも。

次に思ったことが「誰が歌うんだ?」ということだ。正直に言って主要メンバーの中では榎さんくらいしか歌うキャラに心当たりがなかった。榎さんなら別にミュージカルでなくても歌いたいときに歌いだしそうな感じはある。でもほかのメンバーはというと、関君は鬱々として歌いそうにないし(偏見)、木場修は歌うよりも歌わせる側だし(自白のことね)、京極堂はなかなか腰上げないし。いっそのこと京極堂には「僕は歌劇は苦手なんだ」って嘯いて、滔々と講釈を垂れてもらってもいいかなとさえ思っていた。というかそうでもしないと尺足りないだろう。まあこの辺はミュージカルに疎い私の被害妄想といってもいい。ミュージカルなんだからみんな歌うよなそりゃあ。

前置きが長くなったが、ここからはミュージカルの場面ごとの感想を述べていく。多大なネタバレになるので今から見ようかなと思っている人は先にミュージカルを見てから読んでほしい。

最初に不安にさせるようなバイオリンの旋律と、これから物語が始まるであろうことを予想させるパーカッションが耳に飛び込んできた。次いで舞台上に昭和27年という文字が映し出され、演者が舞台に上がりオープニングが流れ出す。まずこのオープニングがよかった。ミュージカルであるということをこの入りでしっかりと認識できたし、なにより曲がいい。ここで京極堂が登場して歌い始めるが、着流し姿のかっこよさ、歌声の渋さが原作のイメージ通りで鳥肌がたった。そこからほかの主要メンバーが登場するのだが、榎さんの完成度がすさまじかった。ミュージカルの始まる前のキービジュアルでは榎さんは少し伸びた茶髪イケメンで、誰だお前状態になっていたが、ものの見事に裏切られた。もちろんいい意味で。金髪パーマ姿で、さらにポケットに手を突っ込んで登場しているのも榎さんらしくて最高。そこからすべてのキャラが出そろいサビを歌うのだが、まさに圧巻の一言に尽きる。これ見ただけでもこのミュージカルが最高な仕上がりになっていることを直感した。

頼子と加奈子のシーンについては思春期の繊細な感じを歌で表現でされていて、楽しそうな姿をずっと眺めていたかった。それと加奈子の声がイケメンでこれもイメージ通り。もっと声聞きたいなともっていたところで列車が。。。このシーンは加奈子の顔をシリアスになるにつれて頼子の笑顔も消えて行って何があったのか不安にさせられた。なんなら頼子、加奈子を突き落とす手つきになってたよな。

ここで木場修の出番。ここの曲も木場修らしくてよかった。特に「白黒つけろ、善悪決めろ」のところがまさに木場修。シンプルな完全懲悪じゃないと突き進めない感じ。そこから加奈子の運ばれた病院に場面転換。増岡弁護士が女性になってて驚いた。増岡弁護士も悪い人じゃないんだけど、増岡弁護士の親切とか思いやりとかは人に伝わらないんだよな。。。

一方ここで小説家の関口先生の登場。鳥口君も女性になってて、滅茶苦茶明るい曲に。。。これはどうなんだ?と思ったけど、全部シリアスな感じで最後まで進めたら見てるほうが疲れちゃうことをかんがえると、鳥口君の出番を明るくするのはこれ以上ない選択。相模湖に行こうとしてるのに三鷹を3回も通ることで鳥口君の方向音痴も楽観的な感じも表現されてて良い。その後は関君と久保竣公との邂逅。関君、初対面でさんざんなこと言われてるな。ちゃんと鞄を拾おうとしたときに久保と手が重なってるところ、指の欠損の伏線も表現されてて、(知らないと絶対わからないけど)細かいところまで表現してるんだな。相模湖について敦子と青木刑事とか出てきて、その後迷子になって美馬坂近代醫學研究所にたどり着く。警察もみんな女性になってるのはなんでだろうな。

場面転換。加奈子が列車にひかれた日に戻って頼子の親とのやりとりからの御筥様登場。ここの兵衛の兎歩と数かぞえる歌が好き。

美馬坂近代醫學研究所のシーンでは美馬作教授と須崎が登場。須崎の独特の歩き方が陰険な感じを表してて逆に好感が持てる。あと加奈子が失踪したときの歌も、探せ探せ探せのところがよかった。

また場面転換で鳥口君登場。バラバラの歌うたってるけど、単独スクープは難しいから御筥様の話に。やっとここで京極堂が真面目に登場。原作でもアニメでも鳥口君と京極堂の邂逅シーン好きだから、ちゃんと表現されててただただうれしかった。霊能と占い、宗教、超能力の違いの説明が歌になってるとテンポがよくて説明が入ってきやすかった気がする。それにしても京極堂の説明をさくっと理解して自分の話にちゃんと適応できる鳥口君は実はすごい人なのかもしれない。

ここで久保と雨宮の邂逅シーン。匣の中の娘。久保の幸せそうな表情が印象的だった。匣の中に加奈子が入っているのをどう表現するのか楽しみにしてたけど、普通に隣に加奈子が立ってるだけだったので拍子抜け。原作理解してるから匣に入ってることがわかるけど、初見の人はどう受けとったのか。私気になります。

また日付がさかのぼって加奈子失踪の日。ここの木場修と陽子さんの「あんたの敵は誰なんだ。」「それはあなたなのです。」の会話。最初に聞くとわけわからないけど、終わってから見返すとああなるほどってなるから好き。

青木刑事が木場修の陣中見舞いするところ。完全にアドリブ合戦してみてて面白かった。出荷前のこけし。アドリブだから毎回違うんだろうけど、私が見たときは「青木の好きな食べものは何でしょうか」「ばなな」「はずれ。全然わかってくれてなくて青木悲しい」とかやってるのに、結局答えばなななの笑ってしまった。

