
寒いときに「鳥肌」が立つのはなぜ?
寒さを感じるとき、私たちの身体にはさまざまな仕組みが働きます。その一つが、皮膚表面に現れる「鳥肌(立毛反射)」です。人間では保温効果が小さいにもかかわらず、進化の過程で残されてきた不思議なこの反応について、医学・生理学的な背景を解説します。
1. 鳥肌の正体:立毛筋の収縮
立毛筋(arrector pili muscle)
毛根の近くにある小さな平滑筋で、自律神経のうち交感神経が支配しています。寒さや強い感情刺激を受けると、交感神経が活性化してノルアドレナリンなどが放出され、毛穴を持ち上げるように収縮が起こります。保温効果の名残
体毛が豊富な動物にとって、毛が逆立つことは空気の層を作って体温が逃げるのを防ぐ有効な手段です。人間は体毛が少ないため、見た目ほどの保温効果は期待できませんが、反応そのものは残っています。
2. 交感神経と寒冷刺激の関係
寒さを感知する機構
皮膚や体内深部にある温度受容体が、冷えを検知すると視床下部の体温調節中枢に情報が送られます。視床下部からの指令
視床下部は交感神経を介して、血管収縮(表面からの熱放散を抑える)や筋肉の震え(シバリングによる熱産生)、ホルモン分泌増加(甲状腺ホルモンやアドレナリンなど)を促します。立毛筋の収縮
同時に、立毛筋がαアドレナリン受容体を介して収縮し、毛穴が盛り上がる—これが“鳥肌”です。
3. 進化の視点:体毛の多い動物との比較
かつて人類の祖先が全身に体毛を持っていた時代、鳥肌は体温を維持するうえで重要な働きを担っていました。これはチンパンジーやゴリラなどの霊長類にも共通してみられる反応で、寒さや威嚇行動などに際して毛を逆立てます。
威嚇行動
毛を逆立てることで体を大きく見せ、外敵や競争相手をけん制する狙いもあったと考えられています。人間への名残
体毛が大幅に減少した現代人でも、自律神経の原始的な反応としてこの機能が残存しているという説が有力です。
4. 感情と鳥肌:なぜ寒くなくても立つのか
「寒いわけではないのに、強い感動や恐怖を覚えると鳥肌が立つ」という経験は誰にでもあるでしょう。これは、脳が強い感情刺激を受けて交感神経を瞬間的に活性化させることが原因です。
ホルモンの分泌
急性ストレスや強烈な感動・恐怖は、アドレナリンやノルアドレナリンの分泌を急増させ、立毛筋を収縮させる。音楽での例
音楽鑑賞での「ゾクッとする」感覚は、ドーパミンなど複数の神経伝達物質が関係しているとされており、鳥肌と密接に関連する研究も進んでいます。
5. 医療的観点:鳥肌と病気の関係
自律神経失調症
自律神経のバランスが崩れると、寒くないのに鳥肌が出やすくなる場合があります。甲状腺機能亢進症・副腎疾患
ホルモン異常によって代謝が乱れたり、過度な交感神経刺激が生じたりするケースがあります。頻繁に鳥肌が立つ、あるいは異常な発汗や心拍数上昇を伴うなら、専門の受診を検討するとよいでしょう。
6. 豆知識:鳥肌との上手な付き合い方
寒さ対策
衣類による保温や体を動かして筋肉を温めることで、鳥肌の頻発を抑えられる。ストレス対策
副交感神経を優位にしてリラックスすることで、感情による鳥肌の頻度が減ることがある。自己観察
鳥肌の出方を意識することで、体調や精神状態の目安になる場合がある。
まとめ
寒いときに鳥肌が立つのは、毛穴周辺の立毛筋が交感神経の刺激によって収縮し、体温を維持しようとする生理的反応です。
進化の過程で体毛が薄くなった人間ではその効果は限定的ですが、感情の高まりなどによってもこの反応が現れるのは、交感神経が感覚と密接に関わる証拠です。もし頻繁に鳥肌が立つ場合、ホルモンバランスや自律神経の異常が関係している可能性があるため、必要に応じて医療機関に相談するとよいでしょう。