水戸市ダブル選挙を解説してみる
さて、ダブル選挙が執行されている水戸市です。水戸市長選挙と水戸市議会議員選挙が4月16日に告示され、23日の投開票に向けて各陣営とも戦いを繰り広げています。
しかし、市内に滞在しているよそ者として、あまり選挙が盛り上がっていないように感じています。そこで、水戸の選挙を観察していきたいと思います。
まずは、市長選挙。高橋靖市長に大内久美子元県議が挑戦する戦いですが、この構図は8年前にもありました。その時には2期目を目指した現職の高橋市長が73,125票に対して大内候補が27,989票でした。
4年前は弁護士のやはぎ陽一氏が挑みましたが、高橋市長の70,616票に対して27,456票で敗れています。そのやはぎ氏は16日の出陣式で大内候補の応援演説に立っていました。
両者の演説を聴いてみると、どこまでも平行線で交わらないという印象でした。高橋市候補は市政全般にわたり網羅的に政策の進め方について説明していましたが、大内候補の側は現市政の進め方に対する批判が主となり、政策の実現可能性について具体的な提案が伴っていないように感じました。
議員の選挙であればそれでもよいのですが、市長選挙となると就任した瞬間からすべての自治体経営について疎漏なく的確に対応しなければならないので、アンチテーゼではなく未来の自治体と住民生活を描いて責任を果たす姿勢を提示する必要があります。
その点で、高橋候補の演説は子育て、介護、医療、教育、文化、経済、まちづくり、人口減少対策と具体的な施策を関連付けながらまちの将来像につなげて説明しているため、当選してどのような水戸市にしたいのかということがわかりやすいものでした。
大内候補についても、医療費ゼロ、保育料ゼロ、給食費ゼロ、国保・介護・水道料金引き下げ、補聴器購入補助、東海第2原発再稼働ストップを掲げていますが、現在の市政のうちどこを削減して財政資源を振り向けるのかなどの実現可能な施策展開について具体的に語るとよいのではないかと思われます。
高橋候補も大内候補も同日選挙ですので市議会議員とのタイアップが重要になります。高橋候補は後藤みちこ市議会議員候補と、大内候補は田中まさき市議会議員候補と一緒に演説をすることで相乗効果を狙っていました。
さて、それではタイアップいている市議会議員選挙についてはというと、こちらもお世辞にも盛り上がっているとは言えないようです。
一昨日、水戸市内で目撃した選挙カーは、綿引健、たかくら富士男、うちこし美和子、後藤みちこ、柏しゅうこ、小泉こうじ、田尻ゆきこ、なめかわ友理各候補くらいでした。
昨日は、なめかわ、なかにわ由美子、鈴木のり子、森ちよ子、松本勝久、柏しゅうこ各候補の選挙カーを目撃しましたが、このペースでは遭遇のコンプリートは難しそうです。
手を振っても気づいてもらえなかったり、手を振ろうにも猛烈なスピードで住宅地を走り抜けたりして、何のために選挙カーを運営しているのかわからず、単に走らせているだけという陣営もあるようでした。
選挙カーの拡声器で候補者の名前しか言わずに政策も訴えないのに音声がうるさいという意見もあります。車上からの拡声は候補者名の連呼以外は認められていません。
そして、「有権者の自宅近くを選挙カーが走っても候補者の好感度を上げることはなかったが、街頭演説などで候補者と接する機会が多いほどその候補者に対する好感度が上昇していた。投票行動には選挙カーが近くを走ることや候補者と接する機会が増えることの双方が影響を与え、近所の住民同心の情報交換も一定の影響力を持つことが分かった」という研究結果があります。
ですから、陣営としての運動量としては、選挙カーを選挙区内に隈なく回して有権者に選挙があることを気づかせたうえで、街頭演説や個人演説会で有権者とふれあい、政策を訴えるという重ね技が大切になるでしょう。
しかし、選挙カーを回っていたとしても、有権者の側からすると目撃できるのは偶然でしかありません。緻密な選挙をする場合には予め1週間の運行計画を立てた上で翌日の街宣行程を広報して街宣先に支持者を集めたりするのですが、水戸ではあまり行われていないようです。そうすると、選挙カーに出会うことも稀になってしまいます。
