『けっきょく、よはく。 余白を活かしたデザインレイアウトの本』
レイアウトデザインの指南書としては久々の佳作といえます。
ビフォアアフターの見開き対比で課題と解決策を解説する最近多いスタイルです。6ページでひとまとまりのセクションの終わりには、シーン別の書体と配色の選び方が3パターンずつ用意されていて、これだけでもその都度見返すレシピとして活用できます。
今どきだな、と思うのは、紹介されているフォントが全てAdobeのTypekitで提供されているだということです(一部の日本語フォントにはそうでないのがあってそれにはフォント名が表記されていません)。どんどん紹介されているフォントを試してみることでフォントの感覚がつかめてくるでしょう。
一方で、印刷物、それも一枚物の作例に偏りすぎていて、ウェブのレイアウトデザインには適用しにくいかと思います。また、配色にCMYKの数値を掲載してない点は、フォントに対する丁寧さに比べてリーダーフレンドリーではありません。
ビフォアの作例は、ありえないほど極端なものではなく、一通りスキルを学んで「手を動かすことだけはできる」人が作ったっぽいものになっていて、絶妙です。そういう点では、構成やタイポグラフィ、配色、イラレの使い方などを知った人がネクストステップとして読むのに適しているでしょう。ポップなものからシックなものまで、幅広いシーンを網羅しているので、これ1冊でかなり戦えると思います。地方の印刷業者勤務のデザイナーがイベントチラシを受注するくらいのレベルならこれで十分通用します。
逆に言うと、クライアントの立場の人でも、適切な提案をしてより良い成果品を得るために、レイアウトデザインにはどのようなチップスがあるのかをこの本で知ると良いでしょう。それなりの高額で発注したり相手がエスパーデザイナーだったりしない限りは(ましてや入札で選んだ業者だと)、「目を引くようないい感じのデザインにしておいて」程度の指示の仕方だとろくなものが返ってきません。そのような場合だとデザイナー側も困りますし、クライアントの想いや熱意がなければ誰の得にもならないプロジェクトになってしまいます(デザイナー側も、クライアントの力量を見透かし足下を見ます)。パラパラと図版を見比べて「好き/好きじゃない」を楽しむだけでも学びになりますのでぜひ読んでみると良いでしょう。
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