コーポレートITエンジニアはフルリモートでも成り立つのか-受入側の立場から
こんにちは。note株式会社でコーポレートITをやっているヒガシといいます。毎年恒例の情シスSlackのアドベントカレンダーに今年も参加させていただきます。
また、多数の方にnoteを使ってアドベントカレンダーに参加いただいていることにこの場を借りて御礼申し上げます。毎年のことながら、本当に嬉しいです!
コーポレートIT担当のフルリモートは成立するのか?
最初に結論を書いておきます。
成立しうる。ただし、本人・受入側双方の条件が整っている場合に。
正直、懐疑的だった
note株式会社のコーポレートITチームは現在3人。うち一人は地方からのフルリモート勤務という体制で運用しています。そんな体制ですが、現状は十分にワークしていると考えています。
とはいえ、僕自身はもともとコーポレートITのフルリモートには懐疑的な立場でした。タスクを請負的にこなすスタイルならともかく、大小様々な社内施策を打ち出すポジションにおいては社内での単純接触効果がものを言います。「どっかから来たよく知らない人」の話は誰も聞かないことを、同志各位はわかっていただけるかと思います。
その接触の場数をフルリモートで稼げるイメージがなかったため斜に構えていたのですが、採用活動を続ける中でフルリモート希望ながらすごくいい人と接点を持ってしまいました。このひとを仮にPさんとしましょう。Zoom越しに話してみるとやはりとてもいいし、最終面接までに話した社長もCTOも絶対来てもらいたいと言ってるし、募集開始から1年以上待ってやっと得たこのつながりを手放したくないし…と思いながらも懐疑心は完全に拭い切れなかったのが正直なところでした。
そんなとき思い出したのが、既にフルリモートを含めたメンバーでのコーポレートITを実践していたheyさんの事例でした。フルリモートで働く方がのびのびと働かれていること、そして優秀なマネージャーを中心に魅力的なチームを形成していることを存じ上げていたので、その実例からnoteなりのうまくいきそうなイメージを持ち、ようやく腹が決まりました。
実際に一緒に働いてみて
一緒に働き始めて早1週間で当初描いた成功イメージは粉々に壊されました。いい意味で。
Pさんはどんなふうに仕事をする人なんだろう?とあえて大きな塊でボン!と仕事を渡してみたのですが、塊をあっという間にいくつかの課題に分解し、それぞれに適切な仮説と解を出し、適切に握り、適切に統合して見事なアウトプットを産み出していました。
相互理解の布石とはいえ、探りを入れたのが恥ずかしく思えるくらいに鮮やかで、スピード感のある仕事でした。
その凄みは一緒に働き出して半年以上経つ今でも遺憾無く発揮されており、コーポレートITエンジニアがフルリモートでバリバリ働く実例を砂被り席で見せつけられています。かつて懐疑的だったからこそ、目の前で繰り広げられる光景が胸を締め付けます。
なぜうまく行っているのかを考える
このようにnote社では幸いにしてフルリモートのコーポレートITエンジニアが活躍できています。しかしこの結果はPさん自身のスキル・経歴や受け入れ側である組織自身の事情・文化に因るところも大きいと考えています。
n=1で恐縮ですが、どういった要因によりこのような結果に至ったかを整理してみました。
Pさんの要因
①:ドキュメテーションスキルが高い
フルリモートで業務に参画するとき、フロー・ストック問わずコミュニケーションはほぼ100%の言語コミュニケーションとなります。その状況でストレスなくコミュニケーションを遂行するには、ある程度の文章力と読み手の視点に立てるホスピタリティが必須です。
この「文章力+ホスピタリティ」がドキュメンテーションスキルです。Pさんは高いレベルでこのスキルを持っていたため、場面場面で読みやすいドキュメントを残し、すり合わせのポイントをブラさないようにしながら、意思決定のログまで取るような地に足ががついた仕事をスピーディにこなせていました。
社会人であれば誰しも要求される、しかし持っている人は意外と少ないこのスキル。それでも、特別言語コミュニケーションのクオリティが要求されるフルリモートでこのスキルがないまま周囲の信頼を得ようとするのは、職種問わずかなり厳しいだろうなと思われます。
②:社内トップレベルの尖った強みを持っている
上述のドキュメンテーションスキルはいわば「ベース」です。Pさんはその上に尖った専門領域を持っていました。つまり自信を持って意見を表明できるフィールドがあったのです。その領域に隣接する範囲であれば、ほぼ初対面(しかもオンライン)の経営メンバーや他部署のリーダークラスとも芯を食った議論を交わし、有意義な果実を得られていました。
オンボーディングの要諦は「その組織でやっていけるかを実感できるか」です。Pさんは高いベーススキルと尖った強みを活かし、その「やっていける感」を割と早い段階で獲得できていたようです。そこを手がかりとして積極的に他者と関わり、社員との接触回数・範囲を稼ぎながら螺旋状にコンフォートゾーンを広げていったように見えました。
③:一人情シスの経験があった
全部を一人で回した経験がある人は、業務の全体像と運用のペインとなる箇所をふんわりとでも理解しているものです。また同じITを扱う以上、その像は会社が変わっても大して違いが無いものでもあります。スタートアップであればなおさら。Pさんはそんな一人情シスの経験があったので、何かをやろうとするときに「もしかしたらこんなこと困ってるんじゃないかなあ」という想像力を働かせることができていました。
