『学校選択制のデザイン―ゲーム理論アプローチ (叢書 制度を考える)』

ゲーム理論によるマーケットデザインの中でも、比較的成功して議論も活発であるマッチングのうち、学校選択制について論じた本です。

この本の特徴的で良い点は、ただの理論分析にとどまらず、制度の背景とその現状、理論分析、実証、適用(実行/提言)といった全方位について言及している点で、いわばマッチング理論の横の広がりではなく、学校選択制の縦の串刺しで本を構成しているということです。このような理論から適用までの全体を捉える姿勢は、いかにも現代的な学問らしさがあり好感が持てます。

中心的な議論は、ボストン方式、受入保留方式、トップ・トレーディング・サイクル方式、「東京方式」について、その長所/短所の分析にあります。確実に言えることは、どれも万能(あるいは支配的な)な方式ではなく、地域の実情や選好に応じて方式を選んだりオプションを付け加えたりすることが現実的であり、正にここに「制度をデザインする」意義と面白さがあります。

中でも最も興味深いことは、今後の課題で述べられた「耐戦略性をどう評価するか」です。実際に理論上では耐戦略性を満たさないボストン方式が耐戦略性を満たす受入保留方式に劣後する一方、実証ではボストン方式の方が高いパフォーマンスを得ることがしばしばあります。そして、そもそも戦略の余地が与えられるということは、自由と格差を生み出すことにつながり、それが義務教育における学校選択の性質にそぐうかどうかという倫理的な判断の俎上に載せられる問題であるということに繋がります。

マッチング理論は、保育所受入の問題にも適用拡張できるでしょう。そして、大学入学、新卒一括採用にも言えることですが、年1回で一括で決定的なマッチングの場を設けること自体が問題を孕んでいるのであり、1回のマッチングの場がより分割され柔軟になるべきでしょう。この本の眼目ではありませんが、それも重要な「制度のデザイン」です。

『学校選択制のデザイン—ゲーム理論アプローチ (叢書 制度を考える)』

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