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あの頃〜90年代ビッグコミックスピリッツへの一方通行の我が偏愛について。

あの頃ボクは何を求めてビッグコミックスピリッツを読んでいたんだろう。

少なくても「YAWARA!」じゃなかった(読んでたけど)。ホイチョイの「気まぐれコンセプト」の面白さがわかるようになったのは90年代以降だし、いわしげ孝の「ジパング少年」(ブルーハーツみたいなバンドが出てくる)は読んではいたけど単行本を買うまでには至らなかった。毎巻購入してたのは窪之内英策「ツルモク独身寮」と柳沢きみおの「妻をめとらば」、耐えて読んでたのは聖日出夫の「なぜか笑介」だったな。吉田戦車「伝染るんです」、紫門ふみ「東京ラブストーリー」はもちろん抑えのエースなので読んでた。六田登「F-エフ-」はどんどん展開がヘヴィになっていったタイミングでもあり、みやすのんきの「冒険してもいい頃」は別な意味でハードな展開が顕著になっていた時期。山本直樹の「あさってDANCE」も忘れちゃいけない。それが1989年、ボクにとってのビッグコミックスピリッツ。

「気分はグルービー」の佐藤宏之による「以蔵のキモチ」はなかなか継続的に掲載されなかった。大学の同級生でもあり何度かこのnoteでも登場する友人、村上は「ねえ。今週も「以蔵がのってないよ」とボクに律儀に報告してきた。朝までファミマでバイトして学費を稼ぐ村上にとって毎週月曜日の朝にスピリッツを読むことは至高の安らぎだった。「じみへん」のような不条理マンガを読みながら小池一夫/池上遼一コンビによる「赤い鳩」を「ねえ。これなんかヤダ」と敬遠しつつ「ねえ。赤名リカとさとみ、どっちがいいと思う?もし真夜中にさあ、ドアの前にリカとさとみ立ってたらどっちも部屋入れちゃうなあ。どっちも魅力あるじゃん?いいよね?」とどっちでもいい誇大妄想をボクに話すためにプロ野球ニュースが終わる午前1時にわざわざ電話をかけてくる村上。寝落ちするまで会話に付き合い、ボクは翌日の講義をすべてサボりで爆睡、村上はバイトが始まる夕方まで爆睡と、数年後2人揃って留年する将来はこの時点で容易に想像できた。うーん。リカとさとみかァ。ボクはどっちも違うな。強いていうならリカ?いや、「ツルモク独身寮」のみゆきさんかな。うわ、この話題ほんとにどうでもいいよ!

1989年.ボクはスピリッツ以外の雑誌を購読してた記憶がない。ロッキンオンとロッキンオンジャパン、時々宝島。モーニングは時々読んではいた。前川つかさの「大東京ビンボーマニュアル」はまだ連載されてた頃か。守村大「あいしてる」は好きだったし単行本も買っていた。もう「クッキングパパ」の単行本は地味に揃え始めていたタイミングだった。けど本誌を買うまでには至ってない。山田芳裕の「大正野郎」の面白さを発見したのは3年後。本誌を購入するようになったのは92年頃からだったと思う。

なぜかボクの周りには少年ジャンプ購読者がいなかった。下宿のボロアパートのゴミ捨て場には大量のジャンプが毎週捨てられていて、そこで拾い読みで「スラムダンク」なるマンガを知り冨樫義博なる漫画家の存在を知った。「こち亀」の単行本は変わらず買ってたけどアクセス権限はその程度。「きまぐれオレンジロード」のまつもと泉の次回作「せさみすとりーと」は系列誌のスーパージャンプ連載だったし。とりたててテレビゲームにもハマらずドラクエシリーズにも特に興味もなかったボクにとってあの頃のジャンプは自分が購読していた頃の誌面とはまったく別物にしか思えなかったのだ。そういや村上も毎週水曜日にマガジンは買ってたけどジャンプは読んでなかったな。

とにかくビッグコミックスピリッツがいちばん心地よかった。時折挟み込まれるマンガというメディアの中での挑戦し続ける姿勢も含めて。1990年になると星里もちる「りびんぐゲーム」、狩撫麻礼/中村真理子の「天使派リョウ」が始まる。星里もちるは本屋でたまたま徳間書店かどっかで出していた単行本を見つけ、なんの根拠もなしに「そのうちスピリッツで連載するような気がする」と思っていた。嫌な読者ですよね。そういう予測をしながら誌面を毎週追いかけていたとは笑。ちなみに後年もふくめてボクが誌面掲載を予測していた作家をあげていくと以下のようなラインナップになる。

山田芳裕(のちにヤングサンデーで連載)、土田世紀(いわずと知れた「俺節」「編集王」)、守村大(ヤングサンデーにて連載)、上條淳士(8で連載)、原秀則、吉田聡、吉田秋生に井上雄彦、冨樫義博もそのうち、、とか勝手に想像してましたね。要するにあたったものもあれば外れたものもある。それだけ熱心な読者なんだったんだなと思います。吉田まゆみもありだったとは思いますけどね。「アイドルを探せ」の直後とか掲載の大チャンスだったのでは、、と勝手に想像しておりました。

