東大を出たのに零細企業に入ってしまって転職で抜け出すまでの体験記④ まとめ~何がスタートアップを殺すのか~
上記の記事の続きです。
今回が最終回です。
なぜ一時は自社製品への引き合いがすごかったはずの私が新卒で入った企業はこのような事態に陥ったのか。
私なりの分析をしてみました。
そしてこの分析は多くのスタートアップ企業にとっても共通する普遍的な立ち上げ期のべからず集ともいうべき内容になっていると自負しています。
ぜひご覧ください。
最初期に採用する人材選びの問題
まず最初期に採用された人材の問題がありました。LSIの受託開発の会社であれば、本来一定以上の基礎学力がなければ規格資料を読み込んで回路の実装をすることもできないし、正確な回路仕様の策定もできません。
また立ち上げ期であれば技術サイドだけでなくビジネスサイドにおいても高い水準でのスキルが必要になります。
しかしながら初期の社長含めた5人未満から2倍の人員に拡大する際採用された顔ぶれを見ると上記の基準を満たしたのは私の出戻りを手引きした部長のみ。この時入社した中にはのちのパワハラ上司もいたようです。
この人は工業高校からFラン工業大学中退で、別業種の営業職からの転職。基礎学力もエンジニアリングのための知見も工作の手技以外は怪しいものでした。英語ドキュメントなども当然読めないのです。1÷3=0あまり0.33333以外にも読み出しという意味の変数名をleedと書いてたりとネタは尽きない人でありました。
他のエンジニアもimmediateをメディア関係の英単語と勘違いして、お客さんの前でインメディアと読み始めて私が大慌てで訂正したこともありました。
このレベルのエンジニア集団では仕様を一から十まで決めてもらわないことにはまともな回路設計の仕事はできないだろうし、まともなリテラシーも期待できない。会社組織として頭数さえあれば済むようなタイプの仕事しかできなくもなります。
当然この時期採用者の多くは自発的に技術情報を集めて、時流に合わせて知見をアップデートさせていくことは難しい。
立ち上げ期の組織ということもあり、能力的にも人格的にもクセの強いメンバーが中心になってしまったというところがあります。
創立からそれなりの年数もたっており、リファラルで採用すれば良かったのではないかと思いますが、そうではない採用が行われてしまったのです。教育の必要な文系の新卒や未経験の中途をこのようなフェーズで数を追うがあまり採用してしまった。
ここが全てのスタートだったのです。
採用ペルソナの問題
大量採用してひとまずの体制を作って以降は毎年1人ずつの採用を基本とするようになりました。
電気電子系の学生や院生を採用しようとすれば企業規模の事情もあり採用競争で勝てない恐れもある。そのため電気電子系以外の理工系やさらには経済学系にまで採用対象を広げて入社後の教育によって設計者として使えるようにするという方針が取られました。
この採用方針そのものはHDLによるハードウェア設計という観点では決して間違っていなかったと思います。どうしても学生時代からやっている人は我流で回路設計をしてしまって変な癖を身につけていることも多いのです。
そうするとどんな合成ツールでも問題なく合成合成できる回路にならない事も起きてしまいます。どのエンジニアが書いても同じようなコードが書けるという状況を目指す場合、むしろ隣接分野の素養のある新卒者を採用し、ゼロから教育した方がいいという考え方は一理ある考え方です。
しかしそうだとしても自社より規模の大きな会社と採用競争を行えばどうしても不利になります。そこで会社として一つの妥協を行うことになったと思われます。
オタクっぽい感じがありコミュニケーションに多少の難はあるものの従順な感じの就活後期から終盤期にかけて売れ残った学生を一本釣りするという戦略です。
彼らは基礎学力には問題ないことが多いです。コミュニケーションに問題があり売れ残ってはいるものの、オタク趣味に没頭でき、また従順な性格です。多少強い言葉を使ってでも細かくマネジメントして上層部の言うことを聞かせ、半ば強引に仕事を覚えさせ、さらに没頭することができるところまで育てられれば戦力化することができます。
使い方を誤れば典型的な真面目系クズと化してしまう事もあるため諸刃の剣になる恐れもあります。戦力化するためには相当注意深く教育を行うことが必要になるでしょう。
ただ同時に自発的にその技術が好きなわけではなく自発的な情報収集というのは弱い。そういう点での弱点は抱えている状況でした。それでも基礎学力はあり、教育次第では技術面での更新などは主導できる可能性のある若手を入社させることができる状況は生まれつつあったのです。
ハラスメント対策の問題
そうした形で基礎学力などの素養のあるエンジニアを採用する方向に徐々にシフトしてきた際、既存のエンジニアが新卒者や2年目の社員の教育に携わっていくことになります。
この際にあまりにもバックグラウンドの異なる人同士が教える側と教わる側として対峙することになってしまいます。
まさに上記の記事で書いたような低学歴のハラッサーと真面目系クズの傾向のある若手を組ませてしまう状況がここで発生してしまいました。
その結果仕事をある程度形ばかりは覚えているが根本的には理解していないハラッサーが自分の考える仕事と少しでもズレれば当たり散らすという「教育」が行われてしまい、せっかく採用した社内比では学歴も高く資質のあった若手たちが数多く離職し、組織規模の拡大に失敗してしまうことになってしまいます。
また経営層が長いこと社会の流れに取り残されてしまい、こうしたハラスメントや長時間労働などの問題についての認識が弱かったために是正が大きく遅れることとなってしまいます。
ハラスメントのためにせっかくの組織の拡大と戦力アップのチャンスをみすみす逃してしまうこととなったのです。
マインドセットの問題
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