
さだまさしさんの銀河食堂の夜
落語のような語り口で始まる序章。
最後のチャプターは"セロ弾きの豪酒"。
言葉遊びのような一見軽いタイトル。
ただし、その中身は深く、物事の本質や捉えた、読者に大切なものとは何か?人生とは何か?と問いかけるような切口。
それが、さだまさしさんの小説の魅力。
小さなヒーローや、それらにまつわる物語の表現力や描写が秀逸。
複数の楽器を操るユーティリティープレーヤーが存在する音楽家の世界。
一方、音楽家であり、噺家であり、超一流の詩人でもある、多岐に渡る分野でマルチな活躍と努力をし続けられる才能の持ち主。
骨太で飾らない性格。
表向きには飄々と偉業を達成。
海のように広く深く温かい人間力。
それが、さだまさしさんの魅力。
久々に読んだ一冊の印象は、どことなく伊坂幸太郎さんの短編集である、「アイネクライネナハトムジーク」を彷彿。
宮沢賢治さんの詩や小説の引用が多く、舞台も仙台や東北が多い伊坂作品。
軽やかでナチュラルな比喩表現や物語の奥にある、計算し尽くされた伏線や奥の深い物語が織りなすオーケストラのようなハーモニー。
今回のさださんの本の舞台は、東京のとある居酒屋。
ただ幾人かの登場人物のルーツは仙台。
寡黙で知的さと共に併せ持つ何か静かな迫力もあるマスター。
同じく無口で小綺麗な微妙に歳の離れた女性。
酒と共に提供される何でもないように見えて絶品の小料理。
謎めいた雰囲気を醸し出す店。
そこに集まる地元の4人のいつしか常連になった男達+α。
そこで語られる小さな名もなき地元の関連ある方々にまつわる物語。
そして最後に明らかになるマスターの正体。
短編小説ながら、点と点が線に、そして円となって生み出される全体としての調和。
見事としか言えないストーリーテラー。
サラッと読めて、それでいて考えさせられる、1人1人が持つ知られざる人間の物語。
誰もがみな主人公。
そんな歌詞にもある、さださんの一作。
たまたま図書館で借りて、読んで、たまらず次の本も借りてしまった週末。
そして初めて読んでみた宮沢賢治さんの銀河鉄道の夜。
子供向けのファンタジーぽい童話とイメージ。
実際の内容は、大人向けとも言える、美しく儚く、そして生きるとは何か?正しさとは何か?などの人間模様や日々のあり方を問うような深い物語。
まだまだ知らないことが多い、世の中に数多ある逸品の数々。
さだまさしさんの魅力に気づいたのも人生42年目。
とにかく色んなものに触れて、何かを感じて、行動して、そして発信し続けたい。
そしてそれが誰の役に立てれば尚よし。
そういう人間に私はなりたい。