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外国人の年金脱退一時金問題について

 10月30日15時から衆議院第二議員会館の稲田朋美代議士事務所を小坪慎也行橋市議会議員とともに訪れました。ここには有力市長と稲田代議士の夫である稲田龍示弁護士も同席しました。

 案件は外国人に関する年金脱退一時金の問題です。この問題は地方自治体においては今後リアルに地方財政を打撃しますが、これまであまり関係者には知られてきませんでした。

 脱退一時金とは、在留外国人が国民年金や厚生年金保険の被保険者資格を喪失して日本を出国した場合に請求することができるお金のことです。

 これは小坪議員が長い期間をかけて実務的な裏取りを積み重ねながら実態に迫り、行橋市議会の本会議場において行橋市当局から言質を取ったところから表に出てきた問題です。

 極めて簡単に言えば、日本人には掛金納付が義務付けられている年金について、外国人であれば帰国時に年金から脱退した場合、掛金の一部が脱退一時金として支給されるというものです。

 これだけの説明であればふーんと聞き流すところですが、実は脱退一時金を受給した外国人が再び入国して就労しているという事実が明らかとなり、物事は深刻になってきました。

 つまり、脱退一時金を受給して脱退したはずの外国人が再度入国して年金に再加入しているのです。この外国人は、帰国時に年金を脱退してまた脱退一時金を受けることになります。

 そして再入国。これを繰り返していくと、年金支給年齢に達した高齢外国人は無年金もしくは低年金状態となり、多くが生活保護の受給対象者に雪崩れ込んでしまうのです。

 果たしてこの対象者はどのくらいかというと、過去10年間で72万件という数字が小坪市議の質問に対して行橋市当局が調査して答弁したことで白日の下に晒されてしまいました。

 現在のところ、外国人が年金脱退一時金を受給して再入国することは妨げられていません。むしろ特定技能など範囲の拡大した熟練労働者として多くが再入国しているものと推測されます。

 こうした外国人が入国する際には就労ビザや留学ビザであっても、やがては永住資格を得ることができます。しかも問題なのは永住資格を持つ外国人も脱退一時金の受給対象者なのです。

 72万件すべてが対象ではありませんが、このうちの相当数が年金脱退一時金を受給しながら再入国を繰り返し、無年金もしくは低年金から最終的には生活保護の対象者になりかねない恐れがあります。

 この生活保護の財源の4分の1は基礎自治体の負担となっています。しかし、これまでこの問題は基礎自治体には知らされてきませんでした。今後、自治体の経常経費が増加することは確実であるにもかかわらずです。

 なぜこのような事態に陥っているかというと、外国人の出入国管理と在留管理は法務省出入国在留管理庁が、年金制度は厚生労働省年金局が、生活保護は同省社会・援護局がそれぞれ縦割りで所管しているからでした。

 そこで小坪議員は稲田代議士に事情を説明、事態を重く見た稲田代議士は厚生労働省、出入国在留管理庁からそれぞれ事情を聴き、状況について報告を受けました。

 その報告に基づき、稲田代議士は10月24日に衆議院本会議での自由民主党・無所属の会の代表質問の際に外国人の年金脱退一時金問題について政府に問いただしました。

 それに対して武見敬三厚生労働大臣は、この問題は制度の運用の狭間で生じる課題であり、関係省庁とも連携しつつ必要な改善を図ることは重要であると答弁したのでした。

 また、武見大臣は、必要な実態把握を行いながら、在留資格に関する議論の状況等も踏まえ、次期年金制度改革改正に向けて必要な検討を行うとまで踏み込んで答えました。

 ここまでで小坪議員は国政与党を動かしながら、省庁が分立する政府の統一的な答弁を引き出すことに成功しました。しかし、これで物事は終わりではありません。

 これから個別具体的な課題を複雑な制度の改正に一つひとつつなぎ直していかなければならないのです。その個別具体的な課題を抱え、財源負担までさせられるのが全国の自治体です。

 地方六団体のうち議員サイドの3団体についてはこれから順次意見書の審議採択が全国的に行われていくことになります。その一方で理事者側の3団体が真剣に動く必要がありました。

 とりわけ現場を持たない全国知事会と自治体規模が比較的小さい全国町村会は除いて、ターゲットとしたのはわが国最大の政策シンクタンクでもある全国市長会でした。

 首長たちの理解と協力がなければ個別具体的な課題を一つひとつ制度改正につないでいくことができなくなります。首長とりわけ市長会との連携は喫緊の課題でした。

 そこで、全国市長会副会長経験者である私が小坪議員とともに有力市長を伴って稲田代議士からこの問題の深刻さやこれまでの省庁ヒアリングの様子を直接聴くことになったのでした。

 小坪議員は開口一番「この場ができたことだけで感無量です」と述べました。一地方議員の一般質問から元国務大臣が動き、与党の代表質問につながり、首長サイドに状況が共有される端緒にまでたどり着いたからでした。

 その場で稲田代議士の口から説明を受けた内容は、おそらく全国の自治体にとっては初耳でありなおかつ衝撃的なものであろうと思います。しかも迫っているのは静かなる危機なのです。

 その危機の元は出入国在留管理という国の事務から始まり、国民年金制度という法定受託事務を経て、最終的には生活保護という法定受託事務に結実します。自治体には裁量の余地がないのです。

 それなのに、自治体に裁量の余地のない制度に則って増加する可能性の高い財政負担は、このまま放っておけば必ず自治体財政に深刻な危機をもたらす規模になるのです。

 ところが、今すぐの危機でないために、その危機感を共有するためには困難が伴います。そこで稲田代議士から各省庁に問いただした内容について詳しく聞くことで危機感を共有する必要がありました。

