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錯誤捕獲のキツネ

山の中の暮らしは獣害に遭うこともしばしばだ。

先月下旬、竹やぶに生えるハチク(淡竹)をイノシシが食べてしまう被害があって、猟友会に依頼して罠を仕掛けてもらった。

その後、二週間以上が経過している。

イノシシは今だに罠にかかっていない。

イノシシは今も竹やぶに出てきては、ハチクを掘っては食べている。

不思議なことに出没する場所が罠を仕掛けた場所を避けているように見えてならない。

何らかの理由があるのか、野生の感で危険を察知してなのか、罠のある場所に差し掛かる前までで行動範囲を止めている。

案外、知能が高い動物なのかもしれない、、。


それはさておき、こういった猟友会の仕掛けた罠に目的としない野生動物が掛かってしまうことがある。

これを錯誤捕獲(さくごほかく)と言う。

その場合、捉えた動物を放獣する。

以前もイノシシの被害をうけて、猟友会の方に罠を仕掛けてもらった。

その罠にホンドギツネが掛かったことがある。

秋も深まってもうすぐ初霜の降りるぐらいのころだ。

地域によっては飼育する鳥なんかが襲われる被害があるかもしれないが、このあたりではキツネが何らかの被害をもたらすことは聞かない。

なのでキツネを害獣とする認識は全くと言っていいほど無い。

警戒心の強いキツネが人前に姿を見せることもないので、その罠に掛かったキツネは僕が初めて見る野生のキツネだった。



罠を仕掛けてくれた猟友会の方に誤ってキツネが掛かっていることを連絡し、到着を待つ。

キツネは左の前足をワイヤーがしっかり締め付けていて逃げられない。

罠はくくり罠というやつで、踏み板を踏むとバネの力でワイヤーが脚を縛って捉えるものだ。

キツネはうずくまってこっちを見ていたが、僕が近寄ると立ち上がって少し遠ざかる。

こっちをじっと見たままだ。

大きさは中型犬くらい。

犬のようだが細くて筋肉質。

長い鼻先、ふっくらとした尾、伸びやかなフォルム、その全身の褐色の毛並み。

あり様がとても気高い、、美しい。

僕は少し離れた場所まで距離を取って、猟友会の方を待つ。

よく見るとキツネの周辺は逃げようともがいて土を掻きむしった様子で、表面をかき取ったようになっている。

さぞかし暴れたことだろう。

そして、猟友会の人が到着。

放獣の準備にかかる。

木の棒でキツネを追いつつ、収穫用のコンテナ(果実などを収穫する際に使うプラスチックの箱。網目状の穴がある。)を上から檻のように被せる作戦だ。

棒を向けると噛み付いてガシガシと噛む。

でもなぜが怖い気がしない。

そのすきに箱を上から被せて、箱の上に乗っかった。

ワイヤーを引っ張り、脚だけ箱の下からひっぱり出す。

脚を締めるワイヤーに鉄の棒を入れて、緩める。

キツネが中から箱を噛むなど、それなりに暴れる。

あーだこうだとやりながら、ワイヤーが外れる。

驚くことに、僕が見つけてからここまでキツネは全く鳴いたり唸ったりせず、声を全く出さない。

あんなに激しく牙をむき出しにして棒に噛み付いても怖い気がしない理由は唸り声を上げていないせいだ。

箱を上げてキツネが飛び出ていく。

少し走って止まり、一瞬こっちを向いた。

「いけっ!」

猟友会の方がキツネに向かって言う。

キツネはまた走り出して木々の中に消えていく。

止まってこちらにお礼を言ったと思えばいかにもきれいな解釈だが、違うだろう。

これだけの仕打ちをされてそんなふうに思う動物はいない。

危険な奴らとしっかり間合いがとれたか確認したんだろう。と僕は思った。



最後までキツネが声を出すことはとうとうなかった。

キツネを追い込むのに使った棒、噛み跡がしっかりとついている。

キツネのいた周辺だが、先述の通り掻きむしられた状態の地面が残る。

その中に太めの木の枝があり、これも噛みしだかれている。

罠にプラスチックの素材部分があるが、噛み跡が残る。

小さなフンも落ちている。

人間の前では声も出さずに静かに緊張していたのに、それまでの時間はもがいて、掻きむしり、苛立ちでそこらの物を噛んだり必死だったことがわかる。

野生動物が罠に掛かると、ワイヤーから逃れるために暴れ、その脚がちぎれることもあると聞く。

よく見なかったが、脚の骨が折れていたとしてもおかしくない。

キツネが行ってしまった後にいろいろと入り混じった、何とも言葉にならない気持ちになる。

触らない方がいいものに触れてしまった感。

キツネからしたら大きなストレスと恐怖でしかない。



ところで、野生のキツネの寿命はなんとたったの3~4年程度らしい。

野良猫より短いくらいだ。

図らずもあのキツネの生涯に関わってしまった負い目を感じるからだろう。

あの後、ちゃんと冬を越すことができたか、長生きできたのか今も気になる。



最後まで読んでくださってありがとうございました。

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