
無限の思考力 010
〜「無限の思考力 001」からお読み下さい〜
「ロジック」とは「完璧なもの」である必要があるだろうか?
今回は「ロジックがもつ曖昧さ」について考えてみる。
私の経験上、論理的に物事を考える必要に迫られる場合、その物事は複雑なことが多い。よって、今回の話は、比較的容易なロジックは対象外とする。
長年仕事をしていると、
「論理的な考え方 = 完璧な考え方」という捉え方をしている人が多く存在することに気がつく。
私は「論理的な考え方 = 完璧な考え方」とは考えていない。
何故なら、
「物事が複雑になるほど、その論理が完璧かどうかの検証が困難になる。そのためロジックが完璧であるとほぼ証明できない」
からである。
よって、いつも「曖昧さ」が残ると考えている。
そして、実際に重要なのは「曖昧の大きさ」だろう。
論理構築における「曖昧さ」については、以下の項目を考える必要がある。
1.インプットの精度
2.アウトプットの精度
3.実質的に必要性な精度
わかりやすく解説するために、物理的な例をあげる。
例えば、プラスチックのような合成樹脂は、温度によって特性が変化しやすい。
したがって、合成樹脂を使用する場合、温度に注意をはらう必要がある。
そのひとつに「温度変化に対する大きさの変化」がある。一般的には、温度が上がると大きくなり、温度が下がると小さくなる特性をもつ。
通常、材料の「物性値」は材料メーカーによって提示されている。よって、温度変化による影響は概ね予測できる。
しかし、その部品の形状が複雑である場合や、その部品の場所により温度が変わるような場合は、予想が困難になる。そのため検証が必要だ。
ここで、インプットを「温度」、アウトプットを「部品の大きさ」として考える。
その部品の「温度」を測定する。どの程度の精度で測るべきだろう?
「±1℃」「±0.1℃」「±0.01℃」???
また、部品の大きさは、どの程度の精度で測るべきだろう?
「±1mm」「±0.1mm」「±0.01mm」???
答えは、「その部品に適切な精度で測る」だ。
そして、どんなに精度の高い測定器を使用しても、ある程度の「曖昧さ」が残る。この場合、それは測定誤差にあたる。
「精度が高いほど良い」と感じるかもしれなが、それは正しいとは言えない。
何故なら、時間とコストがかかるにも関わらず、ほとんど実用的な品質に影響しないからだ。
例えば、長さ30m(30000mm)の船を作るとしよう。
その船の長さが、30001mmでも29999mmでも大した問題ではないことは、なんとなく推測できるだろう。
しかし、USBコネクタの口の大きさが1mm異なるとどうだろう?
ご想像の通り、刺すことができない。これは大問題だ。
「曖昧の大きさ」は「何を目的にするか」によって変える必要がある。
目的に対して「曖昧の大きさ」が大きすぎると、アウトプットが使い物にならない。
その反面、小さく定義しすぎるとインプットを入れる作業とアウトプットを検証する作業に無駄な時間がかかる。
上記のようなミスを避けるためには、そのロジックを作る目的を理解し、それをロジック構築の途中で見失わないようにすることが必要だ。
それでは、例をあげて考えよう。
皆さんも、小学校の授業で「定規」を使った経験があるはずだ。
おそらく、合成樹脂製の定規ではないだろうか。
ある年代よりも上の方は、竹製かもしれない。
一般的に、合成樹脂は金属よりも温度変化による影響を受けやすい。定規の長さが金属よりも変わりやすいということだ。
それでは、定規の材料として合成樹脂を採用するのは間違いだろうか?
私は、そう思わない。
実際に合成樹脂の定規は大量に販売されている。
ここに「その目的上、その曖昧さが問題になるかどうか」が関係している。
せいぜい、この定規を使用する環境は「0℃〜40℃」程度、定規の長さも「15cm〜30cm」、目盛も「0.5〜1mm」というところだろう。
また、主な用途も「鉛筆で図形を描く」ことだ。
そうなると「±0.1mm」の精度は必要ない。
何故なら、目視で「±0.1mm」の目盛は読めない。
「±0.1mm」の精度で線を引くこともできない。
よって、温度変化による定規の長さの変化は実用上影響ないといえる。
また、「製造コスト」や「子供が使うという安全性」の観点からも、合成樹脂の方が金属よりも優れているかもしれない。
この様に、「曖昧の大きさ」の妥当性を判断するには、その目的をしっかりと掴んでおくことが大切だ。
そうでないと、無駄に精度が高く、高価な定規を作ってしまうことになる。
「そんなミスはしないだろう」と思うかもしれないが、複雑な物事の下では、本当によく起こる。
これは、物理的な現象に限った事ではない。
経済や人間関係にも同じことが言えるだろう。
「無限の思考力 011」へ続く。