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フィードバックという「ギフト」を受け取るために必要なこと
我々が他者から受け取るフィードバックは、多くの場合、自分が前進するためのきっかけになる「ギフト」のような存在です。
とはいえ、その「ギフト」をうまく受け取り、自分の糧にできる人ばかりではありません。特に、デザインやエンジニアリングといった領域において、フィードバックはしばしば抽象度が高く、曖昧で、ときに受け取る側からすると「一体これをどう活かせばいいのか?」と頭を抱えてしまうことも珍しくありません。たとえばエンジニアであれば、コードのフォーマットに関するフィードバックから、設計思想そのものを問いかけられるような広義の意見まで、多様なレイヤーでの指摘が飛んできます。それらを有益なものとして消化するにはどうしたらよいのでしょうか。
ここでは、フィードバックを「押し付けられた意見」ではなく、「自分を成長させる外部からのヒント」として受け取るために必要な考え方、そして他者への期待をどう取り扱うかについて考えてみたいと思います。
フィードバックは「意見の押し付け」ではない
まず大前提として、フィードバックとは「押し付け」ではありません。フィードバックは、相手があなたに対して興味や関心、あるいは改善への願いをもって発信されるものです。もちろん、すべてがポジティブな意図からなされるわけではないかもしれませんが、多くの場合、フィードバックは少なくとも「相手が自分に何かを伝えたい」という行為を伴っています。
押し付けと感じるかどうかは受け手次第です。もし「また面倒なことを言われた」と拒絶感を覚えれば、それはただのストレスに変わってしまうでしょう。一方で「なるほど、こういう視点もあるのか」と、自分が見えていなかった盲点や別のアプローチを得られると考えれば、それは新たなインスピレーションとなります。
抽象度が高いフィードバックへの向き合い方
抽象的なフィードバックを受け取った際、それをどう受け止めればよいでしょうか。たとえば、デザインレビューで「もう少しこの画面全体が『軽やかな印象』になるといいね」と言われたり、コードレビューで「もっと『責務分離』が明確な設計にしたい」と指摘されたりする場合です。これらは具体的な修正項目が示されるわけではなく、解釈が受け手に委ねられています。
このような場合は、次の問いかけを自分にしてみるとよいでしょう。
「相手はどんな背景知識や価値観からこのフィードバックをしているのだろうか?」
「このフィードバックが得られた背景には、どんな課題感が隠れているだろうか?」
「この抽象的な表現を、より具体的な行動指針に落とし込むとしたら何ができるだろうか?」
ポイントは、相手の言葉の裏にあるコンテキストを探り、そこから自分なりの改善策を組み立ててみることです。見えない材料を勝手に想像するのではなく、可能な限り質問を投げかけて掘り下げていくことも効果的です。フィードバックは双方向的なコミュニケーションであり、「わからない」と感じたら、そのまま飲み込む必要はありません。
期待とフィードバック、そして「裏切られた気持ち」
人間関係やチームワークの中で、私たちは時に「期待」について悩むことがあります。「相手に過度な期待はしない」という生き方をよく耳にしますが、かつてぼく自身も同様のスタンスを取っていた時期がありました。期待しなければ、相手が思い通りに動かなくても傷つかないからです。
しかし、期待しなければ、そもそも相手の可能性を見出すことも難しくなります。期待しなければフィードバックはただの音声や文字情報になり、関係性の中で活きる「変化のきっかけ」にはなりにくいでしょう。
近頃、ぼくは「期待」についてこう考えるようになりました。
相手に何を期待しているのかを明確に伝えること
期待はあいまいであるほど、相手も受け取りにくいものです。たとえば、「もっと良い設計を考えてきてほしい」ではなく、「今回の機能は将来的な拡張性を意識して、クラス間の依存を減らす方向で設計してほしい」というように、期待している方向性や理由をきちんと明文化することが重要です。
必ずしもその期待通りに動くとは限らないことを受け入れる
明確な期待を伝えても、相手には相手の事情や価値観、スキルセットがあります。そのため、結果的に期待通りに動かないことは珍しくありません。そこで「裏切られた」と感じるのではなく、なぜそういう選択が行われたのか、どんな背景があるのかに興味をもち、再び対話することがフィードバックを生産的に保つ鍵になります。
相手の考えに委ねたいことと、こうして欲しいことを明確に区分する
フィードバックは指示なのか、示唆によりよくして欲しいのかが時として混同しがちです。明確な意見、変更して欲しい意図があるならば、それはそう伝えましょう。伝えないと伝わらない、明確でシンプルな事象です。
期待を伝えることは、一種の「場を整える行為」です。それがあれば、フィードバックも相手にとって単なる押し付けや曖昧な不満ではなく、対話を通じて共により良いプロダクトや成果物を生み出すための「材料」として機能します。
まとめ
フィードバックは抽象的であればあるほど受け取り方が難しいものです。しかし、それは押し付けられた意見ではなく、成長のきっかけとなるギフトです。抽象的なフィードバックに対しては、その背後にある意図や文脈を探り、積極的に質問しながら具体的な次のアクションを見出す工夫が求められます。
「期待しない」というスタンスは自分を守るかもしれませんが、それは関係性や成果物の成長余地を狭める可能性もあります。明確な期待を伝えた上で、その結果がどう転ぶかに開かれた態度を持つことで、フィードバックはより建設的なものになりえます。
フィードバックを活かせる人ほど、柔軟なコミュニケーション能力や状況適応力を持っています。フィードバックを「ギフト」として受け取るには、自分自身が与えられたヒントを噛み砕き、行動に移し、さらには相手との期待や意図を明確にしながら、対話を繰り返すことが不可欠です。
こうした姿勢こそが、デザイナーやエンジニアが専門性を深め、持続的に成長し続けるための基盤になるのではないでしょうか。
宣伝です、現在デジタルデザイナー(プロダクト・Web)」対象とした教育プランをMENTAを通して実験的に開講しています。デザイナーとしてスキルアップしたい、キャリア支援をしてほしい…など、お悩みや興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。