芭蕉布触り放題! 全着物民は「おきなわ工芸の杜」に行くべし!!
豊かな布文化を育んだ琉球王国
着物好きを魅了してやまない沖縄県。県内各地で多彩な伝統織物が制作されています。
琉球王国時代には、交易を行なっていたアジアから織りと染めのさまざまな技法が伝来。更に日本の本州からも木綿の種などの素材や、紬の技法といった技術が伝わってきました。アジア大陸と日本の織り・染めの手法がチャンプルーされた結果、豊かな布文化が育まれたのです。
また八重山諸島で独自の布文化が発展した背景には、琉球王国や薩摩、日本から課せられた重い税の存在もありました。各地で手織りされた布は”貢納布”として納めなければならない商品。量も質も求められ、その要望の厳しさに比例して技術が磨かれていったという皮肉な経緯もあります。
現在、沖縄県内では15種類以上の織物と、紅型という染め物が制作されています。うち、経済産業省により伝統工芸品に指定された技法は12種類の織物と琉球びんがた。日本全国にある織り・染め関連の重要無形文化財の数が51種類であることを踏まえると、沖縄県という小さな島々のなかで、これほど多彩な織物・染め物の文化が発展したということに驚かずにはいられません。
※2022年11月時点
そんな沖縄県が、地元のもの作りの継承と推進を目指し、精魂込めて作った施設が「おきなわ工芸の杜(もり)」です。
「おきなわ工芸の杜」って何?
2022年4月、那覇空港から車で約14分の場所にオープンした「おきなわ工芸の杜」。まだ認知度は高いとはいえず、那覇市民でも知らない人が多い模様。施設が登録されていないカーナビも多いため、隣接する「沖縄空手会館」を目指して向かうのがベターです。
前述の通り、沖縄県が誇る伝統工芸品の技術継承と、県内外に訴求するための拠点として建てられた本施設。館内には、ものづくりを生業とする方々のための貸し工房・共同工房が設けられているほか、各種技術研修やセミナーを随時開催。また一般の方が制作風景を見学したり、ワークショップ形式で気軽にものづくりに挑戦することもできます。
1Fの展示室が着物地お触り放題なんです!
そんな「おきなわ工芸の杜」。沖縄県北部で暮らす筆者には、物理的にも心理的にも少々遠い存在だったのですが、先日の那覇出張にあわせて初訪問。これは全国の着物民に知らせねば!というスポットがあったのでご紹介します。
どこかというと、1階に位置するメインギャラリー。
広々とした室内には、織り物をはじめとする工芸品を展示。それぞれの展示スペースは限られているものの、特徴的な製法をわかりやすくまとめた解説文と、織にまつわる道具を目にするだけで、織物好きならば胸が熱くなるはず。
そして、個人的に一番の目玉だと思っているのが、こちらの生地見本。
各織物のデザインが見られるというだけでも眼福❤️なのですが、
なんと……素手で触っていいんです!
信じられますか?
苧麻を用いた宮古上布も、絹織物の久米島織や与那国織もお触りし放題!
一説には、沖縄県北部に行ってもヤンバルクイナより出合えないといわれている芭蕉布だって触れるんです!
なんなの、この太っ腹かつ至福のスペース……。
この感動は、着物に関心がないと伝わりづらいかもしれません。
「着物が欲しい」となると、呉服店に足を運ぶことが通例となっている昨今(個人的には、卸を通さず作家さんの展示会にお邪魔してみたり、各産地の織物組合にお品物があるか尋ねてみることをお薦めしたいのですが、この話はまた別の機会に……)。各呉服店では、お相手のお客様(のお財布)に見合ったお品物を紹介するはずです。つまり、各種反物を拝みたいと思ったら、それ相当に肥えた懐が必要。
加えて、全て手作業で生産数が限られるのが手織り物。市場に出回ることも稀な伝統織物と出合いたいなら、事前に呉服店側への根回しもいることかと(別に袖の下を通すとかいう話ではなく、単にお声がけしておくレベルでいいかもしれませんが。すみません、そこまで高い反物を買おうとしたことがないもので、正直この辺のことはよくわかりません)。
要するに、街角の呉服店にふらりと入った一見さんが「芭蕉布見ーせて」と頼んでみて、やすやすとお目に掛かれるお品ではないのです。いわんや素手で生地に触れるなんて、本来は購入しないとできない行為。
それが気軽にできるなんて……本当に信じられないほどの幸運に、むやみやたらと「ありがとう」を連呼したくなります。誰宛の御礼なのかは謎ですが。
更に、こちらの「工芸の杜」はまだ知名度が高くないため、待っている人のことを気にせずに思う存分、布と向き合えるのも嬉しすぎるポイントです!!(←工芸の杜さん、ごめんなさい)
こんな可憐な花織だって、目でも手でも楽しめちゃうんです。
嗚呼、なんて心が満たされるのでしょう……。
断言しましょう。ここにお酒があったなら、私はこれを肴に飲める(下戸ですが)。
そんなわけで、夏休みに沖縄本島を訪れようとしている着物好きの皆様、「工芸の杜」はぜひ行ってください!
ここに行くだけで、沖縄各地の織物がまとめて一気に拝めます! 触れます!!
注)常識的な話ではありますが、いくら素手で触れると言っても、事前にお手洗いで手を洗ってから触れるなど、なるべく汚さないように楽しみましょう。
職人さんが丹精込めて作ってくれた生地に気軽に触れられる、貴重な場です。より多くの方が出合えるように、鑑賞させていただく側も美しい状態を保てるよう、心がけて接したいものですね。
おきなわ工芸の杜
〈information〉
https://okinawa-kougeinomori.jp/
もしもお気持ちが向きましたら、サポートいただけますと大変有り難いです。頂戴した費用は、芭蕉布をはじめとする伝統工芸品の魅力を発信するための取材活動などに使用させていただきます。ご検討くださいませ。