ただそう言ってもらいたかっただけ
中学3年生のとき進路希望調査票が配られた。
第3希望の欄まであるそれの、第1希望のところはわざと空けておいた。
そして「留学したい」と言ったら周りの大人たちに止められた。
母をはじめ、祖父母や学校の先生たちも
「まだ早いんじゃないか」
「大学生になってからでもいいじゃないか」
と口々に言ってきた。
みんなとても慌てているような、怒っているようなそんな顔をしていた。
しばらくして担任の先生との面談があった。
順番にちょっと待ちくたびれていたのもあって、
放課後の教室での面談はなんだか眠くなりそうだなと思いながら椅子に座った。
2人きりの面談で先生が調査票を見たあと
ちらっとわたしの方を見て
「私は行ってもいいと思いますけどね」とぼそっと軽い感じで言ったとき、
一気に体温が上がるような感じがした。
まぁ費用のかかることですからとかそんなことを先生は続けて話していたと思う。
そこはあんまり覚えていない。
とにかく面談後、どうした訳かわたしはすっきりしていた。
そして「じゃあ、まぁいっか」と案外あっさり第二希望の日本の高校へ進学を決めた。
当初反対していた大人たちが「どうしたの?」と聞いてきたり、
「それならいいけど」と今度はみんな明らかにほっとしていた。
反対されるんだろうなってことくらいわかっていた。
どうせ日本の高校に進学することになる。
ただ進路希望で自分の希望を口にしたかっただけだった。
それを聞いた後の大人たちの反応にはやっぱりすこし傷ついたけど。
わたしのことを心配してくれている大人がいる。
でもそれがなんだか鬱陶しくて、おもしろくなかった。
担任の先生だけがものすごくあっさりと、
無責任にも思える軽さでぽーんとこちらに放り投げるかのように
「いいと思いますけどね」と言ってくれたのが、たぶんわたしはうれしかった。
そしてなぜだかわからないけどそれで納得した。
自分ひとりの力ではどうにもならないことがある。
頭では理解しているつもりでも、心が納得していなかった。
中学生のわたしは、ただどこかの大人に無責任でも「いいと思う」そう言ってもらいたかっただけだった。
実際あっさり決めた高校生活は、想像以上に楽しかった。
中学、高校と一緒の友達の結婚式で
先生の娘さんはわたしたちのひとつ年下で、
高校生のときにアメリカに留学していたと別の友達が教えてくれた。
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