映画「イエスタデイ」

停電を堺に世界からビートルズの存在(記憶)が消え、同時刻に交通事故に遭った主人公だけがビートルズの存在を覚えている。

そんな境遇を描いたイエスタデイ。全体に渡り変化に乏しく退屈に感じた作品でしたが、このつまらなさが反対に作品の良さでもあります。


ビートルズに憧れ、アーティストとして下積み生活を送っている主人公。停電(交通事故)後、彼はビートルズの曲を自分の曲としてリリースし、一躍有名アーティストへと様変わりします。
しかし、名が売れたからといって偉そうに振る舞うわけでもなく、もっと高みを目指そうとするわけでもなく、盗作がバレる恐怖を抱えながら歌い続ける。なんとも退屈な主人公でした。

ヒロインも主人公に恋愛感情を抱いている様子が薄く感じられ、「普通の男」と「不器用な女」の恋愛は進展が緩やかでした。
もっと言うと彼女含め周りのお友達が見るに耐えない変わり者で、冒頭は主人公が売れていないから質の悪い客を相手にしているのかと思った程です。

ただ、主人公の面白みに欠ける点こそがこの作品のテーマなのではないかと思います。
有名アーティストになっても彼自身のスター性は磨かれず、ただビートルズの曲だけが評価される。なんならビートルズの曲にアレンジを要求され、自分を介していることでビートルズそのものの良さから遠ざけてしまう。自分はスターになる技量を持ち合わせていない、嘘をつける器ではないことを身をもって知る様が面白かったです。

向き不向きを乗り越えてかつての夢を掴むことだけが正解ではないと思いますし、「夢を通して何を実現したいか」「実現した先で自分はどう在りたいか」今一度自分の胸に手を当て、見失わずに生きて行きたいものです。


右に倣え!と教わってきた私が、令和は個性!自分らしさ!と言われましても途方にくれてしまい、昨今の個性ブームには焦りさえ感じます。ただ、こうやって文章を書くことで私自身が透けて見えそうですし、人様を意識した自分を実感する良い機会だと改めて感じました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?