青森でのキスにまつわるエトセトラ
これがこう。そしてこう。
こちらの記事の続編です。
社会人になってはじめてのゴールデンウィークは、青森にいた。友人に会うために、ある大学の理系キャンパスと、個人経営の居酒屋とスナックで構成された飲み屋街がある小さな町を訪れた。
青森最初の夜は、町で評判の居酒屋へ。日本酒が大好きな友人と私は、2人でいい地酒をバカバカ飲んでいた。
そんな私たちのもとに、1人の男性が現れる。
それは白馬の王子様…ではなく、白髪で還暦のおじ(い)さんだった。
そのおじいは店員だったが、私たちが来店した時点ですでにベロベロ。そんなおじいと日本酒の話で盛り上がった。私たちが聞き上手すぎたのか、可愛すぎたのか(黙れ)、おじいにめちゃめちゃ気に入られてしまった。
すっかり気を良くしたおじいは、「バーに行かないか?」と提案してきた。「スナックじゃない、行きつけのバーなんだ」「スナックじゃないんだ」と訊いてもないのにスナックではないことを強調してくる。社会人になりたての私と大学生の友人は、残念ながら酔ったおじいの誘いを上手く断る術を持ち合わせていなかった。店長や常連さんたちの心配をよそに、私たちはおじいオススメの"バー"に向かった。
居酒屋から数分歩き、バーに到着。おじいに着いて入ると、そこは真昼の教室かと思うくらい白色灯が煌々と光る、清潔感溢れるお店だった。壁、机、備品、全てが白で統一され、バーともスナックとも、何なら飲み屋とも思えない。しかし、いかにもな"ママ"がいることで、ああここはスナックなんだな、と判った。
飲み物と軽食を注文し、おじいとのカラオケがスタート。おじいは、長渕剛の「とんぼ」や昔のラブソングを私の顔面に唾を飛ばしながら大熱唱してくれた。よく覚えてないが、投げキッス付きだった気がする。とんだ求愛行動だ。
友人は早々にこの時間に生産性がないことに気づき、ママと二人で話し込んでいた。
入店から30分ほど経った頃、先程の居酒屋の店長と常連さん2人がご来店。なんと私たちが心配で様子を見に来てくれたのだ。惚れてまうやろ。そして店長は私好みのイケオジだった。リアル惚れてまうやろ。(単純)
彼らは「大丈夫?変なことされてない??」と言いながら席につき、私たちと一緒に飲んでくれた。
ここで店内にいる人を整理する。
ママ、カラオケおじい、イケオジ店長、常連おじ①、常連おじ②、友人、そして私。
さて、誰とキスしたでしょう?
こんなしょーもない問いの答えを考えるなんて、皆さんの人生で最も生産性のない時間だ。早々に次へ進んだほうがいい。なんならブラウザバックして、早く寝たほうがいい。
おじいのカラオケは続く。
イケオジ店長は、家族の待つ家へなのか女の待つ家へなのかわからないが帰ってしまった。
少しの寂しさを感じながら、ママと常連さん①と、おじいを程々におだてながら酒を飲んでいた。永遠とおじいから求愛行動を受け続ける私を不憫に思ってくれたのか、常連さん2人が私からおじいを引き剥がしてくれた。
顎下に習字の筆のような髭をたくわえた陽気な常連さん①(以下、筆髭さん)がおじいに構ってくれている間に、口髭が素敵な常連さん②(以下、口髭さん)と飲んだ。友人は酔って寝てしまっていた。友人の横で、口髭さんと2人で深い話をしていた。
どういう流れだったか思い出せないが、私は口髭さんに大学の友人が急逝した話をした。初対面のおじさんを前に、泣きじゃくる私。そんな私を落ち着かせるために、口髭さんが急にキスしてきたってわけだ。
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あのキスのあとさき
青森でおじさんとキス、というだけで大きな出来事だったのだが、その後も結構なトピックスがあった。
①スマートウォッチを貰う
おじいの機嫌を取り続けてくださった筆髭さん。おじいに付き合わされている私を不憫に思ったのか、何かしら私に得をさせてあげようと立ち回ってくれた。その結果、なぜか還暦おじいにスマートウォッチを貰った。アップルウォッチではなく、明らかに健康管理用。おじいの煙草の匂い付き。
私はスマートウォッチを持っていなかったので、普段使いしようか割と迷った。しかし充電器を貰い損ねた。使えない。充電の切れたそれは捨てるのも忍びなく、私の家に放置されている。
②夢見るおじ達
少し時間を遡る。スマートウォッチを貰うちょっと前、泣き止んだ私が口髭さんと話していたときのこと。口髭さんは優しく、そしてアツかった。
「泣くのを我慢しろなんて誰が教えた、泣きたい時に泣きなさい」「難しく考えるな、簡単や。やりたいことをやれ」とまっすぐな目で私に話す。泣き疲れて全ての話を脳死で頷きながら聞く私に、口髭さんとおじいは夢を語ってきた。口髭さんはいつか自分のお店を持ちたいらしい。還暦おじいは、年配の方向けのホストになるために上京したいという。
いくつになっても夢を語る。自分のやりたいことに忠実に生きろ、と口髭さんとおじいから教えてもらった。嘘偽りなしで、凄くいい街だった。
総括
本当にいろんなことがあった。
しかし、この夜の出来事を一言でまとめようとすると、「青森でおじとキスした」というキモめのタイトルになってしまう。でも、本当にいい夜だった。
泣いたし、見知らぬおじさんからキスされたし、私を慰めるという大義名分でのボディタッチもあった。嫌な方に捉えようと思えば、いくらでも捉えられる。
でも、一連の絡みはおじさんの下心ではなく、優しさによるものだったのだと私は結論づけた。私はあのおじさん達が好きだし、青森が好きだ。
総じて、とても素敵な思い出になった。
私は物事を穿った目で見てしまいがちだ。
でも、もしかしたら案外人や物事に裏はないし、やりたいことは凄くシンプルなのかもしれない。かっこ悪さとかっこよさって、表裏一体なのかもしれない。
…まあ、知らんけど。
延長戦
③おじいからのLINE
「心配だから、家に着いたら必ず連絡しろ」と強制的におじいにLINEを交換させられた。帰宅後、しっかり無事だと報告したため、それで終わりかと思ったのだが、なんと毎朝LINEが来た。文面は決まって「おはようさん🐶」。私が既読すらつけなくなっても送り続けてくるのだ。公式LINEかよ、怖えよ。
無視し始めて2週間くらい経つと、やっとこりたのか朝の挨拶配信は停止した。世間一般では、こんなおじいをキモいと評するのだろう。しかし、未だにおじいをブロックせず、トーク履歴を消しもしない私のほうが、だいぶキモいと私は思う。