落とし物【短編】
3年ぶりに訪れた懐かしい街は、ついこないだのことのように、ここを歩く私を思い出させる。
相変わらず何もなくて変わらないなと思ったのはつかのまのこと、違わないようで何かが違う気がした。
薬指に真新しい指輪が光る同級生、腕のタトゥーが増えた美容室の店員さん、マンションに建て替えられた元バイト先、住んでいたマンションの隣にできた新しい一軒家。
人が変わるように街も変わっていく。そこにあるものは、いつしか私の知らないものになっていた。
行きつけだったバーに救いを求めるも定休日で、すっかり行くあてもなくなってしまう。
この街にはもう会いたい人もいないのかと途方に暮れて、ただ寂しさだけを連れて歩いた。
ふと通学路にあったドラッグストアを通りがけに覗いてみると、見覚えのある白衣姿のおじいさんが見える。
それは特に会話をしたこともない、週に数回買い物をするドラッグストアの店員さんだった。
ウェーブがかった白髪に白衣を着て、今もメガネをかけている。
その瞬間ずっと見つからなかった宝箱の鍵を見つけたような、そんな嬉しさが込み上げた。
今度は嬉しさを連れて駅に向かった。
夜中によく会った友人、ふらっと現れる酒癖の悪い恋人、行きつけのバーに駅前のスーパー、線路沿いに咲く桜の花。
忘れかけていた淡い記憶たちを拾い集めて歩いた。
しばらくこの街に来ることはないだろう。駅前の横断歩道で立ち止まりながら、ふとそう思った。
見上げる信号はもうすぐ青に変わる。