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「藝人春秋diary」を読みながら原秀則の新作について想いを馳せる。


水道橋博士の「藝人春秋diary」を読みながら原秀則の新作について考える日々が続いている。なんで?と言われても仕方がない。そうなっちゃったんだから。

ちなみにこの「藝人春秋diary」に関しては別章でがっつり語りたい。現時点での感想は過去シリーズと微妙に異なる空気感が全体に流れており、これまで以上に重厚な「文学性」を纏っている。かつて小林信彦が80年代の終わりから90年代にかけて描いた純文学シリーズ、そしてその直後に描かれ始めた「東京3部作」をなぜかボクは思い出した。家賃2万円エアコンなしの酷暑な京都シティでボクは汗だくになりながら小林作品をむさぼり読んだ。なぜかそんな光景が脳裏をちらつく。

なので「藝人〜」に関してはじっくり自分の中で整理してテキスト化したいと思う。もしかするとボクは過去シリーズも含めて一番好きかもしれない。

さて今回はnoteでも何度か取り上げた原秀則に関しての話だ。しつこいようだが語らせていただきたい。これは柳沢きみお一連の作品、うえやまとちの「クッキングパパ」同様、真っ当な評価を与えられていない不遇さに腹が立つってのもありますが、今や廃刊となってしまった週刊ヤングサンデーは正直小山ゆうと原秀則のためにあったとしか思えない時代があったのだ。なので今、ちょうど40〜50代前半の中年男子は必ずや原ワールドの洗礼を受けていたはず。なのに忘れたふりをしてるのはどうかと思うぜ。

せいぜい「冬物語好きだった」とかその程度の評価で終わる作家じゃないんですよね。もはや「部屋においでよ」がTBSで ドラマ化されたとき主演が元TOKIOの山口達也だったことや主題歌が小沢健二だったことすら知るものは少ないという信じられない事態。まさに「それはちょっと」な組み合わせであり2人とも文春砲にヤラれた共通点まであるのだがそこはどうでもいいので割愛。

いわゆる青春フニャモラもので原秀則は人気を得たのが90年代。少年サンデーでデビューしラブコメブームの中連載デビュー作「さよなら三角」がスマッシュヒット、武田久美子がヒロインを演じドラマ化され相手役は宮田泰男である。この組み合わせ、なんとも80`sである。宮田といえば大映ドラマの「スクールウォーズ」で伊藤かずえの彼氏にして和田アキ子の弟(和田の旦那役が梅宮辰夫)、花園にたどり着けなかった悲劇のラグビー部キャプテン役として多くの人々の記憶に残っているがいつのまにか俳優業をフェイドアウトし実家の寿司屋を継いでるのを知るものは少ない。ちなみに三軒茶屋です。宮田ウオッチャーのボクは「あえて街角ですれ違う」シチュエイションを作るべく店の前を何度素通りしたことだろう。心境としては「噂になってもいい」って感じだったんだが。ちなみに「噂になりたい」は爆風スランプ、「噂になってもいい」は武田久美子のデビューシングルである。

たしかに原秀則の場合、このnoteでも何度か書いているように作風がとっちらかっていた時期がある。フニャモラ青春ものも就活をテーマにした「SOMEDAY」で打ち止め、「レガッタ」あたりからよりドラマ性を重視していくかと思いきや、原作ありきの野球ものだったりリイド社で時代劇描いたりとまあ多角的に描くようになっていった。あとはあまりにライトすぎるラブコメ「シーソーゲーム」や原作に武論尊を迎えた「G-GOKUDO GIRL」なんて作品が不発かつ迷走してたがゆえ今の不遇すぎる評価につながっていることだけは無視できない。

時代的にアウェイが続く中でも原は描いていた。ヤングサンデーが終わり、掲載誌がない状況でもケータイコミックに移行したり動きを止めなかった。知らない間にブログも始め、内容はほぼ彼の趣味である競馬と猫の話なのであまりチェックしていないんですけどね。

そんな原が久々にダメ男を描いた。それが今年無事完結した作者にとっても久々のラブコメ「しょうもない僕らの恋愛論」である。これぞ原だなと思ったし、連載は終わってしまったけど大人になりきれない大人を描こうとする姿勢がなによりも嬉しかった。今の感覚で「冬物語」を描いて欲しいと思った。柳沢きみおが今や唐揚げについて鬱々と描くしかない時代。ダメな男のダメな日々を描くのは原秀則しかないと思っていたし、今だよとボクはこのnoteで叱咤激励をし続けてきた。ほんと勝手にすみません。