それではその街宣計画はどうやって有権者に知らせるのでしょうか。「後援会内部資料」として関係者で共有するというやり方もありますが、最も手っ取り早い広報方法はSNSで拡散することでしょう。
水戸市長選挙の高橋候補は毎日ブログを更新していますし、それと連動してTwitterで発信しています。高橋候補の場合は、街頭演説と個人演説会を織り交ぜての選挙運動になっています。緻密な選対ではダイヤグラムのような街宣行程表を作る場合もあります。
各候補のSNSでの発信状況を確認してみると、市長選挙での高橋候補は日ごろからのブログ、Twitter、Facebookを毎日のように更新していますので、訴求力は高くなっています。高橋候補のTwitterのフォロワーは1万人近くいて、告示日のTwitterは1.7万表示を数えていますし、Facebookの告示日の投稿には600を超えるいいね!が付いています。
それに対して大内候補はTwitterのフォロワーが2600人余で、告示日の16日こそ3連投しましたがその後のTweetはなく、高橋候補が毎日順調に投稿していくのとは対照的です。ただし、日本共産党の江尻かな県議や田中まさき、なかにわ由美子両市議会議員候補のTweetと相乗していることに注目が必要です。共産党系の候補者はこうしてアカウントを連携してPRを展開することで効率的な拡散ができることになります。
その流れで田中まさき市議会議員候補のFacebookを確認していたところ、4月2日の投稿に「女性市長で市政を変えよう」と大書した垂れ布を前に街宣車のうえで大内くみ子市長選挙立候補予定者(当時)が名前入りのたすきを掛けている写真が見つかりました。田中立候補予定者(当時)もその横で自分の顔と名前の入った幟を立てて名前入りたすきを掛けて演説をしていました。4月10日の投稿では水戸駅南の駅南大橋にずらりと「大内くみ子」「田中まさき」の幟を並べて、田中立候補予定者(当時)が名前入りのたすきを掛けて演説している写真がアップされていました。
16日から始まる選挙運動期間の「前」に「市長」と書いて「市政を変えよう」と呼びかけ、特定の候補予定者の氏名を示しているので、いずれも関西では事前運動の選挙違反に当たる可能性が極めて高い事案です。茨城県警の感度が低いため、水戸市では摘発されていないだけでしょう。
話が少しズレましたが、SNSを駆使して水戸を活性化しようとホームページで訴えている立憲民主党のはぎや慎一市議会議員候補は、Twitterのフォロワーが13人しかいませんが、以前から利用しているFacebookではライブ機能を駆使して訴えを映像で配信しています。Facebookの投稿によれば、はぎや候補の出陣式の様子は次のような感じだったようです。
《出陣式には、主催者・御来賓を含めて約60人の方々が参加してくださいました。/いつもお世話になっている水戸八幡宮の権禰宜さんお祓いをしていただいて気持ちを整え、後援会長さん、福島伸享衆議院議員、内山裕連合茨城委員長、玉造順一立憲いばらき副代表などから激励のお言葉を頂戴いたしました。/そして、勝手連のリーダーのトランペットの伴奏により、「ふるさと」を全員で斉唱後、今期限りで引退される飯田正美議員からタスキを引き継いで、出陣のあいさつをさせていただきました。》
さて、Twitterのアカウントの中で注目してしまうのは、今回の市議会議員選挙で最高齢の82歳で出馬した松本勝久候補です。11期44年の議員生活を過ごしてきた松本候補ですが、先ほども「厳しい選挙です」とアナウンスしながら遠い道を選挙カーが走っていきました。
その松本候補のTwitterからは選挙事務所に高齢の運動員の姿しか確認できないにもかかわらず、きめ細かくTweetが連投されているのが驚きなのです。《聞こえの良い「理想政策」は要らない!》と若い世代の候補者に対して強烈な宣戦布告もしています。
しかも、いかつい(失礼w)お顔の写真が載る場合には、その隣に必ず猫の動画を一緒に載せてほっこりさせるという心憎い対応もされています。毎日のお昼ごはんもTweetして親しみを感じさせるものとされていて、若者が中の人として参加しているのではないかと思われます。
