わたしを離れたあなたが、鋭く太く生きられますように。
“星の王子さま (新潮文庫) ”を読んだ。
ずっと読みたいと思いながら、読んでいなかった。今月始め、実家に帰ってなんとなしに共有スペースの兄の本棚を覗いたらあったので、手に取ったらあっという間に読んでしまった。
(余談だが、兄とは本の趣味が合う。わたしが読みたかった本を彼がとっくに読み終えて、古本屋に売るなり捨てるなりしてしまうことがしょっちゅうなので、わたしは不定期に兄の本棚をのぞいている)
さて、いい本だった。優しく深い言葉に満ちていた。
読みあさるあいだ、飼い猫がそばで寝ていた。読み終えて、ほほをつついて起こすとしばらくして、別の部屋に移ったわたしを慌てて追いかけてきた。
そして気づいた。この子はわたしのキツネだ。わたしになついている。他の猫とはぜんぜん違う。
この子にわずらわされ、温められ、費やした8年が、かけがえのない関係を作っていた。
でもわたしは家を出た。母も、兄も、猫も置いて、出た。
あまりに息苦しかった。愛しているのに、憎かった。でも捨てたかったんじゃない。
スープの冷めない距離が欲しかったのだ。エジプトの創世神話で、空と大地が抱き合うところには何も生まれなかったように、このままでは何も生み出せないと思った。
王子さまとバラに足りなかったのは、きっとそんなことだろう。彼らに必要だったのは、我慢を重ねながらべたべたすることでもなく、互いを恋しがりながら離れて自分を悔いて生きることでもなく、ほんのちょっとその抱き合った腕をゆるめて、互いをよく見つめることだったのだ。
わたしもちょうど、そんな存在を知っている。
愛すべき男はみな、小さな王子さまだ。人一倍繊細で、ばかで、なのに頑固で、それなのに大人の仮面をかぶって、抱きしめて泣かせてくれる友もいないまま、夕陽だけをなぐさめにして生きている。
なんてはかないのだろう。望めばいつだってバラも星も手に入るのに。
いつまでも待っているのだ。悲しみを残して旅立つその日を。
わたしはばかな上になんでもない存在だが、そんな彼らの一人かもしれないあなたにこう言おう。
子どものまま、賢くなることもできる。大人の仮面の下で泣く必要など、少しもないのだ、と。
※2014/11/27のtumblrより転載