だが人生は無情である。まったく予想外というか想定外のボールがボクに飛んできてしまった。もちろんボクは「ジャストミート」どころか「ふぁあるちっぷ」すらできず、呆然としてしまったのである。

いやはや唖然というか驚いた。そりゃあ驚きますよ。すでに連載2回目まで描かれているが原秀則の新作、主人公はダンプ松本だったんだもん。タイトルは「ダンプ・ザ・ヒール」だ。

マンション(メンション)前のファミリーマートで受けた衝撃がどれほどのものだったか理解できますか。長与千種ならわかる。クラッシュギャルズの、たとえば柳澤健の名著「1985年のクラッシュギャルズ」コミカライズならわかるよ。だけど違うのよ。もうね、ここの「違う」がボクの心では由利徹ヴァージョンです。ちがう、ではなく、つがうよ的発音ね。わからないひとは小林信彦の「天才伝説 横山やすし」を読むように。

とにかく今どうしてダンプ松本なのか。松本ほのかではなく松本香である必然性ってなぜなにWhy?と思いボクは結局現在の2回掲載分を読んだ。下積み時代、つまりベビー・フェイス時代の松本香の日常が淡々かつ鬱々と描かれている。この鬱々さ、既視感あるなと思ったらそうだよ。コレだよ。原秀則の漫画家マンガ「いつでも夢を」だ。

「いつでも夢を」の主人公、多田野一郎の地味さはおそらく原漫画の中でもナンバーワンだろう。鬱々とヤンキー友人の彼女のスカートの中身を想像する日々。今なら完全コンプラNG案件男だ。元アシスタントの漫画の人気に嫉妬し、自分の仕事を彼女(同業者)が崖っぷちにいるのを知りつつ優先し結果彼女は精神崩壊で田舎へ強制送還、いつまでもその傷を引きずる多田野はこのエピソードをマンガにしてしまうという業深き作品であり、この時期の原秀則マンガ主人公の共通点である「男は基本クズ」をとことん肯定した名作だ。まあこの作品を境に次作「SOMEDAY」以降、クズエピソードは希薄になり、どんどん野球マンガへとシフトしていくのだが。

現在、主人公はひたすら下積み。先輩からは単なるいじめの対象にしかなっていない。たったひとりの先輩だけがこっそりフォローしてくれてはいるが。。さて長与千種など全日本女子の面々が物語にどう絡んでいくのか。原秀則がどう落とし前をつけていくのかが気にならないといえば嘘になる。

とここまで書いて今ニュースが飛び込んできた。ダンプ松本を主人公にしたNetfilxドラマ世界配信決定とのこと。なるほどそうか。もしかすると最初からこの流れを想定してのコミック化だったのかと納得。

そういえば「電車男」コミカライズというのも原秀則WORKSでひっそりあったんだよなァと。まあ原作のテイストなどおかまいなしにパーフェクトな原秀則ワールドが展開されアレはアレでアリだと思ってましたけどね。エルメスさんはまんま原ワールドのヒロインだったし。

とにもかくにもこのダンプ松本連載のあとこそ、、グズでどうしようもない中年男を主人公にした恋愛もの鬱々と描いて欲しい。不倫もできず家庭も円満にできないクズ中年。もちろん仕事でもろくな成果などあげたことがないまま40代、50代を迎えた人生黄昏時寸前のダメ男。そこにあらわれる奇跡のヒロイン、、そして主人公は会社を退職し一念発起で起業。なんと古着屋で紅茶で染めたTシャツがバカ売れするも大手古着チェーンにそのアイディアをパクられ、、、ってこのストーリーは柳沢きみおの「SHOP自分」じゃねえかよ!

そういうマンガってなきゃいけないと思うんですよ。ストーリーの骨子も精密に組み立てられ、アシスタントを何人も使用して絵もしっかり描かれた重厚な作品ばかりがマンガではない。締め切りや作者の意向に反して描きたくないのに描かされた企画ありきのページ埋めマンガも立派な作品だ。むしろそんなアウェイな状況下で描かれた作品にこそ、きらりと光る作家性みたいなものがこぼれ落ちたりするわけで、ボクなんかはそんな瞬間を「美しい」と思ってしまう。

原秀則版のダンプ松本が今後どう話が転がしていくのかはわからない。同タイトルの原作本をどう消化し切るのか。

だけどこの作品の着地がどうなろうとも読み続けると思う。展開が混迷しようとも、物語の中で原独自の作家性がきらりとこぼれ落ちる瞬間を確かめるべく、ボクはこの連載を追いかけ続けると思うのだ。

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鈴木ダイスケ
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