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お水のお姉さんが着てるちょっとエッチな服
数年前に、スナックでバイトしようと思い立ったことがある。
美人なわけでもお酒が強いわけでも接客が上手なわけでもない、水商売とは縁の無かった私がどうしてスナックで働こうと思ったのかというと、きっかけはふたつある。
ひとつめは、当時仲のよかった上司が酒好きで毎週飲み歩いており、新宿2丁目のお店に頻繁に連れて行ってもらったこと。
いわゆる水商売の人に接客してもらったのはそれが初めてで、夜の社交場や新宿という街そのものに圧倒されつつ、大いに楽しませていただいたのだ。
ふたつめは、仕事の持ち場が変わり働き方にゆとりのある部署に異動したこと。
それまでの数年間、そこそこ忙しい部署で余裕のない日々を過ごしていた私は、突然定時で帰れる環境に変わったことで時間を持て余すようになった。
そこで、物は試しと当時暮らしていた街の隣の駅にある飲み屋街のスナックで、働いてみることにしたのだ。
カラオケがついているお店で、週に2回の出勤でもOKなお店を探す。
最初に面接に行ったお店で「若いから」という理由であっさり採用された。
当時25、6歳だったので特別若いというわけでもなかったが、そのお店は一番若いキャストは30歳くらいで、最年長は40代の人もいた。
本当にただ、20代というだけの理由で採用された。
働き始めてみると意外にも、気が利かず聞き上手でもない私の適当な接客でもそこそこ乗り切れた。
カラオケがついていたので、お客さんからのリクエストに応えられるよう最近流行りのポップスを押さえつつ、スナックに通うオジサン達にウケの良い曲を、いつでもデュエットできるよう頭に入れた。
接客は雑で飲みっぷりも普通、夜のお店のキャストとして必須である色気も無かったが、カラオケだけは自信があったのでとにかくカラオケの選曲の良さと歌唱力のみで場を盛り上げた。
お客さんの下ネタが頻繁に飛び交うので適当にあしらう技は必要だが、それさえ身につけていればスナックでの接客は、新鮮で楽しいものだった。
難しかったのが、出勤する際の服装だった。
スナックなのでお客さんも年配の落ち着いた人が多く、キャバクラのようにギラギラとした華やかさは求められない。
ただし、先輩のお姉さんたちは綺麗でスタイルが良い人ばかりで、ピッタリとしたノースリーブのドレスや胸元の開いたワンピースなど、上品でありつつそれなりに「お水」を感じさせる色っぽい衣装を用意していた。
対して当時の私は何も考えておらず、また、お金もあまり無かったので
「とりあえず手持ちの服でなんとかしよう」という精神だった。
今思えば舐め過ぎである。
クローゼットに眠っていた、新入社員の頃に会社の集まりに着ていく用に買ったカジュアルとフォーマルの中間くらいの安っぽいミニスカのワンピースを掘り起こし、「とりあえず脚出てるし良いか。」と雑な考えでそれを着て出勤した。
当時少しぽっちゃりしていた私は、お店のママ(60代)に
「売れるためにはもっと工夫しなきゃダメよ。せっかく胸あるんだから、もっとオッパイ出すとか。」と言われた。
ぽっちゃりしていたお陰で、バストがそれなりにあったのだ。
ふむ。オッパイか。
私もついに大人の女の色気を身につける時が来たか。
満更でもないな、と思い
"お水のお姉さんが着ているちょっとエッチな服"を探すことにした。
会社員の方の職場は服装に制約が無く、普段はスニーカーとデニムで通勤する完全カジュアル女だったために、フェミニン系やセクシー系のブランドの引き出しが全く無かった。
"お水のお姉さんが着ているちょっとエッチな服"は、カジュアルな服屋には売っていない。
"エッチな服初心者"の私は、まずはカジュアルの延長上から始めようと思った。
女性のアパレルブランドでは、カジュアルな普段着を取り扱っているお店の一角に、オケージョン(結婚式などのお呼ばれや、ちょっとしたパーティーに適した服のこと)系のラインナップがある。
ただし、私が普段着ているブランドではやはり夜のお店にとっては素朴すぎるデザインの服しか売っておらず、スナックの衣装としては物足りないだろうと思われた。
そのため、セクシー要素を求めて普段あまり買わないギャル御用達のブランドのオケージョン系のラインナップから探し始めた。
ネット通販で"AZUL"や"EMODA"など、比較的ギャルっぽいブランドを漁ったが、これはこれでカジュアル過ぎ、もしくはモード過ぎてスナックの接客に適したものが見つからなかった。
もっとフェミニンで、かつもっとセクシーな服はどこに売っているのか?