そのため細かく指示や要望を伝えなくても「ここにボールを出したらこういう風に動いてくれるかな?」といういわば「ボールに連動して動く状態」が成り立ったので、互いにそれなりの精神衛生を保ちながら仕事ができたんじゃないかと思います。マイクロマネジメントは双方の負担が大きいものです。
受け入れ側の要因
一方で受入側の要因も考えられます。
①:文化的にフルリモートとのやり取りに慣れていた
疫病禍に入る前から、noteには地方からフルリモートで働く社員がいました。エンジニアやデザイナーなどの非コーポレート系職種に限られてはいたものの、今よりだいぶ小さい会社だったので職種問わず頻繁なやり取りが交わされていました。
そんな状況だったため会社に「コミュニケーション上の欠落」を前提としたコミュニケーションに慣れている土壌がありました。言葉だけで100%伝わらないのは当然でじゃあ伝えるためにはどう工夫すればいいか、とか、今のちょっとわからなかったからもう一回教えてくれる?と臆せず聞き直すとか、そういうのを自然にやる文化が僕が入社した2019年頃には既に定着していました。
だから言葉のキャッチボールで少しぐらいミスしてもさほど厳しい感じにはならないだろう、という安心感は醸成できていたのではと思います。(当然ながら口を酸っぱくしてその文化を説明したつもりではあります)
②:会社自体がリモートワークを前提としている
現在note社は無期限の「フレキシブル出社制度」という勤務形態で動いておりまして、
会社として「オフィスに来ても来なくてもOKだよ」と表明し、社員は家かオフィスかを問わず働けるようになっています。OGPにも「遠隔地採用も強化!」とありますが、実際この頃を境にフルリモートの社員がググっと増えました。東京に住む僕も用がなければ在宅で仕事をしています。
いくら自分がOKと言われていても、他の人が適用外なら少しは気後れしてしまうのが人間です。まして、全員の顔がギリギリ見える規模のスタートアップの、それもコーポレートITのように後ろから人を支える仕事ならなおさら。その点、会社が全員にリモートワークを認めている状態はPさんを多少は安心させられるものだったんじゃないかなと思います。
それでもやっぱり
ここまで書いて、noteでフルリモートのコーポレートITが成立しているのは結局心理的安全性を保てているからなのではと思い至りました。そしてそれは本人の努力やスキル、さらには会社の文化や制度といった様々なファクターが複雑に絡み合った先の、絶妙なバランスの上で成り立っていることも。Pさんはこれ以上頑張れないくらいに頑張っていますが、受入側もきちんと均衡してこのバランスを保たねばなりません。
それでも。
実は先日、そのPさんが初めて外苑前のオフィスにやってきました。入社後半年以上を経てようやくの初顔合わせとなりましたが、普段頻繁にやり取りしているからこそ、Zoom越しに見るのとは若干雰囲気が異なるのが印象的でした。
来ていた数日間は僕も出社して隣で仕事をしたのですが、正直顔を合わせた方が楽だし早いなと思いました。慣れたと思っていたリモートワークでのやり取りも、やはり相当なオーバーヘッドを課されたものであったようです。実際、本人からちゃんとやれてるのかモヤモヤすると表明されたこともありました。僕を含めた周囲からはこんなにも成果を上げつつ前進しているのがわかるのに、伝わらないものはどうしてもあったようです。
また、人間は言葉以外からも人となりを知覚する生き物です。
既にそれなりの関係値を貯めた間柄であればななおさら、zoomで言葉を尽くす1時間よりも、カフェバーのカウンターに並んで座って黙ってカレーを食べる15分の方が相手のことをより深く考え、知ることができたりします。
ここで言いたいのはフルリモートをやめたいという話ではありません。フルリモート勤務自体は、多様なライフスタイルに沿った自己実現の手段として素晴らしい手段だと思います。受入側にとっても遠方のスキルフルな人をお迎えできる有用な手段です。それでもアクセントを加えて違いを出すため、そしてより深い相互理解のためにも定期的にオフサイトで集まるのも大事なのかなと思いました。これは無論、コーポレートITに限った話ではないでしょう。
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ここまで説明した通り、フルリモートはスーパーマンがやってきたら万事OKというものではありません。人を人として尊重できないと、当人側・受け入れ側双方にとって厳しいワークスタイルなんだろうなと思います。加えて組織を動かすのが仕事のコーポレートITエンジニアがそんなワークスタイルで活躍するには、物事のイニシアティブを握るための当人自身の努力と、イニシアティブを握らせるための文化的土壌が必要です。
もちろん単なる社内の業務委託先として捉えるならばここまでこだわる必要はないのでしょう。しかし同じ立場で同じ方向を見据える仲間として迎えるのであれば、やはりこういった条件は必須であろうと思います。
さて、せっかく会社のことをお話ししたのでポジションをご紹介…したいところですが、今現在はコーポレートエンジニアのポジションを開けていません。僕自身のマーケティングセンスのなさに愕然とするところでありますが、開ける見込みは確実にあるので、もしご興味を持っていただいた方は大変申し訳ございませんが今しばらくお待ちください。
えっと他になんかあるかな…あ、普段はいろんな記事を雑多に書いたりしてます。もしよかったら読んでみてください!
より長く走るための原資か、娘のおやつ代として使わせていただきます。