万を持して榎木津礼二郎の登場。完全にアドリブの塊。イケメン過ぎて目の保養になった。多分視力が0.5くらい良くなった。榎さんのとこの熱帯魚になってひれをたたく練習した。たもさんありがとう。ソロパートもよかった。さすが榎さん。増岡さんの話聞くときも死ぬほど退屈そうだったし。そして口外法度なのに秒で京極堂に全部話す榎さん。

15分休憩

木場修と陽子さんのシーン。陽子さんの大事なシーンで登場する木場修も空気読める男だよな。

喫茶店での榎さんと久保の邂逅シーンのやり取りも好きなシーンなんですが、写真見て衝撃受けてるのに直接は知らないは無理があるよな。でも榎さんと関君だからな。この後の榎さんの「君の友人は変わってるな。マタギ料理でもするのか?それともアステカの神官か?医者には見えないな」っていうセリフも最後まで見ると意味が分かって怖い。榎さんには久保の記憶から少女を切り刻んでるのが見えたんだろうな。

君枝とのシーン。関君を御亀さまって言って持ち上げてるけど、全部榎さんの能力で笑った。ここでも京極堂の説明してた霊能と諸々の違いが活きててすごい(語彙力)。

ここでコロスの人の歌。白い手袋のお化けのはなし。小学生の間で流行ってる都市伝説とかの話を歌にしてるけど、雰囲気が絶妙に怖くていい感じだった。

再び京極堂。京極堂で自宅のようにくつろいでる榎さんがあまりにも貴い。ここからクライマックスに向かって京極堂の集りが増えてくる。御筥様と対峙してるときの京極堂かっこよすぎる。部屋に魍魎があふれてるから帰ろうとしてる京極堂たちを引き留めるシーンで、3人がゆっくり振り返るところ、計画通り感あってよい。

青木刑事と久保の乱闘シーン。青木刑事が久保のことを人殺しと罵るけど、それに対して「僕は人殺しじゃない」っていうの。外から見るとバラバラにして殺してるように見えるけど、久保の中では箱の中の娘を作ろうとしてるだけだから、殺意はないんだよな。なんなら少女の魂がけがれてるから失敗するんだとか原作で言ってるし。

兵衛と久保のシーン。ここの久保のじめじめした感じ久保の感じが出ててよかったし、久保の家で青木刑事が頼子の箱詰め死体を見つけたときの表現方法も、背景も相まって頼子が箱の中に入ってる感があってよかった。

木場修の謹慎明けのシーン。さんざん上司からの命令を聞かないで匣館に居座った木場修なら謹慎なんてまじめにやらないと思いきや、ちゃんと謹慎うけてるの絶対拳銃手に入れるためだよな。美馬坂近代醫學研究所に乗り込んでいったし。それにしても教授に披露した超絶推理すごかったな。ドミネーター持ってるコナン君のコラ画像を思い出した。木場修と教授の対決シーンに榎さんが割って入って止めるところなんかは、木場修が思わず榎さんのことを礼二郎って呼んでて、幼馴染感あってよかった。普段この馬鹿とか呼んでるのにこういう時に素が出てきちゃう木場修。好き。

とうとう京極堂と教授の対決シーン。やっぱり迫力があって圧巻だった。百鬼夜行シリーズの憑き物落としのシーンが一番好きなんだよな。全員の感情演技もあって見ごたえあったけど、陽子さんの悲壮感とか抑えてた思いがあふれ出てしまった感じがとてもよかった。それと京極堂が教授にまじないかけるところもね。「脳は鏡だ。機械につながれた脳が映すのは、脳の持ち主の意識ではなく、つながれた機械の意識だ。」

最後の京極堂での一幕は日常への回帰って感じで主要メンバー中の良い感じが伝わってきて京極堂の壁になりたい。関君の単行本のくだりも「売れないだろうがいい本だね」とか最高の褒め言葉だよな。一周回って。原作だと京極堂に寄港した単行本を榎さんに売りつけようとするシーンがあるんだけど、そこがカットされたのちょっと悲しかったな。まあ、尺の問題もあるから削ってもストーリーには関係ないけど。あと榎さんの「木場修は頑強な豆腐」って台詞も好き。


ミュージカルってものにあまり触れてこなかったけど、とても素晴らしい作品だった。特に舞台に上がってる間はそのキャラを演じてるところがいい。アニメでも映画でもスポット当たってるときしか演者を見れないけど、ミュージカルとかだとスポットが当たってないときでもそのキャラになってないといけないから、ずっと演者見ることもできるし、そのタイミングでの掛け合いもとても素敵だった。とくに榎さん。教授に銃向けてる木場修を止めた後にアイコンタクト交わしたり、久保の入った匣を開けようとした関君を止めた後に榎さんが関君の上着を整えてあげたり。そういった細かいところを見ることができるのが観劇の醍醐味なのかもしれない。

このような素晴らしい作品を観劇できて本当に良かったです。演者の皆さん、スタッフの皆さん、そしてもちろん京極夏彦さん本当にありがとうございました。しばらくは配信で見れるので好きなシーンを見返して余韻に浸らせていただきます。それとチケットを交換していただいた方。最高の座席でした。本当にありがとうございます。

最後に、ここまで読んでくださった方へ。正直何かの感想を書くなんて小学生の読書感想文以来なので、まともに読める文章を書けてる気がしません。それでも最後まで読んでくれてありがとうございます。もし読んで共感していただけるとことがあればうれしいです。良ければ一緒に語りませんか。

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