困った私が次に検索したのは、「キャバドレス」である。
「キャバドレス」とは、その名の通り「THE キャバ嬢が着ているドレス」である。
すると、「dazzystore」というサイトがヒットした。
dazzystoreを開いてみて、思わず「ウッ」と唸ってしまった。
オッパイが出過ぎている……。
キャバドレス一覧ページをいくらスクロールしても、
"私が想像していたよりもさらに数段先のエッチな服"しか売っていなかった。
オッパイが出過ぎている服。
ランジェリーの素材でできている服。
風が吹いたら全部脱げそうな服。
お風呂上がりのバスタオルのような服など。
ここまで派手でエッチな衣装は、キャバクラには適しているかもしれないが、スナックには適していない。
サイト内の目立つ位置にあるバナーには、「明日花キララ着用モデル」とあった。
なるほど、この世界のカリスマといえば明日花キララなのか。
普段交わることのない世界に触れて妙に納得しつつ、
「dazzystore」の中でも一番落ち着きがあって上品で、エッチ過ぎない服を探すことにした。
かなり時間をかけて血眼になって探すと、少数派だが、程よく品があって程よくセクシーで、程よく大人っぽい衣装が何着か見つかった。
キャバ嬢をメインターゲットにしているとはいえ、探せば比較的シックな衣装も取り扱っているのだ。
が、ここで新たな問題が発生する。
サイズ問題である。
先ほど少し触れたが、当時の私は少しぽっちゃりしていた。
具体的に言うと、166cm59kg程度である。
Lサイズを選べばピッタリとしたシルエット以外の服は着れるし、若干脚や腹が太かったが、その分バストにボリュームができたり、太ももにむっちり感が発生してセクシーと錯覚させることができる、というライン。
ただしそれは普段着の場合である。
今私が見ている通販サイトは、主にキャバ嬢をターゲットとしたサイトである。
キャバ嬢は、一般人に比べて明らかに細さが重視される職業である。
衣装を着用しているモデルも、本物か加工かは定かではないが明らかに一般的に細いと言われる人の細さからは逸脱していた。
「シルエットの作りが細いかもしれないから、注意深く選ぼう」と思ったのだが、候補に選んだ衣装のサイズはどれもSかMの2サイズ。
中にはXSかSの2サイズというものもあった。
生まれてこの方ややぽっちゃりをキープし、Lサイズ以外を着たことがほとんどない私は、Lサイズが無いことに恐れ慄いた。
一応ウエストとヒップの数字を確認するも、到底着ることの出来ない数字だった。
ダメだこりゃ。
スマホを放り出した。
こうして、私の"ちょっとエッチな服"チャレンジは失敗に終わった。
今日、数年ぶりにdazzystoreを開いてみた。
すると、当時はほとんど無かったはずのLサイズやLLサイズが、大部分の商品で展開されていた。
また、「スナック 衣装」で検索するとdazzystore以外にも、SheinやTemや楽天のショップがヒットするようになっていた。
しかも、当時よりもシックでセンスの良い商品が増えていた。
当時はdazzystore一強だったはずだが、新しいECサービスの台頭により、それぞれのニーズに合わせたラインナップに辿り着きやすくなっているようだ。
今なら、"お水のお姉さんが着てるちょっとエッチな服"を買えるかもしれないな、と思った。
そして、もう着る場面は無くなってしまったけれど、ちょっと欲しいな、と思った。
「一見さんお断り」と書かれた分厚いドアの先で、
セクシーなドレスを身に纏い、背筋をピンと伸ばして接客するお姉さん達に、今でも私は憧れているのかもしれない。