 まずは、なぜ永住者にまで年金の脱退一時金を支給しているのかという問題です。永住者というのは日本人同様日本国内を終の棲み家とし、わが国の社会保障制度を利用する蓋然性が高いはずです。

 しかし、日本人と同様に社会保障制度の対象となり得るにもかかわらず年金の納付義務が免除される脱退を繰り返し、挙げ句の果てに無年金や低年金高齢外国人を量産して生活保護対象者を増やしかねないのです。

 それに対する国側の見解は、 脱退一時金制度が創られた当時、永住者は日本国籍を取得せず他国の国籍を有するので老後を日本で暮らす蓋然性も含めて日本人と完全に同等に考えることが難しかったためと考えられるということだったそうです。

 「考えられる」すなわち、制度が創設された当初の関係者は既にいないために現在の担当者が推察できるのがそういうことではないかということです。しかし日本で暮らす蓋然性が高いからこそ永住者なのではないかと不思議に思います。

 その疑問は解けませんが、永住者も含めた外国人の年金脱退一時金の裁定件数は過去10年で72万件にものぼっているということが小坪市議の質問に対する行橋市当局の答弁で明らかとなっています。

 問題は永住者も含めてこの72万件の脱退一時金の支給を受けた外国人のうち何人が日本に再入国しているかです。特定技能も含めて一旦帰国したとしても日本で熟練した労働力は日本企業に引く手あまたでしょう。

 だからといって、脱退一時金は帰国して本国の社会保障につなぐために日本での納付分の一部を一時金として返す制度ですから、再入国を繰り返して最終的に日本の社会保障制度にフリーライドしてその持続可能性を損じてもらっては困るわけです。

 なので、72万件の脱退一時金の支給を受けた外国人のうち何人が日本に再入国しているかが大事なのですが、厚生労働省では入国者のデータを有しておらず把握していないといいます。

 これはなかなか衝撃的な回答です。常識的に全件が再入国してはいないだろうと考えたとしても、把握していない以上、最悪の場合は72万件すべてが再入国している可能性も排除できないのです。

 すなわち、最大72万件、多少割り引いたとしても、近い将来、どれだけのインパクトで地方財政に生活保護の負担が覆い被さるか、国では予測するための数的根拠を持っていないということなのです。

 これは極めて深刻な話であり、人口減少とりわけ生産年齢人口減少で、将来的に担税力が激減していくであろうと容易に予想できる自治体が、新たに相当な外国人の社会保障負担を抱え込まなければならないのです。

 実は、年金脱退一時金の受給を繰り返したうえで現在生活保護対象者となっている人数についても、国は把握していませんでした。生活保護の資格審査に脱退一時金の受給の有無が要件とされていないからです。

 このままであれば必ず迫り来る財政危機について、ここまでその実態が見えていないというのは、今後の自治体財政経営を担う首長たちにとっては恐怖以外にありません。

 予測可能性があるからこそ今の政策決断ができるのであり、今後確実に財源を削がれるのにその額がわからなければ現在の投資をいくらして将来に基金をいくら残せばよいかの財政計画も立てられないのです。

 それではなぜこのような状況になっているのでしょう。脱退一時金は外国人の送り出し国の社会保障制度との隙間を埋めるための暫定措置であり、社会保障協定が締結できればそうした措置を撤廃してもいいはずです。

 ところが、現在でも社会保障協定を結んだ国の外国人に対しても脱退一時金が支給され続けているのです。これはなぜなのかと聞くと、各国で制度がまちまちなので協定締約国だけを除く制度になっていないとの答えがあったそうです。

 それよりも驚愕だったのは、令和3年9月末時点での脱退一時金の請求受付件数を請求者の国籍別に見たところ、最も多いのが中国で、次いで多いのがベトナムということでした。

 年金加入期間の通算規定が設けられていない中国は在留者数としてはダントツで最大であり、社会保障協定が結ばれていないベトナムは2020年に韓国を抜いて在留者数が2位に躍り出ました。

 こうした数は今後ますます増えていくことが予想されますし、すでに国内で在留している外国人が脱退一時金の受給を繰り返すことで将来的に無年金もしくは低年金に陥る可能性は高いといえます。

 たちまちの原因は出入国在留管理庁と年金や生活保護を所管する厚生労働省が互いに自分たちの論理で別々に動いてきたからであり、それに対するひとつの答えが武見大臣の答弁でした。

 大臣が関係省庁とも連携しつつ必要な改善を図ることは重要であると答弁したことから、今後は省庁間の垣根が下がり、状況把握や改善策の検討も前に進むかもしれません。

 例えば年金局が所管する脱退一時金をもらって帰国した外国人は出入国在留管理庁が再入国を禁止しなければ制度の趣旨を損なうばかりか他の制度に大きな歪みをもたらしています。

 また、本来的には日本人と同様に社会保障制度の対象となり得るにもかかわらず年金の脱退一時金の受給対象になっている永住者の問題は社会・援護局が所管する生活保護制度を圧迫するのです。

 こうした枝葉でひとつずつ別々の制度をつくり、それぞれが矛盾していてもその矛盾を呑み込めたのは経済や税収が右肩上がりの時代でした。今はそこまでの余裕はわが国にも自治体にもありません。

 この問題を国だけのものとせず、地方自治体サイドでも我がごととして取り組み、正面から対峙しなければならない深刻さを感じることができた稲田事務所の訪問でした。

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