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"デザインの力"とは何だったのか?

デザイナーをはじめ、様々な分野の人々が「デザイン」という言葉を用いる際、そこには社会に影響を与える大きな可能性と、ある種の誤解が混在しているように感じられます。

日本語では「意匠」や「図案」といった視覚的表現を指すこともあれば、広義には「設計」や「計画」といったプロセスを意味することもあり、その定義は曖昧さを伴うことが少なくありません。この曖昧さゆえに、「デザイン」が生み出す成果を一括りに "デザインの力" と表現することがあります。
しかし、この言葉はあまりにも広範で、本質を捉えきれていないのも事実です。

この記事では、"デザインの力" という言葉に内包される本質を再考し、現代におけるデザイナーの役割と可能性について考察します。

デザインの本質とは「課題解決のための統合的プロセス」

「デザイン」という言葉は、「目的設定・計画策定・仕様表現からなる一連のプロセス」と定義されます。
これは単に美しい見た目や装飾を作り出すことではなく、課題を解決し、価値を創造するための包括的な取り組みです。その本質は、対象課題の深い理解、使いやすさや分かりやすさの追求、そして幅広い領域の知見を統合することで、より良い解決策を導き出すことにあります。

そもそも「デザインの力」とは?

そもそも、“デザインの力”という言葉の明確な起源を辿るのは難しいものがあります。なぜなら、デザインの重要性を説くフレーズはさまざまな形で古くから存在してきたからです。

"デザインの力" という言葉が広く認知されるようになった背景には、IDEOのティム・ブラウン氏らが2000年代初頭から提唱した「デザイン思考」の普及が大きく影響しています。
デザイン思考は、社会課題やビジネスの解決にデザインのプロセスやマインドセットを活用する考え方として世界に広まりました。ブラウン氏の著書Change by Design』(邦題:『デザイン思考が世界を変える』)や、ロジャー・マーティン氏との共著The Design of Businessは、デザイン思考のバイブルとして多くの人に読まれ、ビジネスリーダーにもその重要性を認識させました。

しかし、「デザイン思考」という言葉もまた、拡散と意味の変遷が大きく、安易な理解や誤用も散見されます。

私自身は、デザインの本質的価値を、「人の行動と思考を、より望ましい方向へ導く力」と捉えています。これは単に視覚的な表現にとどまらず、ユーザーの行動や思考プロセスに深く介入し、より良い体験や結果へと導く力です。デザインはユーザーと社会をより良い方向へ導くための強力なツールとなり得えます。

デザインへの過度な期待と、本質への回帰

近年、「デザイン」や"デザインの力" という言葉が過度に誇張され、万能の解決策のように扱われる傾向も見受けられます。しかし、デザインは魔法ではありません。あくまでも課題解決のための手段であり、特定の問題を解決する手法の一つに過ぎません。
個人の独創性を最大限に発揮し、自己表現を行う「アート」とは異なる側面が大きいことは認識しておくべきです。デザインへの過度な期待は、形骸化やデザイナーの役割の矮小化を招き、本来のデザインの価値を損なう恐れがあります。

戦略的パートナーとしてのデザイナー

例えば、2018年に経済産業省が提唱した「デザイン経営」の概念は、デザインを経営戦略の中核に位置づける考え方として、多くの企業に浸透しつつあります。これは、商品やサービスの差別化が困難な現代において、ユーザーとの共感、魅力的なストーリー、優れた体験といった付加価値が、ビジネスの競争力を左右する重要な要素となっていることを示しています。
このような変化の中で、デザイナーには、単に優れたデザインを生み出すだけでなく、ビジネス全体の価値向上に貢献する戦略的パートナーとしての役割が期待されています。デザイナーは、ユーザー視点とビジネス視点を併せ持ち、企業の成長を牽引する重要な存在となっているのです。

ビジネスを推進するイネーブラーへ

デザインは単なる表層の装飾ではなく、ビジネスや社会を動かす大きな可能性を秘めています。しかし、その可能性を最大化するためには、デザイナー自身がデザインの枠を超え、ビジネスやプロジェクトを推進するイネーブラー(実現を支援する者)となることが求められます。

これは、これまでのデザインの専門性を軽視するものではありません。むしろ、専門性を深めつつ、その専門性を活かして、より大きな価値を生み出すための越境的役割を担うということです。デザイナーの「デザイン領域」だけに閉じこもらず、ビジネスや社会の課題解決に積極的に関与し、ステークホルダーを巻き込みながらプロジェクトを前進させる姿勢が必要です。

デザイナーは“旗振り役”になれる

旗を振るデザイナーのイメージ(ImageFX)

デザインの本質的価値は、ユーザーと社会をより良い方向へ導く力にあります。デザイナーは、その力を最大限に発揮するために、デザインの専門性を深めつつ、ビジネスや社会の課題解決に積極的に関与し、プロジェクトを推進するイネーブラーとしての役割を担うことが求められています。

このような越境的な役割を担うデザイナーが増えることで、デザインの価値は再定義され、より大きな価値や成果を生み出し、未来を創造することに繋がるでしょう。私自身も、そのような創造の一翼を担うべく、“デザインの力”を追求し続けていきたいと考えています。

"旗振る"デザイナーになるために

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