95%が勘違いしている「映像編集」
まずは僕の好きなフレンチの話をします
突然ですが、僕はフランス料理が大好きです。
非日常空間で、最高のサービスの中で今まで味わったこともない組み合わせや食感に出会い、食に感動する瞬間は何にも代えがたいエンターテインメントです。
またまた突然ですが、「究極の料理」とはどのようなものでしょうか?
僕は「最高の素材そのものを、そのまま食べる」が究極の料理だと思っています。
和食でも、フレンチでも、ランクが上がれば上がるほど、無駄な調理や無駄な調味料や無駄な組み合わせがどんどん削ぎ落とされていきます。
とはいえ、いくら素材そのものを食べるのが究極とはいえ、素材をそのまま出すわけにはいかず、現代人の味覚に合わせたり、食べやすくしたり、より美味しくするためにシェフが「最高の素材が持つポテンシャルを最大限引き出す調理」をするわけですね。
最高の天然の鴨肉を、最高に丁寧に仕込み、秒単位の火入れで最高の状態にして、鴨肉の持つ味を最高に引き出すために極限まで無駄を削ぎ落としたソースで味付けをして、視覚にも訴えかける最高の盛り付けをする。
これが最高級フレンチのメインディッシュです。
僕はこれを楽しみに日本全国のフレンチに通っていると言っても過言ではありません。
何の話でしたっけ?
究極の映像
では「究極の映像」とはどのような映像でしょうか?
僕は、「最高の瞬間を捉えた、編集の入っていない映像素材そのもの」だと思います。
「赤ちゃんをあやし始めたら信じられないくらい尊い笑顔になった瞬間」
「夜中に巨大オーロラが現れた瞬間」
「キレイに着飾った女性が落とし穴に落ちた瞬間」
編集なんてなくとも、思わず笑顔になったり、感動してしまう映像素材こそ「究極の映像」だと思います。
でも、「3分間赤ちゃんをあやしている様子」をずっと観るほど暇じゃないし「オーロラを観るためにどれくらいの時間と労力がかかったか、いかに貴重なものか」を知らずにいきなりオーロラの映像だけ見ても感動は半減するし、「なぜ着飾っているのか?なぜ落とし穴がそこにあるのか?」を知ったほうがよりおもしろくなる。
そこで、映像を「編集」するわけです。
映像編集とは料理である
自分より若い映像制作者に出会うたびに思うのが「映像編集」という行為を勘違いしているな、ということです。そんな方々にこそ、ぜひこのnoteが届いてほしいなと思っています。
個人的には映像編集は料理に例えるのが一番しっくりくるので、細かく例えてみます。
料理には大きく5つの工程があります。
①料理に使う素材集め
②野菜を切るなどの下ごしらえ
③焼く、煮込む、揚げる、混ぜるなどの調理
④調味料などを使っての味付け
⑤盛り付け
それぞれ映像編集に例えてみます。
①素材集め→映像素材の撮影
②下ごしらえ→素材のうち不要な部分をカット
③調理→ストーリーを作って素材を並び替える
④味付け→ナレーションをつける、もしくはナレーションの代わりとなるテロップを入れる
⑤盛り付け→その他テロップ・BGM・SEで仕上げ
さきほど、最高級フレンチのメインディッシュについて「最高の天然の鴨肉を、最高に丁寧に仕込み、秒単位の火入れで最高の状態にして、鴨肉の持つ味を最高に引き出すために極限まで無駄を削ぎ落としたソースで味付けをして、視覚にも訴えかける最高の盛り付けをする」と言いました。
これに当てはめると、最高の映像とは
「最高の瞬間を収めた映像素材を、必要な部分と不要な部分を正確に判別して不要な部分をカットし、最高のストーリーを紡ぎ、素材の良さを最高に引き出すために極限まで無駄を削ぎ落としたナレーションを入れ、映像に合った最高のテロップ・BGM・SEをつける」となります。
映像編集というワードが大衆化してきましたが、体感で95%くらいの人が、上記の④と⑤の部分が「編集」である、と勘違いしています。
僕は③のストーリー作りこそが映像編集の真髄だと思います。
料理もそうで、フレンチにおいてもシェフの腕の良し悪しは「食材への火入れ加減」に表れます。
③を突き詰めないと「焼きすぎた肉に美味しい味付けと綺麗な盛り付けをした」みたいな、なんちゃって料理しか作れるようになりません。
また、④・⑤の部分に関しても、「あくまで素材を引き立てる前提でのナレーション、テロップ・BGM・SE」という考え方でいないと、せっかくの美味しい素材本来の味が消えてしまい、化学調味料でゴリゴリに味付けしたチャーハン、みたいなものが出来上がってしまいます。(それもそれで美味しく感じる場面はあるのですが)
例えばかりで分かりづらくなったかもしれませんが、要は、「いい映像作りたいならフレンチと同じく、まずは良い素材をちゃんと集めて、その素材本来の良さを活かすのに必要十分なストーリー、ナレーション、テロップ、BGM、SEをつけようぜ」という話です。
まずはこのことを念頭に置いたうえで「どのくらいの塩梅が必要十分かどうか」を鍛えていこうぜ、と。(この辺りは詳しくまた別noteに書くかもしれません)
最高級フレンチか、マクドナルドか
ここまで、「無駄なものを極力削ぎ落として最高の素材を活かした料理」が最高級フレンチだと言いましたが、これが料理として絶対の正解だとは思いません。
例えば、ゴリゴリに素材を加工したマクドナルドのハンバーガーも立派な「料理」だと思います。
同様に、「無駄なものを極力削ぎ落として最高の素材を活かした映像」も映像ですし、「ほどほどの素材をほどほどのストーリーにして、ナレーション、テロップ、音、画面加工でゴリゴリに素材を加工した映像」も映像です。
どんな形であれ映像を作っていて、それを売ってお金をもらえていれば、立派な映像制作者だと思います。
映像編集をされる方は、最高級フレンチを作れるシェフを目指すのか、最高級ではないけど月1で行きたくなる高級和食を作れる料理人になるのか、マクドナルドで美味しいハンバーガーを作れる調理員を目指すのか、調理員を束ねるマクドナルド店長を目指すのか、明確に指針を決めると映像制作者としてブレずに生きていけるのではないかと思います。
2025/1/7
(録画したグランメゾン東京の特別編を観ながら)