《2009年は助成金があるからできることがあると知る》
初めてでした。京都で活動する振付家に「おめでとう!」と声をかけられたのが。
春の初めの頃だろか、京都芸術センター前で出会った年上の振付家の方に挨拶をしたら、「きたまりセゾンとれたんだね!おめでとう!京都の振付家でとれた人初めてだよー」と言われ、「へっっぇ」っとなってしまった。「そうなんか…えっ!そうなんだ!」とざざっと顔が青ざめた。「えっ!どうゆうことそれって、どうゆうこと?」と、助成金をとった重みがズズンときた。「買わぬと宝クジも当たりはせぬ。当たるかもしれぬから、助成金も手当たり次第出さねばならぬ」というような精神で、当たるも八卦、当たらぬも八卦で手当たり次第に助成金を申請していたのだ。
前年度からトヨタのノミネート効果で助成金も採択されはじめていたので、セゾンもとれたよしっ!ぐらいの心でいたが、そんなことではないのだと青ざめた。これはアーティストとしての大きなことなのか…他のアーティストのチャンスを自分がもらった、もしくは奪ってきたという自覚が生まれてきた。同時に私はアーティストとしてまだまだ半人前だと実感している。あの人やこの人にくらべるとまだまだ、たりぬ。たりぬ。気概はあるが何かが足りないから、このセゾンでとれた助成金で、ちゃんと考えて、それを補おう。あと一緒に作品を作っているダンサーにもセゾンの助成金を何らかの形で分配できるような枠組みを考えよう。と公演予算にしなくてもいいという、セゾン文化財団の助成金の特色をよく考えて使い道について思案した。
そもそも申請段階では京都でダンスの観客を増やすために無料公演をしたい!みたいなことを書いたのだが、助成金の重みを感じて、ひとつの無料公演で全額使うようなことはできないな…観客を増やす方法はまだいくらでもあるが、アーティストとして成長しなければ未来はないから、私とカンパニーメンバーの成長のためにこのお金は使おうと事業を考え直してできたのが、トークセッション「最近どない?」だった。
この企画はアーティストとして言葉が不自由だと自覚していた私が、言葉を掘り下げるために、気になるアーティストをトークに呼んでとにかく質問しまくる企画で、セゾンのジュニア・フェローだった2009-10年の2年間で計10回開催した。vol.1/KENTARO!![東京ELECTROCK STAIRS主宰、vol.2/山崎彰[悪い芝居主宰]、vol.3/塚原悠也[contact Gonzo]、vol.4/坂本公成[モノクロームサーカス主宰]、vol.5/上田誠[ヨーロッパ企画主宰] 、vol.6/多田淳之介[東京デスロック主宰]、vol.7/小野寺修二[カンパニーデラシネラ主宰]、vol.8/益山貴司[子供鉅人主宰]、vol.9/山口茜[トリコA主宰]、vol.10/ウォーリー木下[sunday主宰]というメンツだった。今思えば演劇の人ばかりだったのは《言葉》を強く欲していた現れだったのだろうと思う。
トークセッション「最近どない?」vol.1-vol.8までは京都芸術センターの明倫WSの枠で和室や大広間で。vol.9とvol.10は大学の恩師の映画監督・林海象さんの営むバー探偵で開催。写真はvol.5のヨーロッパ企画の上田誠さんがゲストの回の様子。毎回ゲストを人前で90分質問ぜめにしてきた。
あとは2009年に京都文化博物館の別館で上演した【OMEDETOU】という作品に出ていたダンサーに向けてワークショップをして欲しいと、外部のダンサーにお願いして開催した。この頃には短い作品はよく作ってて、演出と振り付けすることには大いなる意欲にあふれていたが、ダンス作品でもっとも重要な身体性のありようの解説や、振りを踊る為のテクニックをダンサーに伝えることについては、できていない自覚があったし、コンスタントに作品を作っているとダンスレッスンに足を運ぶ機会も少なくなっていたので、自分もダンスを学び直す心持ちで、年上のダンサーの方々に【OMEDETOU】の稽古場にワークショップをしに来てもらっていた。
2009年3月【OMEDETOU】@京都文化博物館 別館 撮影:waits
この【OMEDETOU】という作品は、2007年にアトリエ劇研で上演した【おめでとう】の再創作という形で、音楽と舞踊の祝祭性をテーマに作っていた。【サカリバ】の創作でベッドという日常的な家具を舞台上でいろんなものに見えるように工夫することを覚えたので、【おめでとう・OMEDETOU】シリーズではテーブルを使って、違う景色が見えるように模索していた。あと音と身体の関係は、呼吸と身体の関係のようなものだなと思いながら、2009年の京都文化博物館の別館で上演した【OMEDETOU】は、その後に神戸の生糸検査所跡でもバンド4人の生演奏で上演をして、そこから録音で新長田に移転した年のダンスボックスやNYのジャパンソサエティで上演したりと、同じ作品を短くしたり長くしたりいろんなバージョンでやって、その都度なにかと実験ともいえる再創作をしていた。
2009年3月【OMEDETOU】@京都文化博物館 別館 撮影:waits
そして、【OMEDETOU】までは作品に出るダンサーは大学の後輩や先輩に比較的緩やかに声をかけていたのだが、セゾンの助成金もとれたし、今までゆるやかに声をかけていたダンサーにKIKIKIKIKIKIのカンパニーメンバーになるかならないかの意思確認を表明してもらい、メンバーとして活動をすると表明した野渕杏子と花本ゆかの修練事業について考えた。それで翌年度は自分たちでソロ作って公演するんやでと託した【ソロダンス公演】と、外部の振付家の作品をKIKIKIKIKIKIのメンバーが踊る【KIKIKIKIKIKI作品依託公演】をやった。結果的に【ソロダンス公演】【KIKIKIKIKIKI作品依託公演】はセゾン以外の助成金も採択されて実施したのだが、セゾンの2年間助成があって公演計画と共に修練計画の予定をたてられたから実現できた事業だったし、この2年があったからこそ、次に繋げる活動や、来年、再来年なにをやりたいか、アーティストとしてやるべきこと、必要なことを考えるきっかけになった。
【OMEDETOU】の音楽はPaoというバンドで、いろんな場所で、音楽とダンスの実験的な試みを大いにやった。写真は「ききみみ」というイベント。2009-10年の間にUrBANGUILDで3回開催した。vol.1,2は音楽家とダンサーのセッションで、vol.3は金粉ショウのイベントだった。