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三体よりアイデアを得た巨大スクリーン小説

『三体』は、中国の作家 リウ・ツーシン による大ヒットSF小説で、現代の地球と異星文明との接触を描いた壮大な物語 だ。本作には、異色のアイデアとして「人間コンピューター」が登場する。

作中では、3千万人もの人間が動員され、3人1組で論理ゲートを構成し、災害をもたらす3つの太陽の軌道を計算して生き残ろうとする。各組の役割は、入力担当、出力担当、そしてAND・OR・NOT などの論理演算を行う判断担当 に分かれ、隣のゲートへの情報伝達は 黒と白の旗 を使って行われる。

しかし、コンピューターの性質上、1か所でも誤りがあれば、すべての計算が破綻する。3千万人規模の人間を使ったコンピューターは、現実には機能しないだろう。(物語の中では間違えた人は首をはねられる)

この発想にインスピレーションを得て、私は 古代ローマで「巨大スクリーン表示」を実現するアイデア を思いついた。それを小説仕立てでご紹介しよう。

説明用小説:人間スクリーン

医師・沢村がローマ時代にタイムスリップしたのは、一瞬の出来事だった。超自然的な力によって古代ローマの街並みに送り込まれた彼は、混乱しながらも冷静な性格と豊富な医学知識を駆使し、この異なる時代の人々と少しずつ信頼を築いていった。彼の名声は徐々に広がり、ついには皇帝アウグストゥスに仕えることとなった。そして、沢村の医術が皇帝の絶大な信頼をもたらすのに、そう時間はかからなかった。

アウグストゥスはアレルギー性鼻炎に長らく悩まされていた。毎日のように鼻をすすり、苦しむ皇帝を前に、沢村は瞬時に原因を特定し、アレルゲンを遠ざけることで症状を軽減させた。さらに、壊血病(ビタミンC欠乏症)も診断し、果物や野菜の摂取を増やすよう助言。皇帝の体調は大きく改善した。

しかし、沢村が真に信頼を得たのは、皇帝が暗殺未遂に遭い、腕に重傷を負ったときだった。ローマ時代の医師たちはどうすることもできなかったが、沢村は落ち着いて傷口を徹底的に洗浄し、煮沸消毒した糸と針を使って完璧な縫合を施した。アウグストゥスはその迅速かつ精密な治療に深く感銘を受け、沢村に全幅の信頼を寄せるようになった。

だが、皇帝にはもう一つ大きな悩みがあった。民衆の支持率が低下し、従来の剣闘士大会では十分な人気を維持できなくなっていたのだ。 ローマの繁栄を維持するためには、新たな娯楽が必要だった。

「沢村よ、ローマを再び興奮させるような何かを考えてくれ」

沢村は考えた末、未来の技術を応用した大胆なアイデアを提案した。それは、オリエント地方から来た芸人たちの演技を**「巨大なスクリーン」** に映し出し、観衆に見せるというものだった。アウグストゥスは最初こそ驚いたが、沢村の説明を聞くうちにその可能性に魅了され、すぐに実行に移すことを決断した。

計画の実施
計画は壮大なものだった。まず、1万人の市民を動員し、急な傾斜を持つ観客席に配置。彼らは「マスゲーム係」となり、3色の帯が描かれたプラカードを使って 100×100ピクセルのデジタル映像 を形成する役割を担う。プラカードの3本の帯は、それぞれ赤、緑、青の3原色を表し、各色の強度はプラカードの幅を調整することで決まる。

一方、色判別士というもう1万人の市民も訓練された。芸人たちは 大きな100×100の方眼紙の前で、指定された範囲内で演技をするよう指示されていた。 色判別士の役割は、方眼紙の各マスを観察し、その色をRGBの3つの数値として判別することだった。彼らはこの作業に特化した訓練を受けていた。さらに、より正確な色の分析を可能にするため、彼らが使う望遠鏡は意図的にピントを外し、色を抽象的に捉えられるよう工夫されていた。

色判別士が判別した3つの数値は、背後に控えている手旗信号士によって、向かい側にいるマスゲーム係に素早く伝達される。手旗信号士とマスゲーム係はペアを組み、訓練によって迅速なコミュニケーション能力を習得していた。


歴史的瞬間
いよいよイベント当日、コロシアムは民衆で溢れかえっていた。期待に満ちた目が、巨大なスクリーンに注がれる。コロシアムの中央には、芸人たちが待機し、その背後には方眼紙が設置されていた。しかし、演技が始まると方眼紙は取り払われ、芸人たちは指定された線上でのみ動くように指示されていた。

サンプリングの合図は、指導者が鳴らす銅鑼の音だった。芸人たちが決めポーズを取ると、銅鑼の音が響き渡る。その瞬間、色判別士たちは一斉に望遠鏡を覗き込み、各マスの色をRGBの数値として判別する。すぐさま手旗信号士がマスゲーム係に情報を伝え、次の銅鑼の音とともに、マスゲーム係がプラカードを掲げた。すると、観客席に 100×100の巨大スクリーンが鮮明に浮かび上がった。

ローマの民衆は息を飲んだ。目の前に現れたのは、これまで見たことのない巨大画像。スクリーンに映し出された芸人たちの姿は、まるで魔法のように鮮明で、観衆は驚嘆した。やがて、歓声がコロシアム中に響き渡った。


栄光の約束
その夜、皇帝アウグストゥスは沢村に深く感謝した。
「お前の手腕により、我がローマは再び栄光を取り戻した。お前がいなければ、このような奇跡はなかっただろう。」

沢村は静かに微笑んだ。

未来の技術を用いてローマに新たな娯楽をもたらした彼だったが、心には依然として一つの問いが残っていた。
彼はこの時代に留まるべきか、それとも再び元の時代に戻るべきか――

その選択が、彼に問われる日がいずれ来るだろう。

ケゾえもん