出陣式には大勢の支持者が立ち見で参加している様子が見て取れます。ペットボトルや缶コーヒーが並んでいましたが、公職選挙法上はグレーゾーンやや違法側でしょう。関西ではアウトであろうと思われますので、茨城県警の低ハードルはこういうところでも確認できます。
松本候補は「市政44年の実績・ベテランだから!ベテランしか出来ない支援策もあるんです。任せて下さい!!」と主張していますが、4月18日18時30分からは高橋やすし候補と合同演説会を吉沢市民センターで開くと告知していました。その後、田所衆議院議員と高橋市長を交えて開催された様子がTwitterから窺えます
松本候補に次ぐ高齢候補であるはかまづか孝雄候補のSNSアカウントは確認することができませんでした。もし見つかったらご一報ください。
それでは若い世代のSNS活用はどうなっているでしょうか。最年少は参政党の池田ゆうき候補(30)、次いで立憲民主党のなめかわ友理候補(36)、自由民主党の小泉こうじ候補(41)、無所属のまえかわ航太朗候補(42)辺りを観察してみましょう。
池田候補はTwitterではアカウントが見つかりませんでしたが参政党茨城支部(公式)が動きを報じています。また、お友だちが886人の池田悠紀名義のFacebookアカウントからライブやリール動画で映像を届けています。
なめかわ候補は「なめかわ友理 / なめっち《水戸市議会議員》」名のTwitterと「なめっち ゆり」名のFacebookを連動させています。毎日、演説動画をアップし、フォロワーとの交流も欠かしていません。
《私はウグイスさんをつけていません。 9時〜20時まで選挙カーに乗り続け、自身の声で想いや政策をお伝えさせていただいております。 行く先々で様々な出会いがあり、励まされる思いです》
公式サイトはTwitterと連動して最新情報を提供しています。なめかわ候補の事務所を訪ねたところ、選挙ビラをいただきました。
小泉候補は公式サイトとFacebookを活用しており、Twitterアカウント「小泉こうじ」は昨年12月の茨城県議会議員選挙で落選した後は動いていません。特に公式サイトが充実しており、告示前の内部資料でも街頭演説日程は公式サイトに誘導して告知しようとしていました。Facebookアカウントは届出名の「小泉こうじ」ではなく本名の「小泉康二」で運用されています。
まえかわ候補はTwitter、Facebookそれぞれでアカウントを持っていますが、16日にはInstagramでのオンライン個人演説会を、17日以降はYouTubeライブでの個人演説会を毎晩20時から開いています。本人の主張が「共感票を集めたい!」「無所属新人が当選するロールモデルとなりたい!」「だからSNSでとにかく想いを伝える!」ということです。YouTubeのアカウント名は「カウンセラー市議・まえかわ航太朗」です。
SNSやネットのような空中戦だけでなく、大事なのは地上戦です。そのための拠点が選挙事務所ということになります。選挙事務所では選挙ビラを配布することができます。試みに無所属新人のうちこし美和子候補の選挙事務所を覗いてみました。国道50号の大通りから石田外科医院の駐車場を通った奥にあるので入りにくい雰囲気でしたが、気軽に入ってよいようで留守番の運動員の人から選挙ビラをゲットしました。
また、選挙ビラは候補者本人が街頭演説している場所でも配布されています。後藤みちこ候補がヨークベニマル双葉台店前で演説しているところに遭遇しましたので、運動員の人から選挙ビラをゲットしました。こうなってくると全部の選挙ビラを集めたくもなります。公職選挙法上でできませんが、法改正をしてどこかで選挙ビラを一度にすべて入手できるようにしてもらいたいものです。
その他にも市議会議員候補は定数28に対して全部で34人が出馬しています。選挙ポスターについては別にまとめてありますので、そちらを参照してください。
それでも、まだまだ水戸の選挙は盛り上がっているようには感じられません。選挙啓発をどうするのかなと思っていたら、4月18日10時7分に防災行政無線を使って水戸市選挙管理委員会が23日の投票を呼び掛ける放送を行いました。うるさいとか怒られないのがすごいなと思いました。もしかしてみんな行政のやることを気にしていないのかな。