それほど愛読していたボクがどうしてスピリッツを購読しなくなったのか。90年代半ばになるとボクは月曜日にスピリッツ、火曜日にアクション、水曜は休んで木曜はモーニング、金曜日にヤングサンデーというローテーションを組んでいた。ここにヤンマガが入ってないのは巻頭グラビアが邪魔だなって思ってたから。ヤンジャンのグラビアは好きだったんですけどね。ちゃんと意味があった。読者が求めるヒロイン像とのブレのなさが素敵だなって思っていたのだ。

結局ボクは2000年代に突入する頃にはモーニング以外の購読をやめてしまう。好きな作品読みたい作品は単行本で買えばいいやって思ってしまったから。スピリッツがグラビア定例化の道を選び、その時点でボクが読んでいた頃の雑誌とは大きく変わってしまったなと思ったのだ。時折言われることはあったんですよ。「鈴木さん、「あさひなぐ」好きでしょ?読んでますよね?」とか(知らなかった)「アレだ。「忘却のサチコ」、あれは鈴木さんの好み!」とか断定するひといるんですけど今やボクは「気まぐれコンセプト」ですらチェックしてないのよ。最近の同誌系で単行本買うのは真造圭吾と米代恭ぐらい。とはいえ米代恭とか知るのはずいぶん遅かった。「あげくの果てのカノン」全巻揃えたのは昨年頭だったし(最新作「往生際の意味を知れ!」面白いですよね)。

ビッグコミックスピリッツらしさって何だろうか。
都市生活者向けのマンガ?マンガ好きのためのマ少しだけエッジを効かせたマンガ雑誌?マニア一歩手前ではなく二歩三歩手前のネクストブレイク青田買いのための誌面?


村上と最後に会ったのは10年ほど前になる。いちどはプロミュージシャンを目指し退学するも1年で復学し大学を8年で卒業後、地元で公務員になった彼はもうスピリッツを読んでない。毎週水曜日に買っていた少年マガジンもとっくに卒業し、趣味のヴィンテージカー(英国車)に乗り、気になるアニメを観て聖地巡礼したりと充実した日々を送ってるっぽい(SNS参照)。

ボクはといえば相変わらずだ。時々原稿を書き、思いつきでnoteを更新。いろんなことを忘れてしまわないうちにと思い忘備録もかねてなるべく書き綴ろうとしている。

結局ボクが買い続け読み続けていた最長期間はビッグコミックスピリッツだった。浦沢直樹の「20世紀少年」が終わりを迎えると手に取ることすら少なくなった。ひとつの時代が終わったんだなと思った。巻末の実験(とあえて書きます)は相原コージの「コージ苑」や吉田戦車の「伝染るんです」、「ぷりぷり県」、「殴るぞ」、江口寿史の「BOXERケン」(重要な作品なんですよ!)。あの巻末は意識的挑戦に満ち溢れていたしマンガというメディア、市場が大きく影響力あるものに育っていたからこそのパンク精神にあふれたセレクトであり雑誌としての矜持を感じるものがあった。あのページさえ充実していればグッド!と思う読者も少なくなかったはずだ。

ボクが購読していた末期に柳沢きみおの「SHOP自分」が唐突に始まった。もう柳沢作品はスピリッツで読めないと思っていただけに復帰は嬉しかった。だが残念ながら長期連載には至らず。ボクが敬愛する作家がどんどん「卒業」していき、あれほど毎週月曜日を楽しみにしていた習慣をやめることになった。たしか最後に買ったのは小倉優子が表紙の号だった気がするけど記憶は曖昧だ。

先鋭的かつチャレンジングな作風に溢れつつ、時代の流れにちょうどいい具合に敏感な読者のためのマンガ雑誌。その進みすぎず停滞せずのバランスが崩れ、ボクが欲していたちょうどいい具合がコンサバになった瞬間、ボクはスピリッツ読者を離れた。もちろん今もチェックしている作品もある。月刊スピリッツだけど松田奈緒子の「重版出来!」や不定期連載だったけど相田裕の「1518!」とか好きだったし単行本も持っている。もちろんエッジの部分が「IKKI」に流れたり読者年齢層的な部分でビッグコミックやオリジナルへと格上げされていったこともあるだろう。村上もとかの「龍」や小山ゆうの「あずみ」がもしスピリッツに連載されていたら、、もう少し面白いことになっていたかもしれない。「編集王」後の土田世紀、たとえば「同じ月を見ている」がヤングサンデーではなくスピリッツに掲載されていたら、、文学性と実験性と先鋭性に富んだ青年誌ナンバーワンに君臨していたはずだ。間違いなく。相原コージの「ムジナ」とかね。ラインナップとして最強でしょうよ、あの時代。

なんかだらだらと好き勝手にビッグコミックスピリッツへの偏愛を書いてしまったけど、ものすごく書き足りない。松本大洋の「花男」、石坂啓の「MONEY MOON」。語りたい作品は山ほどあるのに大事なことをなにひとつ書けてない。だけどあの時代、90年代のビッグコミックスピリッツをボクは誰よりも熱量高めで愛読していたことだけは自信を持って言えますよ。いつかあの時代のスピリッツについて長々と評伝を書いてみたい。400、、いや、600ページぐらいで。実現するかなあ。てゆうかニーズあるかな(笑)どうなんだろ。

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鈴木ダイスケ
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